「ペットサロン経営者からの申立て」通知・公表の概要
[通知]
2023年2月14日午後1時からBPO会議室において、曽我部真裕委員長と事案を担当した鈴木秀美委員長代行、野村裕委員、少数意見を書いた二関辰郎委員長代行が出席して、委員会決定を通知した。申立人本人と、被申立人の日本テレビからは取締役執行役員ら4人が出席した。
曽我部委員長がまず、本件放送に人権侵害は認められず、放送倫理上も問題があるとまでは言えないと委員会の判断を示したあと、今回は、当事者への直接取材が実現しないまま放送したことについて、直接取材の重要性を認識するよう求める要望が付いたこと、さらに、放送倫理上問題があるとする少数意見が付いたことを伝えた。
申立人の「犬を虐待死させたと印象付け、事実に反する放送で名誉を侵害された」とする主張については、放送内容そのものは申立人の社会的評価を低下させるものだが、公共性・公益目的性・真実相当性が認められるため、人権侵害は認められなかったと述べた。
また、申立人本人に直接取材しなかったことについては、当事者への直接取材は大原則だが例外もあり、本件では、直接取材実現に向けた申入れ、ホームページに掲載された申立人のコメント紹介、複数の関係者からの取材内容などの諸事情を総合的に評価すると「放送倫理上の問題があるとまでは言えない」との判断に至ったことを説明した。ただし、この点については、日本テレビに対して直接取材の重要性をあらためて認識して今後の番組制作に当たるよう求める要望が付いたこと、さらに、3人の委員が「放送倫理上問題あり」とする少数意見を付記したことを改めて説明した。
続いて野村委員が、「委員の間でなかなか意見がまとまらず激しい議論の末、多数意見に落ち着いた」と委員会の審理では白熱した議論が展開されたことを伝えた。
鈴木委員長代行は、委員会決定の法律的な部分を、委員長の説明とは言葉を変えて、かみ砕いた表現で双方に伝えた。
続いて、少数意見を書いた二関委員長代行がその内容を説明した。二関委員長代行は、人権侵害がないという結論は多数意見と同じだが、放送倫理上の問題についての結論は異なり、本件を直接取材がなくても許される例外ケースと認めて良いかどうか検討した、と述べた。日本テレビは「特段放送を急ぐ事情はなかった」と言いながら、直接取材を申し入れた後、実質半日程度しか待たずに放送している。放送時点で、申立人が取材を拒否したと判断できる事情があったとも言えない。また、多数意見は「複数の関係者から迫真的な告白を含む取材をしていた」とするが、シャンプーに居合わせた関係者は犬の死亡について自分たちも非難されかねず、責任を他者に転嫁したい動機がある立場だったと言えなくもない。さらに、日本テレビの取材を受けた関係者は、申立人と相対する犬の飼い主から辿り着いた関係者で、別ルートの関係者への取材は行われていない。そうした事情を考慮すれば、本件が、直接取材がなくても許される例外ケースとは認められない。したがって、放送倫理上の問題があるという結論に至ったと述べた。
この決定を受け申立人は「犬を虐待したということだけはありえないです」と訴えた上で、委員会の審理に対し「ありがとうございました」と述べた。
日本テレビは「要望と少数意見を真摯に受け止めます。少数意見が3委員になったことも重く受け止めます」と述べた。
[公表]
午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見し、委員会決定を公表した。放送局と新聞社など合わせて22社から32人が出席した。テレビカメラの取材は当該局の日本テレビが代表取材を行った。曽我部委員長はパワーポイントを使って報道陣に決定の内容を説明した。この中で曽我部委員長は「申立人への直接取材がなされなかったことが、放送倫理上どう評価されるのかが論点だった」と述べ、この部分を丁寧に説明した。
野村委員は、直接取材がなくても許される例外ケースについては、委員の間でも考え方に幅があったとした上で、「一般的にはどういったことが考慮要素になるのか深く議論し、本件に即して今回の多数意見に至った」と説明した。
鈴木委員長代行は「日本テレビは2021年の1月26日に取材を始めて、28日の朝に放送した。私たちが一番気にしたのは、この時間経過の中で本人取材はできなかったのか、ということだ」と述べた。
二関委員長代行は「直接取材がなくても許される例外ケースについて、例外のあてはめのところで多数意見と少数意見が分かれた」と述べ、「例外はあくまでも例外。あまり緩く認めたら原則と例外がひっくり返ってしまうこともあり得る。多数意見は緩すぎるのではないか」と放送倫理上の問題ありとした少数意見を説明した。
<質疑応答>
(質問)
日本テレビの受け止めは?
(曽我部委員長)
少数意見を含めて委員会の指摘を重く受けとめて番組作りに活かしていきたい、というコメントがあった。
(質問)
申立人にコンタクトを取ってから半日しか待たなかった。それが例えば1日、2日待てば、レスポンスがなくても、十分尽くしたと言えるのか。コロナ禍であっても、直接、取材に行くべきだったと言うのか。今回のケースでどこまでやったら取材が尽くせたと言えるのか。
(曽我部委員長)
なかなか難しいところで、単純に時間だけではない。諸事情を考えるべき。他のアプローチも、諸事情を考えて、できることはやったと言えるかどうかという個別判断になってくると思う。
(質問)
局として半日しか待てない事情があったのか。
(曽我部委員長)
日本テレビ側は、実際のところは放送時間との関係があったと思う。ただ、日本テレビは「その日に放送しないといけないという差し迫った事情はない」と説明しているので、両面あったのかなと思う。
(野村委員)
コロナに言及があったので誤解のないように申し上げるが、ここでいう直接取材というのは、対面という意味での直接ではない。遠隔の方法でも、動画での通話とか電話でもよかった。それらを含めた直接取材という意味。直接会わなければいけないという意味ではないという点を補足しておく。
(曽我部委員長)
一般論として、リモート取材と直接対面での取材、あるいは現地を見ての取材とは違うかと思うが、今回はそこまで意識されていない。直接取材と言うのはリモートでも構わないという認識だった。
(質問)
本人取材が免除されるかどうかの論点、多数意見と少数意見で一番評価が分かれたのはどこか。
(曽我部委員長)
多数意見は、他の取材で確度の高い情報が得られていたことを重視した。しかし、本人に言い分を述べる機会を設定するということと、他でちゃんと取材ができているということは別の話という考え方もできる。そのあたりが少数意見と多数意見の一番大きな考え方の違いかと思う。
(質問)
多数意見は、他の取材で補完し得るという立場で、少数意見は、本人取材には代えられないということか。
(曽我部委員長)
端的に言うとそういうことになる。
(質問)
「問題があるとまでは言えない」という結論で会見を開く理由は。
(曽我部委員長)
BPOの活動についての透明性の確保、また活動を広く知ってもらうために、結論に関わらず会見は行う。
(質問)
今回の少数意見は10分の3ということだが、これまでは6対4みたいなことはあったのか。
(曽我部委員長)
私の記憶では、6対4ということは記憶になく、3人の少数意見というのは比較的多いという印象だ。そういう意味では意見が割れたケースの1つだと思う。
(事務局)
少数意見の人数は、前回の77号が少数意見2人、76号も少数意見は2人だった。
(曽我部委員長)
少数意見が2人というのはあるが、3人はかなり珍しいと思う。
(質問)
申立人の反応は。
(曽我部委員長)
申立人にとっては望ましい結論ではなかったが、冷静に受け止めていただいたと思う。おっしゃっていたことは「とにかく真実を伝えたかった。虐待はしていないということを伝えたかった」ということ。直接取材がなかったことに関しては、申立て以前の日本テレビとの交渉でも謝罪を求めたが得られず残念だったと。あと、少数意見については評価されていた。
以上