第274回 – 2019年10月
「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」事案の審理…など
議事の詳細
- 日時
- 2019年10月15日(火) 午後3時~9時
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 1.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案のヒアリングと審理
2.「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」事案の審理
3.「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案の審理
4. 審理要請案件「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」~審理入り
5. 審理要請案件「俳優のドキュメンタリーに対する申立て」~審理入りせず
6. その他 - 出席者
- 奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員
1.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案のヒアリングと審理
テレビ東京は2018年5月16日午後のニュース番組『ゆうがたサテライト』で、「教祖を失う可能性に揺らぐ教団の実態」としてオウム真理教の後継団体であるアレフを特集した。アレフ札幌道場前での申立人と取材記者とのやり取りを紹介した際、申立人の顔にボカシをかけたが、音声の一部は加工のないまま放送された。
アレフ会員である申立人は、肖像権とプライバシーの侵害を訴え、テレビ東京に対し謝罪と映像の消去などを求めて、放送人権委員会に申立てを行った。これに対しテレビ東京は、「アレフは団体規制法に基づく観察処分の対象であり、報道には公益性がある」と主張。プライバシー保護については「必要かつ十分な配慮を行った」としている。
今委員会では、申立人とテレビ東京に対するヒアリングが行われた。申立人は、放送によって自身がアレフ会員であることが知られると、対外的な活動に支障を来すなど不利益を被る可能性があると訴えた。被申立人のテレビ東京は、「プライバシー保護には十分配慮した」と述べた一方、音声の一部が加工されないまま放送された点について「編集作業上のミスで反省している。放送後速やかに社内ルールを見直し、再発防止に努めている」と発言。また、申立人らのメディアに対する取材妨害の実態を伝えることも教団の閉鎖性などを伝える証左になると考え放送した、と説明した。
ヒアリング終了後、本件の論点を踏まえて審理を行い、担当委員が決定文の起草に入ることになった。
2.「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」事案の審理
対象番組は今年1月21日に秋田県内で放送された『NHKニュースこまち845』。情報公開請求等によって明らかになった過去5年間の県内の国公立大学における教員のハラスメントによる処分に関するニュースを伝えた中で、匿名で、ある男性教員に対してハラスメントが認められ「訓告の処分を受けた」と報じた。
この放送に対して男性教員が、氏名は公表されていないが、関係者には自分だと判断される内容であり、「大学で正常に勤務できない状況が作られた」として、NHKに謝罪を求めBPO放送人権委員会に申立てを行った。これに対してNHKは、「処分をされた教員はいずれも匿名で、役職や年齢に触れていないなど、個人が特定できないよう十分配慮している」と説明した。
今委員会では起草委員より委員会決定の修正案が示され、審理の結果、委員会決定を了承した。10月30日に通知・公表を行う運びとなった。
3. 「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案の審理
テレビ埼玉は、2019年4月11日午後の『News545』で、元市議が提訴した損害賠償訴訟のニュースを放送した。元市議は、その中で「自分がセクハラで訴えられたかのようなタイトル」をつけられたことや、「第三者委員会のセクハラ認定後に議員辞職したかのような誤解を与える表現」などによって、名誉が損なわれたとして申立てた。
これに対しテレビ埼玉は、ニュースの中では「元市議が被害を訴えた職員を相手取った裁判」と正確に説明しているなど、全体をみれば誤解されるようなものではなく、名誉毀損や放送倫理に反するものではないと反論している。またテレビ埼玉は「言葉の順番が違うことだけを見れば、誤解を招きかねない懸念が残る」ことは事実だとして、当該放送のあった日の午後9時半のニュースで表現を修正して放送したほか、市議会選挙直後の4月22日の『News545』の中でお詫びと訂正を行っている。
今委員会までに全ての必要書類が提出され、双方の主張が出そろったことを受け、次回委員会までに担当委員が論点等を整理することになった。
4. 審理要請案件「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」~審理入り
フジテレビは、2018年7月6日の「FNN 報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行」で、オウム真理教事件の松本智津夫死刑囚ら7人の死刑執行に関する情報を速報するかたちで放送した。
特別番組は、各拘置所からの中継、スタジオでの事件の解説、被害者遺族らの会見や反応など約1時間半にわたって生放送され、刑の執行情報は更新しながらフリップなどで伝えられた。
これに対して松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、番組は「人の命を奪う死刑執行をショーのように扱った」ことと、出演者のコメントが、遺族の名誉感情を傷つけるものであったなどと主張し、フジテレビに謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
フジテレビは、速報情報を扱う生放送の時間的、技術的制約の中で、複数の死刑囚の執行情報をできるだけ視聴者に分かりやすく伝えたと説明し、「ショーのように扱った」ものではなく、人権侵害にあたらないなどと反論している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
5. 審理要請案件「俳優のドキュメンタリーに対する申立て」~審理入りせず
ある俳優に密着したドキュメンタリーの放送(以下、「本件放送」という)に対して、番組は俳優側との間で交した約束の趣旨と違う内容であり、番組に提供した映像が許可なく使われたなどとして、家族が2019年7月22日付けで、当該放送局に謝罪を求める申立書を委員会に提出した(以下、「本件申立て」という)。
委員会は、委員会運営規則5条1項の苦情の取り扱い基準に照らして本件申立てを審理するかどうか検討し、審理対象外と判断した。理由は以下の通り。
当機構は、放送への苦情や放送倫理上の問題に対し、自主的に、独立した第三者の立場から迅速・的確に対応し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的としている(BPO規約第3条)。当該目的に鑑み、当委員会では、運営規則において、裁判で係争中の事案および申立てにおいて放送事業者に対し損害賠償を請求する事案は取り扱わないものと定めており(放送人権委員会運営規則第5条第1項第5号)、また、その趣旨を踏まえて、放送局に対する金銭要求が関係している事案については取り扱わないことを原則としている。
この点、申立人は、本件申立てに先立ち、当該放送局に対して損害賠償の支払いを請求している。
また、申立人は、本件申立てにおいて、本件放送は自身が撮影した映像を許可なく番組に使用したとして、当該映像について自身が有する権利を侵害するものであるとの主張もしている。これは、当該映像に関する著作権を主張しているものと解される。当委員会では、著作権に関わる問題については、財産的色彩が強く、上記目的を有する当委員会の審理に馴染まないことから、これも取り扱わないことにしている。
これらの理由から、当委員会は、本件申立てについて審理対象とはならないものと判断した。
6. その他
- 申立ての状況について事務局より報告した。
- 次回委員会は11月19日に開かれる。
以上