放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第84回

第84回–2014年7月

“全聾の作曲家”佐村河内守氏の7番組審理入り…など

第84回放送倫理検証委員会は7月11日に開催された。
委員会が4月に通知・公表した、フジテレビの『ほこ×たて』「ラジコンカー対決」に関する意見に対して、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することにした。
“全聾の作曲家”と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について、委員会は、企画から取材・放送に至る経緯を調査しながら討議を継続してきたが、虚偽の疑いのある番組が放送されたことにより視聴者に著しい誤解を与えたのは明らかであることから、5局の7番組を審理の対象とすることを決めた。
テレビ西日本の報道番組で、福岡市の「待機児童ゼロ宣言」をめぐる特集企画を4月に放送し、保育所までの通園時間を検証して「ゼロ宣言」に疑問を投げかけたが、6月になって、取材が不十分だったとしてお詫び放送をおこなった。この事案について討議した結果、当該局からの報告には、不明確であいまいな点が多いとして、次回の委員会までに詳細な報告を求めて討議を継続することになった。

議事の詳細

日時
2014年7月11日(金)午後5時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、藤田委員、升味委員、森委員

1.フジテレビ『ほこ×たて』「ラジコンカー対決」に関する意見への対応報告書を了承

4月1日に委員会が通知・公表した、フジテレビ『ほこ×たて』「ラジコンカー対決」に関する意見(委員会決定第20号)への対応報告書が、6月下旬、当該局から委員会に提出された。
報告書によれば、問題発覚後、社内横断的に設置された「不適切演出の検証・再発防止委員会」が、あらゆるジャンルの番組について、適切・不適切の境界線上にあるような演出事例を収集し、検証する作業を行ったという。その結果、番組ジャンル別のガイドラインを作ることは難しいと結論付けたが、今後も「演出の境界線」を議論していく常設の機関を設置することになった。また、「時制の変更(操作)」「視聴者の感情の逆なで」「出演者との合意形成不全」など、留意すべき8つのポイントをあげて注意を喚起するとともに、外部プロダクションによる制作番組の対応策も具体的に明記されている。
委員会は、この報告書を了承し、公表することとした。

2.「全聾の作曲家」と称していた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題で、5局7番組を対象に審理入り

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として公表していたことが発覚した問題について、委員会は、討議を継続しつつ事実関係の把握のための調査を行ってきた。5局の7番組について、企画から取材・放送に至る経緯についての報告書が提出されたが、さらにヒアリングへの任意の協力を要請し、承諾が得られた2局2番組については既に実施した。しかし、残る3局からは、協力を得られなかったり、議論の行方を見守るため保留したいとの意向が示されたりしたため、委員会では、今後の対応策を議論・検討し、以下のとおり決定した。
もともとこの事案は、虚偽の内容の番組が放送されたことにより視聴者に著しい誤解を与えたのであるから運営規則第5条第1項にいう審理対象事案であることは明らかであったが、虚偽を見抜けなかったことについて相応の理由があるのではないかと考えられたことから、委員会は、まず任意の協力による調査を先行させて、その結果を踏まえて最終方針を決定しようと考えていた。各局がそろって誤った番組を制作して社会に大きな影響を与え、特に、番組に善意で協力した人々の心を傷つける結果になった事実を踏まえれば、委員会として何らかの形での意見表明が必要であることは疑いがない。「全聾の作曲家」と信じて番組を制作したこと自体について放送倫理違反を問うことはできなくても、視聴者に著しい誤解を与えた事実がある以上、与えた誤解を解消するために、番組のどこがどう誤っていたのか、そのような誤りをもたらした原因はなにかについて真摯な反省に基づく調査を自主的に行ない、その結果について視聴者に対して説明する責任があるだろう。その責任は果たされているのか、今後このような過ちを繰り返さないための対策はできているのかといった点も含めて、運営規則に基づく調査が必要である。従って5局7番組を審理の対象とする。
委員会は、同規則第6条第3項に基づいて、番組の企画から取材・放送に至る経緯はもちろん、放送後の対応についても詳細に把握する作業を続ける。

審理の対象となった7番組は、以下のとおりである。(放送順)

  • TBSテレビ『NEWS23』「音をなくした作曲家 その”闇”と”旋律”」(2008年9月15日)
  • テレビ新広島『いま、ヒロシマが聴こえる・・・』(2009年8月6日)
    <フジテレビを含む多くの系列局が日時を変更して放送>
  • テレビ朝日『ワイド!スクランブル』「被爆二世・全聾の天才作曲家」(2010年8月11日)
  • NHK総合『情報LIVE ただイマ!』「奇跡の作曲家」(2012年11月9日)
  • NHK総合『NHKスペシャル』「魂の旋律~音を失った作曲家~」(2013年3月31日)
  • TBSテレビ『中居正広の金曜日のスマたちへ』「音を失った作曲家 佐村河内守の音楽人生とは」(2013年4月26日)
  • 日本テレビ『news every.』「被災地への鎮魂 作曲家・佐村河内守」(2013年6月13日)

[委員の主な意見]

  • 任意でのヒアリングへの協力要請であったので、応じないと言われれば、各局の報告書の内容以外にも確認したい点がある以上、今後は運営規則に則った方法で進めるしかないのではないか。

  • 佐村河内氏が「全聾の作曲家」であることについて事実と信じるに足る相応の理由や根拠が存在した可能性もあるので、審議・審理入り等の決定をする前にヒアリングへの任意協力を求めたことが、理解してもらえなかったとすれば残念だ。

  • 各局と取り交わしている「放送倫理検証委員会に関する合意書」の第7条に、「甲(加盟各局)は、前6条に定めるほか、委員会の審議、審理等の活動に必要な最大限の協力をする」とある。この趣旨からしても協力が得られると考えたのだが。

  • この事案が本来、運営規則第5条第1項の審理の対象にぴったり当てはまることは明白である。審理入りを決定し、運営規則第6条第3項に則ってヒアリングを要請して調査活動を続けるべきである。

  • 現在に至っても、佐村河内氏が作曲していなかったと言う点について訂正とお詫びがなされただけで、各番組のどこが本当でどこが虚偽だったのか、明らかにされていない。虚偽放送をしたことは避けられなかったとしても、視聴者に著しい誤解を与えている以上、その誤解を解消するに足りるだけの説明をする責任がある。検証結果を放送した局もあるが、視聴者に対する説明責任という観点からは十分とは言えないと感じた。こうした点からしても審理は必要だろう。

3.福岡市の「待機児童」問題の特集で、取材が不十分だったとお詫び放送したテレビ西日本の報道番組について討議

テレビ西日本の報道番組『土曜NEWSファイルCUBE』(2014年4月12日放送)で、「待機児童ゼロ宣言」をしている福岡市に1000人を超える「未入所児童」がいる問題を特集企画として伝えた。
その中で、わが子が未入所児童に分類された家族を取材し、市から紹介された保育所までの所要時間を、女性キャスターが実際にバスを乗り継いで検証した。未入所児童というのは、「自宅から30分以内に入所可能な保育所があるのに、私的な理由で待機している場合」との基準があるが、市から紹介された保育所まで約1時間かかったことを指摘して、「待機児童ゼロ宣言」に疑問を投げかけた。
福岡市から抗議を受けて、当該局は社内調査を実施した結果、6月21日の同番組内で「事前取材が不十分で、結果として一方的な内容となった」、バスの検証取材についても「複数回実施するなど、より慎重な取材が求められるべきだった」などとする「お詫び放送」を行った。
委員会では、「行政機関に問題提起する姿勢は評価できるだけに、脇の甘い取材になったのはとても残念」「取材不足だけでなく、行政への対応やお詫び放送にも問題があるのではないか」など、さまざまな意見が出されたが、当該局からの報告書には不明確であいまいな点も多いとして、委員会からの質問書を作成し詳細な報告を求めたうえで、討議を継続することになった。

[委員の主な意見]

  • 特集企画の問題意識や実際に検証する姿勢は積極的に評価するが、あまりにも脇の甘い取材だったといわざるを得ない。調査報道とまではいえないにしろ、行政に疑問を投げかける内容を放送する以上、もっと脇を締めて取材に当たるべきだったのではないか。

  • 行政機関の施策に問題提起をするのはメディアの重要な役割だ。それだけに、メディア側が取材に抑制的にならないよう、支援する姿勢も必要ではないだろうか。

  • 市側への取材不足だけでなく、取材対象者への事前取材もあまりに不十分ではなかったか。行政機関に突っ込まれないよう、事実関係をきちんと押さえた、深みのある取材ができなかったのだろうか。

  • 市側から抗議がきて、お詫び放送に至るまでなぜ2か月もかかってしまったのだろうか。局側の対応に疑問が残る。

  • お詫び放送では、どのような点の取材が不十分であったかなどの説明がない。視聴者不在のまま、市側にだけお詫びしているようにも感じられる。

  • 取材不足をお詫びするだけでなく、再度の検証や別の視点からの検証も行うなどして、当初の問題意識をより深めていくようなお詫び放送も考えられたのではないだろうか。

以上