放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会  決定の通知と公表の記者会見

2020年2月13日

TBSテレビ『消えた天才』映像早回しに関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、2月13日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会から神田安積委員長、鈴木嘉一委員長代行、岸本葉子委員の3人が出席し、TBSテレビからはスポーツ局担当の取締役ら4人が出席した。
神田委員長は委員会決定について、「今回の放送は、1993年に出されている『放送番組の倫理の向上について』と題する提言と民放連の放送基準(32)に抵触し、過剰な演出であるとして放送倫理違反があったと判断した」と説明した。続いて、岸本委員が「意見書の立場は、個人に責めを帰するのではなくその人がどうしてそうするに至ったか背景や構造的な問題がないかを探り学ぼうというものである。現在の技術環境に合わせたチェックの仕組みを構築するのはすぐにできることではなく、そうした状況にあっては個々人のモラルによるところが大きい」と述べた。続いて、鈴木委員長代行が「今回のように当該局が自ら問題のありかを探って公表するケースはそう多くはない。あるスタッフがプロデューサーに問題を報告してから公表まで1週間であり、ものすごいスピード感である。報告しなければいけないと思ったスタッフの感覚は健全であり、こうした感覚は今後いろいろなことに生きる」と述べた。これに対して、TBSテレビは「番組作りというのは、小さいかもしれないけれど、一個一個の判断の連続で最後に番組になっていくものなので、その判断が技術革新の便利さゆえに、安易になってはいけないということを教えていただいた。技術は進歩するが、立ち止まって番組作りのプロセスの中で、作り手が何を大事に、何を伝えるかということをきちんと踏まえて作れるような制作者のリテラシーアップと、番組を通じての視聴者への還元にこれから努めていきたいと思う」と述べた。
続いて、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には25社39人が出席した。
はじめに神田委員長が意見書に沿って、委員会の判断、番組の詳細、背景と問題点等を説明した後、「意見書の最後の段落に『技術革新が下げた心理的なハードルは、個々人のモラルによって押し上げ、保たなければならない状況にある』と書いている。『モラル』は『放送倫理』に置き換えることが可能であり、あらゆる放送局で妥当する普遍的な課題をつきつけている。各局各人に放送倫理に基づく対応を自主自律の下で検討してもらい、再発がないようにと強く願っている」と述べた。続いて岸本委員が「意見書に四つの背景と問題点を書いた。特に後の二つ(「技術革新と心理的ハードルの低下」「チェックの仕組みの限界」)は局や部署を問わず放送に携わる人が共有する課題だと思っている。今回の特徴は、問題が内部での気付きによって発覚し、すみやかに調査を開始したことである。違和感を感じたことを上司に上げる勇気が今回の特筆すべき自主自律的な対応につながった。こうした気づきとそれを口にして、問題の共有・解決につなげていく力学が働いたことをとても頼もしく思っている」と述べた。鈴木委員長代行は「ヒアリングで、早回しにかかわった人たちに悪意はまったくなく、むしろ"消えた天才"に対して、こんなにすごかったんだとつい強調したいためにこういう行為に走ったと改めて確認できた。組織的に確立された手法が継承されているわけではないということがわかった。スポーツ局内では、スピードを変える加工は悪い意味ではなく日常的に行われていた。スポーツ中継のリプレイでの早送りやスローモーションなどは、視聴者も了解しているから手法として認められているが、今回はまさかここで速めているとは思わないところで行われた。視聴者との約束を超えた映像加工であり、過剰な演出であると言わざるを得なかった。技術的に可能になればなんでもやっていいわけではなく、やっていいことと悪いことを当該局だけでなく広く放送の現場の人に考え”てほしい」と述べた。

記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: (意見)当該局の自主自律的な対応を今回のような形で意見書で評価して盛り込んでもらえると、委員会がこういう対応を自主自律的なこととして受け止めていることがよくわかる。
A: 意見書の中でも常に当該局の自主自律的な姿勢は適切に評価するように努めている。審議入りした案件だけではなく、討議入りするかどうか、また、討議から審議入りするかどうかのステージにおいても自主自律的な取り組みをしているかどうかを重視している。討議入りした案件について審議入りするか否かの基準については、2009年7月に川端前委員長が委員長コメントを出している。ひとつは放送倫理違反の程度の大小、もうひとつは自主自律的な取り組みをしているかを勘案して審議入りするかどうかを判断するとしている。審議入りした案件において、放送倫理違反があるとしても、局の事後的対応の評価を明らかにして、すべての局に自主自律的な姿勢の重要性と大切さを伝えていきたいと思っている。(神田委員長)
   
Q: 審議入りの経緯を改めて聞きたい。どういうきっかけでBPOに伝わったのか。元々野球の投手の件を調べた結果、ほかの3件が明らかになったのか。
A: 元々当該局が4件を公表した。それを基にBPOに報告書を提出してもらった。その時点で局の一連の対応はわかっていたが、もうひとつの審議入りの条件である、放送倫理違反の程度が重いか軽いかについて、委員会としては、初めてのケースであるし、こういう手法で早回しが行われたことに驚きがあり、事後対応はよいけれども審議入りせざるを得ないと判断した。技術革新の問題には、当該局だけではなく広く放送界に警鐘を鳴らすテーマがあるのではないかと考えて審議入りした。(鈴木委員長代行)

以上