BPO_20周年記念誌
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075BPOの20年 そして放送のこれから放送そしてBPO 14のメッセージ公益通報の窓口を整え、広く周知していたという。連絡先の電話番号などを記した名刺サイズのカードも作り、広く関係者に配布。当のスタッフもこのカードを常に持ち歩いていた。それなのに、スタッフは相談や連絡を躊ちゅう躇ちょした。なぜか。周囲の関係者から出たのはこんな声だった。通報したとしても握り潰され報復される、自分はきっと何らかの不利益を被る、結果的に番組そのものがなくなり自分の雇用に影響する……と。私の眼前で身を縮めていたこのスタッフも、番組制作会社の関係者だった。放送局側の幹部をトップとする巨大なヒエラルキー構造のなかでは、末端近くに位置している。そうした彼らの多くは制作会社の社員や非正規雇用、派遣スタッフなどであり、そろって不安定な労働環境のなかにいる。おそらく彼らのうち少なくない人たちは、明日の糧を失わないために、いつの間にか聞き分けのよいスタッフになり、それを演じるようになったりしたのだろう。意見を控え、議論を避け、うるさいやつだと思われないように(表面上はにぎやかに振る舞っていたとしても)息を潜めながら。個々人が自由を失うと、組織内では沈黙と同調が広がり、忖度が勢いを増す。そんな放送局からは、多様で斬新な、深みのある番組は生まれまい。法や制度のはざまで苦しみ、もがいている人々の代弁者として、果敢に政治家や当局者に切り込んでいくニュースも出ないだろう。社会のアンフェアな構造に目を向け、問題を鋭く可視化する報道も先細るかもしれない。必要なのは、あらゆることに「疑問」を抱き、組織内も含めてあらゆる人々に向かって「問い」を発し

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