BPO_20周年記念誌
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060とから、FD時代はついに終焉を迎えた。FD廃止の影響FDによる制約がなくなったことで、イデオロギー主導の意見を主張する番組が増加した。とりわけ参入障壁の低いラジオでは、保守派の司会者が保守的なリスナーを煽動する「トークラジオ」が隆盛を極めた。最も有名な司会者は反リベラル・反フェミニズム・反環境の急先鋒として知られたラッシュ・リンボーだろう。その影響力は、一九九四年の中間選挙で共和党が四〇年ぶりに議会の上下両院で多数派を制した立役者の一人と目されるほどである。同氏は二〇二一年に他界したが、その前年、ドナルド・トランプ大統領は同氏に「大統領自由勲章」を授与した。同章は文民に贈られる最高位の勲章である。加えて、一九九六年には通信法が改正され、複数のメディアの所有が可能になった。すると、保守系の団体や財団が小さなラジオ局を買収し、「情報インフラ」だったラジオが「政治インフラ」へと転ずるようになった。二〇二三年九月に経営の一線から引退表明したルパート・マードックが米国で保守系のFOX放送を設立するために米国に帰化したのは一九八五年だが、その後、メディア・コングロマリットのニューズ・コーポレーションを立ち上げるなど、まさに「メディア王」となった。保守派に対抗して、リベラル派もさまざまなケーブル・ニュース・ネットワークなどを立ち上げ、政治化を進めた。その結果、メディアは分極化し、エコーチェンバーが広がり、今日の米国は保守派とリベラル派の間でごく基本的な事実や現実の認識すら交わることのない「パラレルワールド」の様相を呈するに

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