BPO_20周年記念誌
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0502.SNSと制作現場の萎縮現在、放送番組制作者たちがもっとも神経を尖とがらせているのが、X(旧Twitter)をはじめとするSNSでの拡散と炎上だろう。キャンセルカルチャーと呼ばれる、著名人や団体の言動をたとえ過去のものであっても断罪し社会から排除しようとする潮流ともあいまって(キャンセルカルチャー自体は社会への抗議として機能する場合もある)、近年SNS上で無関係な人々が一方的に正義を振りかざして特定の対象を攻撃して自己承認欲求を満たすという行為が目立っている。番組や出演者に対する誹謗中傷や攻撃ともとれる過度な批判は増加する一方で、もはや歯止めがきかないようにも見える。たとえばNHK連続テレビ小説に対する「#反省会」というタグがすぐに思い浮かぶだろう。近年では「#ちむどんどん反省会」が異様な盛り上がりを見せたが、ドラマの内容というよりは、主人公の暢子がレストランの厨房で働いているにもかかわらず髪を束ねていないなど、一般社会での常識を振りかざして「間違い」を断罪するケースが目立った。もはやフィクションであることは前提にも免罪符にもならず、あらゆる間違いを許容しない不寛容な空気に番組は晒さらされていると言っても過言ではない。とりわけフジテレビが二〇二〇年五月十九日に放送した『TERRACE HOUSE TOKYO 2019|2020』に出演していた女性の番組内でのふるまいをめぐってSNS上で批判が殺到し、その女性が放送後に亡くなったという出来事は痛ましく、BPO放送人権委員会の審理事案となった。結果的に番組自体に人権侵害は認められなかったものの、「出演者の身体的・精神的な健康状態に関する配慮

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