BPO_20周年記念誌
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150員を務め、また、社会的な注目度も高かったことでも印象的であるが、放送人権委員会の「判例」としても非常に重要であり、また、課題を残すものでもあった。第1に、本事案は、リアリティ番組に出演していたプロレスラーが、番組内の過剰な演出がきっかけでSNS上に批判が殺到した結果、亡くなったとして、遺族が出演者の人権侵害を訴えたものである。放送人権委員会の審理対象として元々想定されていたのは、番組によって一方的に取り上げられて、あるいは同意の上で一時的に出演した場合に、人格権を侵害されたようなケースであり、番組に自発的・継続的に出演した人物の取り上げ方の問題ではなかった。もちろん、こうした人物であっても、番組によって人権侵害を受けたのであれば、審理対象になると考えられ、本事案では実際に審理が行われた。しかし、このような事案では、番組の制作過程をより長期間にわたって詳細に調査する必要が生じ、放送人権委員会の通常の審理手続とはそぐわない面がある。つまり、放送人権委員会では、申立人と被申立人(放送局)との双方で主張書面のやり取りを二往復した上で、それぞれ1回ずつのヒアリングを行って決定に至るのだが、これでは番組制作過程を十分に明らかにすることは困難である。それに加えて本事案では、申立人が亡くなってしまっているので、制作過程について申立人側の主張を聞くこともできないという困難も加わった。放送倫理検証委員会の審理では、放送局に出向いて複数の制作関係者に個別にヒアリングをするようであるが、放送人権委員会ではこうした方式はとっておらず、事実認定につき大きな限界がある。

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