BPO_20周年記念誌
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119BPOの20年 そして放送のこれから放送そしてBPO 14のメッセージ清水さんが大切にしているのは「間」だった。間から生まれる「余韻」があるほど言葉は読者に突き刺さる。省略こそ美なのだと知った。詩人であり、俳人でもある清水さんはそこに「自分の倫理」を貫いていた。生成AIが話題である。自分たちの仕事が奪われかねないと、ハリウッドでは全米脚本家協会がストライキを起こしたが、果たしてAIに生番組を作ることができるのだろうか。人工知能に人間性を持たせるにはどうしたらいいのか。「AIに嘘をつかせればいい。そうすれば人間らしくなる」という話もある。だが、身体を持たず、涙も流さず、欲望も微笑みもないAIが嘘をつくことができるのだろうか。他愛のない嘘こそ難しい。阿あ吽うんの呼吸と機微のある嘘だからこそ受け手はニヤリと笑うものだが、それでは「嘘と倫理との関係」はどうなのだろう。フランス語の辞書を引けば「良心」と「意識」は同じ言葉、〝Conscience(コンシアンス)〟である。意識が良心に基づくのであれば、とっさについた嘘も個人の倫理の範はん疇ちゅうに入ると考えるべきなのだろう。「嘘も方便」とは仏教の考えからきている。衆しゅ生じょう済さい度どのためには方便(手段)として嘘は認められると。「衆生」とはこの世の生き物すべてを指し、「済度」は迷っている生き物を救って悟りの境地へ導くことなのだという。仏教の高僧でもあった瀬戸内寂聴さんは「嘘をついて生きるのは人間の姿です」と語った。そして、彼

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