BPO_20周年記念誌
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115BPOの20年 そして放送のこれから放送そしてBPO 14のメッセージ「ご依頼の件ですが、ちまたに言われている社会通念的倫理ではなく、私は『己の倫理』に忠実に生きている人物に興味があり、これまで番組で表現してきたのです。ラジオは一対一のメディアなので、個人の価値観を表現するには向いています。それでも良ければということでいかがでしょうか?」すると、「良いじゃないですか。それでお願いします」との思いがけない返信が。聞けば、担当の平松さんはフジテレビ時代、社会部所属の名うてのジャーナリストだったというではないか。まんまと彼の術中にはまり、こうしてパソコンのキーボードに向かっている。依頼を受けた時、私は小説『J』を上梓したばかりだった。もう世間に知られてしまったが、Jとは数々の話題作を放ったベストセラー作家の瀬戸内寂聴さん。二〇二一年、九十九歳で亡くなった彼女が、八十五歳で出会った青年との最後の恋を描いた小説だが、それは紛れもなく不倫の物語だった。「ここには『自由』がある。出家程度では収まらなかった恐ろしい生命力が伝わってくる。書き手の表現力もフリージャズに似た『自由』がある。早く書いてください。Jも待っている」「最後の情夫であり、妻子ある男の、滑稽で情けなくて、でも本気の恋」。そんな編集者の声に励まされた3年間だった。  図書館に通ってほとんどの著作を読み込んだ。Jはいまだに多くの読者を持つ大作家である。隙すきがあってはならない。相手の男性へのインタビューは十七回に及び、取材を重ねながら事実の裏付けも綿密に行った。これは私がラジオの世界に身を置いていたからこそ、書くことができた小説なのかもしれない。Jと彼

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