放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第138回

第138回–2019年6月

日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』の審議

第138回放送倫理検証委員会は6月14日に開催され、海外ロケをした「祭り企画」にでっち上げの疑いがあると週刊誌が報じ、審議を続けている日本テレビの『世界の果てまでイッテQ!』について、担当委員から意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、7月初めにも当該放送局へ通知して公表の記者会見を開く見込みとなった。
長野放送がローカルで放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』については、放送内容が番組か広告か曖昧であり、考査が適正だったか検証する必要があるとして、前回の委員会で審議入りが決まった。その後、担当委員が当該放送局や制作会社の担当者に対してヒアリングを行い、それを基にまとめた意見書の構成や原案の一部が示され、意見交換を行った。
街頭取材で、取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送した読売テレビのローカルニュース番組『かんさい情報ネットten.』について、当該放送局から提出された報告書などを基に討議した。その結果、プライバシーや人権への配慮を著しく欠いた不適切な放送であり、この内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして、審議入りすることを決めた。
番組内で差別的表現があったことをお詫びしたテレビ朝日の『アメトーーク!』について、追加報告書が提出されて委員会で議論したが、さらに討議を継続することになった。
統一地方選挙の告示約3週間前に立候補予定の現職知事のインタビューを放送したテレビ東京の『日曜ビッグバラエティ』および立候補していた現職の知事を、告示の翌日に番組内で取り上げたCBCテレビの『ゴゴスマ』について、当該放送局に報告書の提出を求めて討議した。報告書によると、前者については、制作スタッフは選挙を巡る放送基準は認識していたが、告示の3週間前であることに思いが及ばず放送に至ったとのことであり、後者については、制作スタッフは選挙期間中の候補者を扱う場合には注意が必要との認識はあったものの、紹介した知事が候補者かどうかの確認を怠ったという。委員会では、最近の討議事案と類似のミスが繰り返されていることに厳しい意見が出されたが、いずれの番組も他の候補者との間で実質的に公平・公正性が害されるおそれがあるという程度にまで達しておらず、今後、各放送局が、社内のチェック体制を構築して再発防止に努めるとしていることから、今回は審議に入らず、議事概要に主な意見を記載して改めて注意喚起をすることとし、討議を終了した。

1.「海外ロケの企画をでっち上げた疑いがある」と報じられた『世界の果てまでイッテQ!』を審議

日本テレビの『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』で、2017年2月に放送された「タイのカリフラワー祭り」と2018年5月に放送された「ラオスの橋祭り」にでっち上げの疑いがあると週刊誌が報じ、委員会は、この2つの「祭り企画」を対象に審議を続けてきた。
この日は、前回までの議論を受けて担当委員が作成した意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しをしたうえで、7月初めにも当該放送局へ通知して公表の記者会見を開く見込みとなった。
なお、神田委員長は当該番組の審議には参加していない。

2.「内容が番組か広告か曖昧だ」とされた長野放送の持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』を審議

長野放送が3月21日にローカル放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』について視聴者から「放送番組なのか広告なのか曖昧だ」という趣旨の意見がBPOに寄せられた。当該番組は30分枠の編成で、2分間のステーションブレークを除いた28分間には、中CMがなかった。前回の委員会で、当該番組で取り上げている特定の社会保険労務士法人の事業紹介は、民放連の放送基準に照らして広告放送であるとの疑いが大きい内容になっているのではないか、考査が適正だったのか検証する必要があるとして、審議入りを決めた。その後5月末から6月初めにかけて、担当委員が長野放送社員や番組を制作した制作会社の担当者にヒアリングを行った。
今回の委員会では、担当委員からヒアリングの概要が報告され、併せて、長野放送から再発防止策に向けた改善策などが記載された追加報告書が提出されたことも報告されたうえで、意見書の構成や原案の一部が示され、意見交換が行われた。次回も引き続き意見書案を中心に審議する予定である。

3. 人権にかかわる不適切な取材と内容を放送した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』について審議入り

読売テレビが5月10日に放送した夕方のローカルニュース番組『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画について、「プライバシーおよび人権を侵害しているのではないか」という批判的な意見がBPOに対して多数寄せられた。
「迷ってナンボ!」と題されたコーナー企画は、お笑い芸人2人が街頭に出て、人々のさまざまな疑問や迷いを探し、その場で解決していくというもので、当該番組は、大阪市内の飲食店の女性に依頼され、男性常連客の性別を確認するというものだった。その際、名前や住所、異性の恋人の有無を聞くなどしたうえ、本人の健康保険証の性別欄を撮影し、胸部に触るなどした。ロケのVTRが終わって映像がスタジオに切り替わった際、レギュラー出演している男性コメンテーターが「許し難い人権感覚の欠如だ。よくこんなもの放送できるね。報道番組としてどういう感覚なのか」と厳しく叱責し、司会のアナウンサーなど他の出演者がその指摘に特に応じることなくコーナーの放送は終わった。
これを受けて読売テレビは5月13日、取材協力者に謝罪するとともに、番組ホームページに謝罪コメントを掲載、その日の同番組冒頭でも「人権的配慮に欠けた不適切な放送であった」と謝罪した。5月15日には番組を拡大し、問題を指摘したコメンテーターも出演して、なぜ当該コーナーを取材し、放送に至ったのかについて検証する番組を放送した。また、「迷ってナンボ!」という当該コーナーを当面の間休止すると発表した。
さらに社内に、「検証・再発防止検討チーム」を設置して、人権に関する全社研修会の実施や映像チェック体制の強化を図るとともに、独自の検証結果を公表した。また、視聴者からの意見に答える番組『声 あなたと読売テレビ』で、寄せられた意見を紹介し今回の問題点や再発防止策などについて改めて視聴者に説明した。
委員会では、当該放送局から提出された映像素材や報告書を基に討議が行われ、委員から「性的少数者の描き方に根本的な問題がある」「あまりにもマジョリティーの立場に立ちすぎた放送で重大性は群を抜いている」「放送内容のみならず制作過程に大きな問題があるのではないか」などの批判的意見が相次いだ。また、「深刻なのはコメンテーターや視聴者から指摘されるまで出演者だけでなく制作陣が問題に気づいていなかったことだ」「社会の批判的感覚と局内の感覚に深いギャップがある」との指摘もあった。
討議の結果、当該放送局の自主・自律の迅速な対応は評価できるが、読売テレビの放送基準が準拠する民放連放送基準の条項に複数抵触するおそれがあるとの意見や、十分な議論や反対意見が出された形跡がないまま、この内容が放送されるに至ったかを解明する必要があるなどの意見が出され、審議入りを決定した。

4. 高校中退芸人の差別的表現をお詫びしたテレビ朝日の『アメトーーク!』を討議

テレビ朝日は2月14日に放送したバラエティー番組『アメトーーク!』の中で出演者の女性芸人が自身の体験を語った際、自身が中途退学した高校の実名を挙げ、学校側が不良生徒対策をしているかのような発言をした。また司会者も、その方面に行かない方がいいという趣旨の差別的な表現をした。さらに、他の出演者の「道できれいな10円を12円で売っている」人がいたとの発言にその様子をイメージするかのようなイラストを挿入するなどの内容を放送した。
当該放送局の報告書によると、3月に当該高校などから謝罪・訂正を求められ、番組担当者が関係者と面会して直接謝罪したという。当該高校などからは一連の対応に理解を示してもらったという。
委員会では、当該放送局から提出された追加報告書を基に意見交換したが、討議を継続することになった。

5-1. 統一地方選挙の告示約3週間前に現職知事のインタビューを放送したテレビ東京の『日曜ビッグバラエティ』を討議

テレビ東京はバラエティー番組『日曜ビッグバラエティ』で、3月3日に『不法投棄を許すな!ヤバいゴミぜんぶ拾う大作戦~東京湾ダイバー70人で潜って一斉清掃SP~』を放送した。この番組の「三重県の不法投棄地帯で奮闘する不法投棄Gメンに密着」という特集コーナーの中で、三重県知事がインタビュー出演した。番組はゴミの不法投棄を取り締まる三重県職員の奮闘ぶりを伝えるもので、その一部として現職知事のインタビューが37秒間放送された。
放送日は、統一地方選挙で三重県知事選挙の告示まで約3週間前だった。
委員会は、当該放送局に対して、告示の1カ月前を切った時期に現職知事を放送した経緯について、報告書と番組DVDの提出を求めて討議した。
報告書によると、制作会社のディレクターやプロデューサー、テレビ東京の社員も含め番組スタッフは民放連放送基準「(12)選挙事前運動の疑いがあるものは取り扱わない」の規定は認識していたが、知事のインタビュー出演が選挙事前運動にあたるとは考えなかったという。このため放送日が「告示の1カ月前を切った、3週間前の放送」になってしまう事に思いが及ばず、放送に至ったとしている。
選挙関連の放送を巡っては、これまでに複数の委員会決定や委員長コメントを出しており、つい最近の討議事案においても改めて注意喚起したにもかかわらず同様のミスが繰り返されていることについて厳しい意見があった。他方で、放送倫理違反の有無の判断にあたっては、候補者が番組に出演しているかどうかという形式的な観点からの検討だけでは十分ではなく、視聴者、有権者に与える印象の程度を考慮して、他の候補者との間で公平・公正性が害されるおそれがないかどうかという実質的な観点も合わせて判断すべきであること(決定第9号)を踏まえ、視聴者に与える印象の程度、放送の時期が選挙期間中であるか否か、露出の時間の長短、番組の性質が候補者への投票を誘導するような影響を生じるものか否か等の観点から検討すると、本件番組は、他の候補者との間で公平・公正性が害されるおそれがあるという程度にまで達しているとまでは言えないだろうとの判断で一致した。また、当該放送局は、今回の事案を受けて、社内に向けた注意喚起をより一層強化するとともに社内のチェック体制を構築し、制作会社に向けて説明する機会を設けるなど、再発防止に努めるとしている。
以上を踏まえ、委員会は、委員からの厳しい意見を議事概要に公表して、当該放送局に対して、当該担当部門だけでなく、全社をあげて選挙の公平・公正性の確保のために自主・自律に定めたルールが守られるよう注意喚起をすることとして、今回は審議に入らず討議を終了した。

【委員の主な意見】

  • 選挙は現職に有利であるとされており、インタビュー取材の相手は立候補予定者の現職知事ではなく、現職知事以外の責任者でも良かったはずではないか。

  • 現職の知事が自治体の最高責任者であることを踏まえて、懸案となっている不法投棄問題についてインタビュー取材を申し入れることはあり得ると考えられるが、今回のように、現職知事が政策や政治活動の実効性について発言することになれば、告示前であっても選挙の事前運動的効果が強いと視聴者に受け取られかねず注意が必要だ。

  • 統一地方選挙の時期である以上、日頃は守備範囲外である地方選挙に対しても感覚を鋭敏にすべきであるにもかかわらず、告示の3週間前であることなどについて意識が希薄であったことは問題であり、残念である。

  • 今年2月の委員会の選挙関連事案に際して注意喚起した意見が生かされておらず、大変遺憾である。

5-2. 統一地方選挙期間中に現職候補者の顔写真と名前を放送したCBCテレビの情報番組『ゴゴスマ』を討議

3月22日に放送されたCBCテレビの情報番組『ゴゴスマ』で、秋篠宮佳子さまの大学卒業の話題に関連して現職の鳥取県知事を扱った。番組では、佳子さま卒業のニュースを受け、佳子さまに関するエピソードのひとつとして「公務で見事な切り返し」と題して、鳥取県を訪問された際の知事とのやり取りを紹介した。その際、知事の顔写真と名前が書き込まれたフリップを約31秒間放送した。放送当日は、鳥取県知事選挙が告示された翌日でありフリップで紹介した知事も立候補していた。
委員会は、当該放送局に対して、統一地方選挙期間中にもかかわらず放送した経緯について、報告書と番組DVDの提出を求めて討議した。
報告書によると、番組制作スタッフは選挙期間中の候補者を扱う場合には十分な注意が必要であるという認識はあったものの、知事本人が選挙期間中の候補者かどうかという確認ができていなかったとしている。
本件番組に対しても、これまでに複数の委員会決定や委員長コメントを出しており、つい最近の討議事案においても改めて注意喚起したにもかかわらず同様のミスが繰り返されていることについて厳しい意見があった。そのうえで、上記と同様に、視聴者に与える印象の程度、放送の時期が選挙期間中であるか否か、露出の時間の長短、番組の性質が候補者への投票を誘導するような影響を生じるものか否か等の観点から検討すると、本件番組は、他の候補者との間で公平・公正性が害されるおそれがあるという程度にまで達しているとまでは言えないだろうとの判断で一致した。
そして、当該放送局は、今回の放送では名前や顔写真を出さない手法もあったと反省しており、番組制作にかかわるスタッフ全員が改めて選挙の公正性について高い意識を持つように注意喚起をしたという。また、国政選挙だけでなく地方選挙も含めた全国の選挙スケジュールを可視化して各番組で共有するとともに、このようなミスを起こさないために運用している番組内容確認表に「選挙期間中の候補者の出演、紹介、映り込みの有無」という確認項目を追加するなど、チェック体制の強化を図ったとしている。
以上を踏まえ、委員会は、委員からの厳しい意見を議事概要に公表して、当該放送局に対して、当該担当部門だけでなく、全社をあげて選挙の公平・公正性の確保のために自主・自律に定めたルールが守られるよう注意喚起をすることとして、今回は審議に入らず討議を終了した。

【委員の主な意見】

  • 単純ミスであるとしても、告示の翌日という選挙期間中であることは軽視できない。

  • 政治家の写真を扱う際に、選挙に関係しているかどうかを調べることは、それほど難しい作業ではないと思う。

  • 今年2月の知事選挙に関連した討議事案があったことをBPO放送倫理検証委員会の議事概要で知っていたとのことであるが、その教訓が自らの番組作りに生かされなかったのは大変遺憾である。

  • 今年は参議院議員選挙もあるが、選挙事前運動に関する不注意には十分気をつけたうえで、選挙報道に関して萎縮することなく積極的に取り組んでもらいたい。

以上