北海道地区テレビ・ラジオ各局と意見交換会開催
放送倫理検証委員会と北海道地区テレビ・ラジオ各局との意見交換会が、2018年11月29日、札幌市で開催された。NHKと民放をあわせ放送局から51人が参加し、委員会からは升味委員長代行、鈴木嘉一委員、中野剛委員の3人が出席した。
前半は、9月に起きた北海道胆振東部地震にまつわる放送上の諸問題について、後半は番組制作におけるインターネット上の情報利用を主な議題として意見交換を行った。
北海道胆振東部地震については、参加各局から、日本で初めて発生したブラックアウト(大規模な電源喪失)によって引き起こされた、放送上のさまざまな問題が報告された。地震発生からおよそ20分後、全道ですべての電力供給がストップしたが、各局は自家発電等に切り替えることによって放送態勢を維持し、地震による被害の状況、食料や水の供給などの生活情報を伝えた。しかし家庭等への電力供給も停止し、放送はするものの視聴者がテレビをみることができないという前代未聞の状況が発生したため、テレビ各社はインターネットを使って番組の同時配信を行った。電力復旧の見通しが立たない中、発電用燃料の確保など各社の放送態勢維持のための作業は困難を極めたという。
こうしてインターネットを中心に番組や情報の提供が行われる中、SNS上では「数時間後に大きな揺れが来る」、「まもなく携帯電話が使えなくなる」、「札幌市内全域で断水」といったデマが拡散したが、発信元への情報確認ができず静観せざるを得なかったり、刻々と変わる事態に生活情報が追い付かず、情報発信がかえって混乱を招く事態も見られたという。
一方、地震による被害が最も大きかった厚真町の避難所や役場で、メディア取材が拒否されるという事態が起きたことも報告された。この状況は地震発生から3か月後、避難住民らが仮設住宅に収容されて避難所が閉鎖されるまで続いたが、参加者からはメディアスクラムというより、一部メディアの行き過ぎた取材に対する嫌悪感が長期化の原因ではないかという見方が示された。これに対し鈴木委員から、「避難所の取材には不安と混乱の生活空間に土足で入るのだという心構えが必要だ。取材に応じてもらえるよう、早い時期に各社の責任者が住民の代表者らと話し合うこともできたのではないか」との意見が出された。
また、液状化した住宅地の取材現場で、取材班が消防に救出されたことがネットで炎上したことについて、当該放送局は会社ホームページなどで謝罪したとの報告があった。これに対し升味委員長代行から、「放送に携わるスタッフも住民と同じ被災者だ。誰に対して謝る必要があったのか。無事救出されました、消防や住民のみなさんありがとう、でよかったのではないか」との発言があった。
一方、後半の議題であるネット情報の取り扱いについても、地震に関連した意見が目立った。メディアが出す情報に、ウソの情報を付け足してリツイートされるとデマ情報の拡散につながるため、情報は放送に集約して慎重に行ったとのラジオ局の報告に対し、升味委員長代行は「日ごろ行っているネット情報の精査、慎重な情報の出し方が今回のような非常時に役立つ。根拠のある、正しい、役に立つ情報を出し続けることで、デマは沈静化され乗り越えられる」と発言。中野委員は、「可能な限りの取材を尽くし、真実に近づく努力をして放送すべきだ。今回の地震では慎重な姿勢で裏付けを取るなど適切な非常時対応だった」との意見を述べた。
さらに最近、取材に関連したメールの誤送信問題が起きたことに関して、当該放送局から報告が行われ、一時的にでも未放送素材が外部に流出する恐れがあったことを重大な問題と受け止めているとし、報道機関としての再教育、ファイル転送システムの変更など、各種の再発防止策を実施しているとの説明があった。
最後に、北海道文化放送の高田正基常務取締役が、「地震の教訓からきちんと学び、日頃は競争関係にある各局が情報を共有し、次の世代に役立てていくことが重要だ。そのことが視聴者や住民の皆さんの役に立つ報道につながる」と述べ意見交換会を終了した。
終了後、参加者から寄せられた感想の一部を以下に紹介する。
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ブラックアウトという状況の中で各局がどのように情報を伝えていたのか、取材の最前線ではどのような課題が発生していたのかを知ることができて有意義だった。参加者は皆自分たちの問題として引き付けて考えることができたように思う。
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地震に関する各局の報告に相当の時間が割かれ、放送倫理にかかわるテーマに肉薄できなかったのが残念。
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災害状況や数字も大切だが情報だけがラジオではない。ラジオはリスナーとの距離が近く、いつもの声、いつもの呼びかけが安心感につながる。「ラジオを聞いてほっとした」というリスナーの声が寄せられたことを報告し、他局からも共感をいただいた。
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地震の際の他局の状況を知ることができた。どのようなところで苦労したのかがよくわかった。
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デマ情報への対応などは、正解はないものの情報共有ができ、今後の指針となるものを得ることができた。
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SNS炎上やメディアスクラムについては、もっと掘り下げた議論や意見を伺いたいと思った。
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各社とも災害報道の前線では、まず伝えることが第一で、大切ではあっても倫理上の問題に配慮する余裕はあまりない。委員には、今後、現場の取材者が最低限何を意識すべきなのか、そのためには何が必要なのかを示していただきたかった。
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「自らも被災者でありながら放送を通じて被災した道民に呼びかけ寄り添った」という委員の言葉が印象に残った。
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BPOのメルマガやウェブサイトの情報は参考になるが読みにくい。複雑な事実関係や対立する意見を扱っているので、正確を期すために省略やわかりやすい言い換えができにくいことは承知しているが、現場スタッフに読んでもらうには少しでも平易な表現や発信をお願いしたい。
以上