放送人権委員会

放送人権委員会  決定の通知と公表の記者会見

2018年11月7日

「命のビザ出生地特集に対する申立て」通知・公表の概要

[通知]
11月7日午後1時からBPO第1会議室において、奥武則委員長と、事案を担当した市川正司委員長代行と水野剛也委員が出席して、委員会決定を通知した。申立人の杉原まどか氏と平岡洋氏が代理人弁護士とともに出席し、被申立人のCBCテレビからは報道局長ら2人が出席した。
奥委員長が決定文に沿って説明し、結論について「名誉毀損にはあたらない、また放送倫理上の問題はない、しかし放送倫理に絡んで要望を少し述べている決定である。判断の枠組みにあるように、申立人は10本の放送全体として名誉毀損の成否を判断すべきとの主張だが、一般視聴者はすべてを連続して見ているわけではないので、個々の放送についてそれぞれ人権侵害と放送倫理上の問題を検討することにした。第1回の放送の申立人法人事務所の取材に関しては、放送倫理上の問題までは問えないが、申立人側から見れば悪印象を与えるものという受け止めには十分理由があるとする複数の意見があったことを付記した。第2回の放送の申立人に対する取材のあり方に関しては、インタビュー部分の放送は原則的に放送局の裁量の範囲なので、放送倫理上の問題を問うまではない。しかしCBCテレビは筆跡鑑定事務所の鑑定結果を得たあとに申立人にインタビューしたのであれば、疑問点を明らかにして、自筆かどうかを追及することが調査報道としては非常に重要なのだから、しっかり取材するべきであり、今後の取材・報道にあたって、この点を参考にすることを要望する」と述べた。
続いて、市川委員長代行が補足説明し、「2回目の放送は、CBCテレビが主張する通り、杉原千畝の出生地に関する疑問と、これを巡る八百津町の対応についての疑問を投げかけており、前者の疑問が生じる根拠の一つとして手記の問題が出てくるというのが全体の流れであり、申立人の関与について言及する表現はなく、社会的評価が下がることはない。鑑定事務所と杉原まどか氏の発言が対比的に扱われており、そうであれば鑑定結果を端的に聞くことが放送局の対応としては望ましかった」と述べた。
水野委員は「キャスターの表情、しぐさ、口調については、一般視聴者が番組全体を見た時に、申立人に対して、申立人が訴えているような印象を持つかというと、そうは言えないだろうと判断した」と述べた。
決定を受けた申立人は「第3回以降の放送に、自分たちの取り扱いがないことは認識している。ただ、7番目の放送(独自中継)は、短いけれども、八百津町が手記の申請を取り下げたということについて、何故そうしたかの経緯は色々あるのに、明らかに手記そのものに何か疑いがあって、町としては苦渋の判断をせざるを得なかったというようなことを、いきなり記者が緊急放送で流すようなやり方は、テレビ局の真摯な報道姿勢とずれていると思う」と述べた。
一方、CBCテレビは「地方自治体に対する問題提起という我々の取材の趣旨を汲んでもらえたのは非常にありがたく思う。ご指摘の要望等は真摯に受け止め、今後の取材及び番組制作の面で生かしていきたいと思う」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見をして、委員会決定を公表した。21社34人が取材した。テレビカメラの取材は、キー局代表としてのNHKと、当該局のCBCテレビが行った。
まず、奥委員長が判断部分を中心に、「要望あり」の見解となった決定を説明した。続いて、市川委員長代行と水野委員が補足的な説明をした。
その後の質疑応答の概要は、以下のとおりである。

(質問)
CBCテレビは、何故その鑑定結果を本人に直接当てなかったのかについて、説明はあったか?
(奥委員長)
CBCテレビとしては、出生地に対して戸籍を含めて疑問が生じていることに、八百津町がきちんと対応していないという番組の作りになっていて、申立人が自筆であると考えていることをあらためて議論するとか取り上げる対象とは考えなかった、と説明した。
委員会は、明らかに筆跡鑑定事務所で一定の見解が出ていて、取材した段階ではその情報があったわけだから、それを当てることによってより調査報道として優れたものになっただろうと考えた。

(質問)
「放送倫理上問題あり」の決定の際に「少数意見付記」というのが(過去に)あるが、今回の事務所の取り上げ方の中での「付記する」という言葉使いは、それとは別物か?
(奥委員長)
少数意見として別だてするまでもなく、こういう形で付記すれば良かろうと、そういう主張をしている委員の判断があって、そのようになった。

(質問)
CBCテレビは「49枚の手記」がユネスコに提出されていることを、まどかさんたちの取材を通じて初めて知ったという体で、そのあと鑑定所に行く作りになっているが、そもそも「49枚の手記」をどういう方法で入手したのか?また、それと「手記の下書き」は、誰が管理しているのか?そして申立人も含めて、「手記の下書き」は清書の下書きであるという共通認識はあるのか?
(市川委員長代行)
CBCテレビは「49枚の手記」を事前に持っていたと聞いている。また「原稿段階のメモ書き」は、写しの存在しか分かってなく、原本の保管者については把握していないが、それが清書の下書きであるというのは共通認識として持っている。

(質問)
念のために確認するが、要望として、筆跡鑑定のことを聞くべきだったとあるが、それは放送に映っていないだけではなく、実際にも取材時に「ご本人の文字じゃないのではないか」という質問を申立人に聞いていないということか?
(奥委員長)
CBC側は、筆跡鑑定所で自筆ではない可能性が高いという鑑定結果を得ている訳だが、それについてインタビューの段階で申立人側には聞いていない。

(質問)
理事長と、副理事長のお二人と、NPO法人という四つの肩書が出てくるが、これは申し立て時も現在も変わっていないか?
(市川委員長代行)
今現在は、変わったという話は聞いていない。

以上