放送人権委員会

放送人権委員会  決定の通知と公表の記者会見

2018年3月8日

「沖縄の基地反対運動特集に対する申立て」通知・公表の概要

[通知]
3月8日(木)午後1時からBPO会議室で坂井眞委員長と、起草担当の中島徹委員と白波瀬佐和子委員が出席して本件事案の委員会決定の通知を行った。申立人は代理人弁護士2人とともに、被申立人の東京メトロポリタンテレビジョンは常務取締役ら5人が出席した。
坂井委員長が決定文に沿って説明し、結論について「委員会は、TOKYO MXによる本件放送が申立人の名誉を毀損したと判断した。そして、その原因のひとつに放送対象者に対する取材を行わなかったことがあり、その問題点について容易に考査で指摘できたにもかかわらずこれを怠り、『特段の問題が無かった』としたこと、および、人種や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠く放送内容について考査において問題としなかった点は、番組が『放送倫理基本綱領』や『日本民間放送連盟 放送基準』に適合するかどうかの検討を考査において十分に行わないまま放送したものと言わざるを得ないこと、この2点についていずれも放送倫理上の問題があると判断した。TOKYO MXは、『持込番組』についても放送責任があることを申立て当初から認め、その後、新たな考査体制も整備しつつあるということではあるが、委員会は、TOKYO MXに対し、本決定を真摯に受け止めた上で、人権に関する『放送倫理基本綱領』や『日本民間放送連盟 放送基準』の規定を順守し、考査を含めた放送のあり方について局内で十分に検討し、再発防止に一層の努力を重ねるよう勧告する」と述べた。
通知を受けた申立人は、「本当にありがとうございました。自分の出自が使われて人が叩かれるということがどういうことなのかは、うまく言葉になりません。また、安心して放送を見られる時代が来たらいいなと思っています」と述べた。申立人代理人は「この決定を評価する。人種や民族を取り扱う際に必要な配慮ということにもきちんと触れて頂いたことについて敬意を表したい」と述べた。
一方、東京メトロポリタンテレビジョンは「委員会決定を真摯に受け止め、再発防止に努める。今後、より良い番組作りに邁進していきたい」と述べた。

[公表]
午後2時30分から都市センターホテル6階会議室で記者会見をして、委員会決定を公表した。34社67人が取材した。テレビの映像取材は、代表としてNHKが行ったが、当該局のTOKYO MXも行った。
まず、坂井委員長が、委員会の判断部分を中心に「勧告」となった委員会決定を説明した。質疑応答の概要は以下の通りである。

(質問)
この勧告が出て、今後どうなるかという確認だ。最後のところに本決定の主旨をまず、放送するようにという勧告、これはもうMXの義務ということになるのか?
(坂井委員長)
民放各局は、BPOの構成員だから、規則に従って当然それに応じて頂けると思う。

(質問)
それ以外にMX側にまた、例えば何か報告を求めるとか、そういったことはあるのか?
(坂井委員長)
こういう決定が出た場合に3か月以内に対応策、または報告書をだしてもらう。その報告書を出す前に放送人権委員会が、MXに出向いて当該局研修という意見交換をする。

(質問)
申立人、被申立人、双方に対するヒアリングだが、それぞれどれくらい時間をかけたのか? 
(坂井委員長)
確認の上事務局から後ほどお答えする(会見後に広報通じて、申立人:1時間45分、被申立人:2時間48分と回答)。

(質問)
MX側から出席したのは考査担当者か、制作担当者か。それから制作会社の出席、同席はあったのか?
(坂井委員長)
MX側としては局の考査担当、BPOとの関係の責任者、それから代理人弁護士。
制作会社はヒアリングには参加していない。MXに対して希望は伝えた。しかし、BPOというのは、NHKと民放連と民放各局の組織なので制作会社に直接要求するという立場にはないので、希望を伝えたが参加しなかったということだ。

(質問)
結論のところでも、あるいは、その前段にもあった。「人種や民族の取り扱いへの配慮を怠った」、「配慮を欠いた」という表現がある。これ、明確に差別であるということを表現に盛り込むということは検討しなかったのか?
(坂井委員長)
私個人の理解としては、最初に伝えたように決定の一番はじめに書いてあるとおり、委員会運営規則第5条で、申立人の人権侵害、それに係る放送倫理上の問題を委員会は審理する。名誉毀損の関係で出てくるのは、差別という文脈では出てこない。そういう事実摘示ないし放送内容との関係で、民放連の放送基準が求めている配慮を欠いたという指摘なので、そこは筋が違うということかと思う。

(質問)
MXの考査担当者は、(ヒアリングに)2人出席したということか?それと、制作会社側が参加しなかったことについて何か理由は示しているのか?
(坂井委員長)
考査担当は1人だけだった。出席者は、直接の考査担当者と考査部門の上司も出席した。当時と今の組織が違うということはご存知のとおりだと思うが、本件に関しMXは勿論考査はしていた。理由は特に聞いていない。

(質問)
この決定を伝えて申立人と被申立人の反応を紹介していただきたい。
(坂井委員長)
申立人側については、この委員会の判断については「評価します」ということと、委員会の委員に対しても「敬意を表します」ということが総括的な意見としてあった。申立人ご本人からは、「自分の出自が使われて、人が叩かれるということがどういうことかを分かっていただきたい」という趣旨のことも述べられた。それで「安心して放送がみられる時代が来たらいいなと思っています」とも仰っていた。MXは「決定について真摯に受け止めます。再発防止の努力をして今後のより良い番組作りに邁進していきたい」と述べた。

(質問)
放送倫理検証委員会が先(去年12月)に結論を出しているが、その結論を受けて多少
MX側の対応が、変わったりしているのか?
(坂井委員長)
基本的にそれはない。放送倫理検証委員会が結論を公表したのは去年の12月だったが、我々は既にヒアリングも終えて、審理に入っている段階であり、その後、何かMX側がアクションを起こす機会もない。ご存知のとおり、扱う対象が違うので、どちらも考査の問題として決定を出しているが、放送倫理検証委員会の結論があったから、何かが変わるという話ではないということだ。

(質問)
考査については元々、持込だということでMXは考査をしてなかったわけで、その上で、やはり内容には問題ないと主張していると思う。そこは委員会なり、委員長としてどう見ているのか?
(坂井委員長)
考査をしていないというのは、必ずしも正確ではなくて、独立した考査部門はなかったけれどもいわゆる考査としての作業はした。ヒアリングに直接(考査の)担当者とその上司が来て、持込番組についてちゃんとチェックしたけれど、問題ないと思いましたという主張だった。それについて、いやいや、こういう問題があるんじゃないですかという指摘をしたということだ。考査がなかったということではない。

(質問)
この名誉毀損の認定というのが、今までどれくらいあったのか?今までの事例の流れの中で、今回の問題の位置づけはどのように考えているか教えて欲しい。
(坂井委員長)
これまで申し立てられた事案、これは何十件かあるわけだが、委員になってから半分くらいに関わってきた。どの事案が重いとか、軽いとかという意識はもたない。申立人の方はどの事案でも、やはり本当に重たいものとして申立てをして来られて、われわれが「問題なし」と言う時も「人権侵害あり」という時も、申立人ご本人として重い気持ちで申立てられるわけなので、「この事案はより重い」というようなことは全然考えてない。「勧告」の中で「人権侵害あり」という結論が9件あったということだ。

(質問)
1月9日にMXが放送した『ニュース女子』、これは他の地方局で放送されているのか?
(坂井委員長)
それは我々の対象ではないので、正確な情報はわからない。我々の審理対象は申し立てられたMXだけなので。

(質問)
確認だが、「人権侵害」が「放送倫理上、重大な問題あり」よりも重いということでよいか?
(坂井委員長)
人権侵害があったと書いてあるので、一般的にはそのように見えるかもしれない。しかし、枠組みとしては「勧告」の中に2種類あるという意識だ。人権侵害と言えないが、非常に重たい放送倫理上の問題があるケースも存在すると思われるので、委員会としてはあえてそこは上下関係をつけることはしていない。ただ、一般的には人権侵害ありとなった方が、重さとしては分かりやすいということはあるかもしれない。しかし、そういうレベルの話だと個人的には理解している。

(質問)
委員会決定21ページに「TOKYO MXの対応は、考査の責任は言うに及ばず、放送局全体の『持込番組』の対応という観点からも放送倫理上の問題があった」という部分があるが、その問題点は、読めば分かるのかもしれないが、まず、一点目が「その取材に行ったというだけで、番組の内容に裏付けがあると信じたという理由に至っては考査の責任放棄と言わざるをえない」と。まず、一つ目にその点があるということか?
(坂井委員長)
そうではなくて、TOKYO MXは本件放送について考査を通した理由として、20ページのところで、一つ目は「別の機会で取材していればいい」っていうことと「制作に関与していないから」という話と、最後に「珍しく現地取材に行っているので」ということが書いてあり、その順番に対応した形で、後ろの委員会判断も書いているということだ。

(質問)
それを踏まえての質問だが、このTOKYO MXの対応は、放送倫理上の問題があったという部分で、単に考査部門だけに止まらず、放送局全体として問題があったという理解でよいか?
(坂井委員長)
局の体制というよりも、まずは、今回の考査の問題だったということになろうかと思うが、今回については、そもそも考査の体制がしっかりできていないという問題もあった。持込番組については、放送責任は局が負うのが当然のことだと思うが、そういう前提を取りながら、その考査の対応として、先ほど述べたこういう3つの理由で通しましたと。しかも考査の対象は、まだ出来上がる前のもので、実は今日少し細かすぎるくらい説明したが、それにテロップやナレーションが入ることによって名誉毀損に関わる内容になってきているわけだ。そこを見ないまま通したということでは、たまたまこの件についての考査の問題にとどまるものとは言えなくて、考査に対する局の姿勢の問題ということに関わるのではないかという趣旨だ。

(質問)
この『ニュース女子』については放送倫理検証委員会の判断が去年12月に出ていて、今日は「勧告」となっているが、同じ番組で、BPOの2つの委員会から見解が出るというのは、今までにもあったのか?
(坂井委員長)
今回で2件目だと思う。2015年12月11日委員会決定57号 NHKの『クローズアップ現代』の出家詐欺事案。「放送倫理上重大な問題あり」で勧告という事案だったが、これは両方の委員会が扱った。

(質問)
BPOの人権委員会というのは人権が侵害されたとかそういうことを、一般の、市井の人とか、そういう人が申し立てた時、救済するというようなシステムかなと理解していた。ところが、前にも府議、政治家とかの申立てがあり、今回は著述家であり、自分で情報発信できる人のケースだ。そのような人から申立てを受けて審理することになっている。今後も政治家であるとか、著名な著述家、オピニオンリーダー的な人の申立ても取り上げていくことになるのか。一部では「いかがなものか」という意見もあるというふうに聞いているが、その辺の見解を聞かせいただきたい。
(坂井委員長)
まず、いわば形式的な答えをすると、最初に書いたように委員会運営規則第5条というところで、我々が審理するのは何かということが書いてあり、それは、放送によって名誉なりプライバシーを侵害された方の申立てを受ける、そして、それに関わる放送倫理上の問題について取り上げるとされている。申立てができるのは原則として個人で、団体は受けないが、例外で「団体を受ける場合もある」とされている。そこには、「政治家は除く」とか「著名な人は除く」ということは書かれてない。なので、規則がある以上、それに則った申立ては基本的に受けるという事になろうかと思う。これは個人的な意見として聞いて欲しいのだが、ご指摘の趣旨は、私は理解できる部分はある。ただ、そこは扱いを分けるというシステムではないし、もしそういうことになれば、どう分けるかだって簡単ではないことだと思う。

(質問)
ヘイトスピーチ解消法は「国民はヘイトスピーチもない社会の実現に努めなければならない」とあって、企業も責務を負っていると。とりわけメディアは、その責務が重く課せられていると思うが、今回の判断の中でそういう観点から検討されたのか、この放送がヘイトスピーチに当たるのかどうか、見解を聞かせていただきたい。
(坂井委員長)
ヘイトスピーチかどうかということ、そういうアプローチは基本的にしていない。
我々が審理するのは何か、決定文6ページの最初のところに書いている。申立人の人権侵害にあたるのか、それに関わる放送倫理上の問題があったのかという観点から判断している。ヘイトスピーチというのは、もちろん個人に対する攻撃であると同時にヘイトスピーチということはあるかもしれないが、基本的には、そのような文脈には収まらない。規則に書いてある審理対象の範囲で人権侵害と放送倫理上の問題を取り上げるということだ。なので、基本的には放送内容がヘイトスピーチかどうかを独立して取り上げ、判断をする立場にはないということだ。
(中島委員)
(委員会の中で)当然議論になっている。全く無関心であったわけではない。ただ、委員長も先程来言っているように、私たちの職責というのは、個人からの申立てを受けて、その申立人の人権が侵害されたかどうかということを確定することにある。ヘイトスピーチ規制の主眼は、特定のカテゴリーに属する表現を一般的に事前に禁止する点にある。このような権限を政府に認めてよいかは、議論の余地がある。これに対し、名誉毀損は、個別事案についての事後的な評価である点で、政府に表現を事前に規制する権限を認めるわけではない。ただし、個別事案の判断とはいえ、以後、同様のケースでは同じ様な判断がなされるだろうという点では、名誉毀損という判断でも、ヘイトスピーチに対する抑止効果を持ちうるので、今回の決定がヘイトスピーチを念頭に置いていないということにはならないのではないか。

(質問)
影響力のあるメディアとして人権侵害を起こさないためにも、その番組で、ヘイトスピーチを流すようなことがあってはならないという意味では、メディアがきちんと判断する仕組みなり、判断する作業を、避けるのではなく、きちんとそういうことをやっていかなければ、いけないと思うが。
(坂井委員長)
質問の意味が理解できないわけではないが、我々の役目は何かということだ。我々は、この表現がヘイトスピーチかどうかということを判断する立場にない。なので、明らかにこれは問題だということについて、それが申立人の名誉毀損との問題に関わってくるのであれば、その限りで触れるかもしれないが、今回は、そういう事案ではない。なので、一般論としてそのような判断をする立場にない我々はそういう判断はしないということになる。

(質問)
先ほど委員長は、今回の事案も他の事案と変わらず、それぞれ重大なものを重大だと判断して、一つずつ判断してきたとがと答えたが、僕は戦後のメディア史に残るような事件ではないかとも思う。起草担当の中島委員は、そういう観点からどのように思っているか?
(中島委員)
個人的にどう考えていたかと言えば、勿論こんな重大な事件を私が起草していいのだろうか、という本当に身の引き締まる思いで取り組んだことは間違いない。だから、そういう意味で言えば、重大事件である。けれど、同時に、どんな事件だって、実は申立人にとっては重大で、深刻な事件だから、その事件の内容によっては向き合い方を変えるということはない。どれも重大な案件として捉えて取り組んでいるとしか答えられない。
(坂井委員長)
まず、起草委員がすべてを執筆する訳でなく、委員会の議論を前提に様々な意見を取り入れて決定文が書かれるということをご理解いただきたい。申立人が言っていたのは、もともとインターネットで流されていた番組が、放送局で流されたということの重大性だ。その意味で、MXの罪は重いということを言っていた。最近のいろいろな動きの中で、様々な問題について沸点が下がってきて、たくさんの問題が起きていると。本件放送の問題に関して言うと、そのような様々な反応を起こす扉を開いたのがMXなんだと。ネットでのコンテンツに社会的なお墨付きを与えたんだということを述べていた。それは個人的には理解できるが、だからといって判断を書くときに、他の事案と取り組み方を変えようということにはならない。こういう姿勢は恐らく私共ふたりが共通して言っていることだと思う。

以上