沖縄地区の各放送局と意見交換会
沖縄地区の放送局と放送倫理検証委員会との意見交換会が、1月25日、那覇市内で開催された。沖縄地区の放送局と放送倫理検証委員会との意見交換会は今回が初めてである。意見交換会には、NHK沖縄放送局、琉球放送、琉球朝日放送、沖縄テレビ、ラジオ沖縄、FM沖縄の6局から24人が出席した。委員会からは、川端和治委員長、岸本葉子委員、中野剛委員、藤田真文委員が出席、BPOの濱田純一理事長が同席した。
意見交換会の冒頭、濱田理事長が開会のあいさつに立ち、「BPOはNHKと日本民間放送連盟とが組織した第三者機関であるが、放送局に物言いや注文をつけるだけの組織ではない。放送局の皆さんと一緒になって放送の自由を守り、放送が国民にとってより良いサービスを提供できることを目指す組織である。各委員会との意見交換もその一環であり、参加した委員は放送現場の生の声を聞いて糧にする。また、放送局の皆さんは、委員の意見を現場に持ち帰って放送の自主·自律の実現に反映させてほしい」と呼びかけた。そして、会場内のテレビモニターで、BPOのガイダンスDVDを視聴した。
意見交換会では、2017年12月14日に委員会が公表した東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』沖縄基地問題の特集に関する意見書(決定第27号)と、基地問題に関連してインターネット空間で出回っている沖縄ヘイトやデマ情報に対し、地元の放送局がどう向き合っているのか、テーマをこの2点に絞り込んで意見が交わされた。
まず、『ニュース女子』の意見書について、川端委員長から意見書の論理構成が丁寧に説明されたうえで、委員会決定のポイントについて解説が行われた。川端委員長は、当該番組は、放送局が制作に関与していない、いわゆる「持ち込み番組」であるため、委員会が意見を通知した相手は、放送したTOKYO MXという放送局であり、制作した制作会社は、審議の対象とならない。しかし、当該番組が伝えた内容に放送倫理上の問題があったということになるのかどうかを検討しなければ、放送した結果、放送局に放送倫理違反があったのかどうか、つまり放送局の考査が適正だったかどうか問うことができない。そこで、制作会社にも直接ヒアリングを申し込んだが、「TOKYO MXにすべてお任せしている」として、直接のヒアリングはかなわなかった。当該放送局を経由して、文書で質問し文書で回答をもらった。委員会では、当該放送局へのヒアリングの内容も含め提出された回答書や資料について慎重に検討したが、いくつかの疑問点が残ったため、委員会として独自に調査をする必要があると判断して、担当委員が沖縄で現地調査を行った。
この結果、委員会は、意見書で述べたとおり当該番組には複数の放送倫理上の問題が含まれていたにもかかわらず、TOKYO MXは適正な考査を行うことなく放送した点において、重大な放送倫理違反があったと判断した。本件は、委員会が「持ち込み番組」に対する放送局の考査が適正であったかどうかを検証した初めてのケースである、などと詳細に解説した。
沖縄の各放送局の出席者からは、「沖縄では放送されておらずネットで見たが、番組は緊迫感もなく突っ込んで取材していないことがすぐに分かる」「沖縄に対する悪意を感じる。裏付けのないものを安易に制作しているなと思った」「なぜ、このような内容の番組が放送されたのだろうと思う。営業の力が大きく、考査のハードルが下がったのだろうか」など、インターネットで視聴した感想が述べられた。
現地調査の説明や印象を求められた中野・藤田両委員は、名護警察署周辺や二見杉田トンネル前など、当該番組のロケ地で確認を行った際の写真を紹介しながら、距離感を肌で感じることができ、当該番組の取材班は比較的狭い範囲を効率よく回ったと感じた、ラジオDJの聴き取りで新たな事実も分かり、調査は有意義だったと話した。
中野委員は、「委員会が行った調査は、誰にでも簡単にできる調査である。例えば、救急車の走行が妨害されたのかどうかは消防で確認できること。しかし、TOKYO MXは、報告書を提出するにあたって確認した形跡がない。委員会が行った今回の調査を放送局自身がやれないことはない」と述べ、事後対応で、当該放送局に自主・自律の精神が欠けているのではないかと厳しく指摘した。藤田委員は、「審議入りした直後に、TOKYO MXは、放送法及び放送基準に沿った制作内容であったなどと、内容について問題がなかったとする自社の見解を発表した。当該放送局が、審議中の事案についてこのような見解を発表したのは初めての経験だ。しかも、TOKYO MXのこの判断は誤っている」と指摘した。岸本委員は、「当該番組を、視聴者の視点で視聴した。第一印象は、視聴者を甘く見ているのではないかと思った。スタジオトークの内容も、そこまで言えるのだろうかと疑問のほうが大きかった。取材による裏付けを欠かさず、自ら発信する情報の質を常に検証してほしい。インターネット上の情報との向き合い方という課題にも真摯に取り組んでほしい」と、視聴者の信頼を裏切らないよう各放送局に不断の努力を呼びかけた。
また、出席者から考査について、「考査は"最後の砦"という委員会の意見は理解できるが、放送局の考査の過程で、すべて事実関係の裏取りが必要なのか。今後、持ち込み番組に対してBPOはどんな対応を考えているのか」という質問があった。これに対して川端委員長は、「すべての内容について裏取りを要求するのは非現実的である。番組の主張の骨格をなす部分について、本当にそんなことがあったのだろうかと、誰もが疑問に思うポイントを考査の過程でチェックすべきと考えている。合理的な裏付けがあるのかどうかについて、放送局がきっちりと調べて放送している限り、放送倫理違反にはならない」また、「今回のように放送局が制作に全く関与していない"持ち込み番組"については、委員会と放送局との合意書でも、制作会社に調査への協力義務を負わせていない。必要ならば、日本民間放送連盟などで議論されることと思うが、当委員会が意見を述べる立場にはない」と、委員会の基本的な姿勢も合わせて説明した。
休憩をはさんで、地元の放送局の間で最近増加していると感じている沖縄ヘイトや基地問題をめぐるデマ情報をテーマに意見交換を行った。
米軍ヘリから小学校や保育園に部品が落下した問題をめぐり、学校や教育委員会に誹謗中傷の電話が相次いだことについて、各局とも複雑な県民感情を慮って放送するか否か迷ったり悩んだりしていることが具体的に報告された。
NHK沖縄放送局は、「ネットに書き込みが多数あり一過性のニュースにしてはいけないと思い報道のタイミングをみていた。発生から1週間後に基地の歴史的背景も含めて全国ニュースで放送した」 琉球放送は、「小学校に偏見の電話がかかり始め、ニュースにするかどうか迷っていたが数十件にも達した。これは沖縄ヘイトを如実に示している。県民だけでなく県外の人にも考える材料を提供すべきと判断し、積極的に報道した」 沖縄テレビは、「基地の歴史を紐解きながら丁寧に報道しなければならないと考えた。基地問題に詳しいフリーのジャーナリストのインタビューを交えて伝えた」 ラジオ沖縄とFM沖縄のラジオ局からも、「現場にアナウンサーを派遣してリポートした」「基地の歴史的背景を伝えた」と報告があった。一方、琉球朝日放送からは、「小学校に沖縄ヘイトの電話がかかってきていることは承知していたが、詳細を伝えれば伝えるほど地元の県民は悲しむのではないかと考え、あえて報道しなかった」などと報告があった。
この他、高速道路で起きた玉突き事故に絡んで、米軍兵士が日本人を救助したのに沖縄のマスコミはこの美談を無視して報じないと一部全国紙が非難した件について、参加局から議論したいと提案があり、当時のニュース映像を視聴した。「継続取材をしているが、そんな事実は確認できない」「県警も否定している」「県外の視聴者に対して、いかに情報発信していくべきか悩んでいる」など現場の報告や意見が相次いだ。川端委員長は、「この件は、ネットニュースを読んで知ったが、いま地元の報告を聞いて事実関係が異なることに驚いた。継続取材で調べた結果、事実関係が違うのであれば冷静に伝えていくことが大切なのではないかと思う。放送できなくともホームページの活用など発信できる手段は工夫すれば、いろいろあると思う」と応じた。また、他の委員からも、「追加取材で得た事実は報じてほしい」「地元各社の取材で事実が一つに収れんされたのならば、一つにまとまって事実を伝えることも大切だ」などと発言があった。
さらに、沖縄の各放送局と系列のキー局との間には、ニュース価値に対して温度差があるのかどうかについて、"ホンネ"の意見が相次ぎ、参加した委員からは、沖縄の放送現場の葛藤が聞けて非常に有意義だったと感想が述べられるなど、予定の時間をオーバーして活発な意見交換となった。
今回の意見交換会について、参加者から以下のような感想が寄せられた。
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今回の、意見交換会は、大変勉強になることが多い会合でした。テーマ設定そのものが、TOKYO MXの『ニュース女子』問題という、沖縄の報道にとって重要な問題だったこともありますが、本音の部分で議論ができたのではないかと思っています。その中でも、委員の方々から出た「ネット上のデマやフェイクニュースに対して、逐一反論するのは難しくても、そうしたデマやフェイクを拡散させるマスコミに対しては、遠慮の無い批判をすべき」との言葉には、とても勇気づけられました。デマやフェイクにどう対応していくのか、そのときの芯となる考え方をもらえたように思います。そのうえで、BPOの意見書の指摘にもあった言葉をお借りすれば、放送局がヘイトやフェイクニュースへの"砦"になっていかなければならないと強く感じました。他のテレビ局の方々との議論も、大変興味深く、こういった機会が増えると意義深いと思います。
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『ニュース女子』の件では、番組を見た視聴者が情報を鵜呑みしてしまう危険性をあらためて感じました。放送基準には、「社会·公共の問題で意見が対立するものについては、できるだけ多くの角度から論じなければならない」とあります。視聴者から偏向報道だと思われないように、また、情報の根拠·裏付けは確実に行うべきであると、番組考査の大切さを再認識させられました。メディアにいる者として、発信した情報の責任は重大だと認識しています。ところで、SNSや動画サイトなどは個人で情報を発信できる時代となり、トランプ大統領がツイッターで発言している内容もニュースなどで取り上げられています。ネット配信はいろんな情報が拡散され影響が見られますが、一方で情報が操作される危険性も感じています。メディアが多様化されていく中で、テレビは信頼されるメディアでなければならないと思います。県民に支持される放送局としての使命と影響力を認識して頑張りたいと思います。
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「TOKYO MX」からヒアリングを行うだけでなく、地元消防などからも取材をして番組内容の検証をしているところに委員会の本気度を感じた。外部ディレクターによる番組や持ち込み番組については制作段階から密にかかわることができないうえ、番組枠を変更することも難しいことから、どうしても放送局側もチェックが甘くなりがち。TOKYO MXの例は他人事とは思えず、意見書は緊張感をもって読んだ。ただ、全体的に持ち込み番組を考査する放送局側への指摘・批判に多くを割いている印象で、制作会社側への指摘をもう少し増やしてほしかったほか、なぜこのような番組が生まれてくるのか、いわゆる「沖縄ヘイト」と呼ばれる現象の背景にまで踏み込んでほしかった。
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一般の人々に対してどの程度理解してもらっているか不明だが、個人的には、同じ「番組」を視聴できるメディアとはいえ、放送とウェブの違いはここにある!と知らしめた内容と感じた。「放送」する番組には裏付けを伴うという当然の話で、昨今流行りのウェブ発の番組に決定的に欠けている点だと思っていた。当該番組はバラエティーであり報道番組ではないとの認識だが、まことしやかな物言いや分かりやすいストレートな表現は、沖縄の基地や反対運動について知識のない視聴者に大小さまざまな誤解・反感を招く。事実ならばともかく、伝えられた「事実」のいくつかで裏付けが確認できないと立証された点は大きかった。放送により考えられる視聴者の反感を考えると、沖縄や反対運動に携わる人々に無用の大きなダメージを与えることになる。とはいえ、番組の意見そのものについては言及していない点は大事だと思う。
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BPOの意見書については、「事実と異なる」という観点から一つひとつ検証されていて、番組に対して感じていた違和感や嫌悪感が、事実を確認することなく、制作意図に都合の良い情報の元に制作されたものということが確認できた。委員の皆さまが、この事態に真摯に向かい対応されたご努力に敬意を表します。一方、懸念は、今回のケースのように、BPOの調査に応じない制作会社が制作した持ち込み番組が増えないかということです。そして意見交換会は、なぜ、どのように委員会意見が出されたのか分かり、さらによい会だったと思います。また、意図的に発信される事実とは異なるネット情報への対応について意見が交わされたことは、大変有意義だったと思います。テレビが積み重ねてきた信頼を崩されないよう、さらに丁寧な番組づくりが必要だと感じました。
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持ち込み番組ということで、放送局や制作会社の協力が得られない中、調査しないといけない初のケースということで、BPOの委員の皆さんはかなりご苦労なさったことが分かった。独自に調査した分、直に沖縄にふれて、現状を理解いただけたと思うのでよかった。
キー局と違ってローカル局は余計に持ち込み番組が多いので、砦である考査の責任が大きいことを再認識した。あらためて放送の信頼性と信ぴょう性を失ってはいけないと感じた。ややもすると放送がネットに飲み込まれる時代がくるなどと言われることもあるが、むしろ自由で危険なネットの裏取りをして真実を伝える放送の役割は今後ますます大きくなっていくと感じた。
以上