放送人権委員会

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2018年2月20日

「命のビザ出生地特集に対する申立て」審理入り決定

放送人権委員会は2月20日の第255回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、第二次世界大戦中にナチス・ドイツの迫害から逃れた多くのユダヤ人を救った外交官・杉原千畝の出生地について、CBCテレビが2016年7月12日から2017年6月16日までに報道番組『イッポウ』で10回にわたり放送した特集等。番組では、岐阜県八百津町が千畝の手記などいわゆる「杉原リスト」をユネスコの「世界記憶遺産」に登録申請したのを受けて、千畝が「八百津町で出生」という通説に一部で疑念が生じているとして、千畝の子供で唯一存命の四男・伸生氏(ベルギー在住)が取り寄せた戸籍謄本には、千畝が八百津町ではなく、「武儀郡上有知町」(現在の美濃市)で出生したと表記されていたことや、千畝の手記(下書き原稿)を入手して調べたところ、出生地が「武儀郡上有知町」が二重線で消され、「加茂郡八百津町」に書き直され、伸生さんは書き直した文字は「父の筆跡ではない」と話し、筆跡鑑定士も「千畝のものと違う」と鑑定した等と放送した。
この放送に対し、手記を管理しているNPO法人「杉原千畝命のビザ」およびその理事である杉原千弘氏と杉原まどか氏、平岡洋氏の3氏が委員会に名誉毀損を訴える申立書を提出。この中で、番組ではユネスコに提出された本件各手記を「杉原千畝命のビザ」が保管していることを杉原まどか氏と平岡洋氏に確認させ、直後に「鑑定士」2人が本件各手記は偽造文書であると決めつける発言をそのまま放送したことから、「一般の視聴者は、本件各手記は偽造されたものとの印象を受けた」と主張した。
さらに、杉原まどか氏及び平岡洋氏が本件各手記の真正を述べるインタビューを放送した直後に、「違うよ、こんなの」だとか、「裁判所からの鑑定だったら、完全に違う、と言う。」と、「鑑定士」が両氏のインタビュー内容を徹底的に否定してみせたことにより、「かかる構成からすると、杉原まどか及び平岡洋が偽造者であるとの事実を摘示している」と述べた。
申立書は、「私文書偽造は犯罪であり、しかもそれをユネスコに提出して偽造私文書を行使したというのだから、本件放送が杉原まどか及び平岡洋の社会的評価を低下させることは明らか」で、また本件各手記の保管者である「杉原千畝命のビザ」の社会的評価も低下させ、「本件各手記の真実の保管者は杉原千弘であること、同人は杉原千畝命のビザの理事であることから、杉原千弘の社会的評価も低下させる」と主張した。
申立書は放送による具体的被害として、それまで半年間に十数件あった申立人らへの講演依頼が、放送後はほとんどなくなった点等を挙げ、CBCテレビに対し、「本件各手記はいずれも杉原千畝が書いた真正なものである」との趣旨の訂正を番組内で放送するよう求めている。
申立人とCBCテレビは、委員会事務局の要請に応じて面会し、話し合いによる解決を模索したが、双方の主張は折り合わず、不調に終わった。
これを受けてCBCテレビは2018年1月30日付で「経緯と見解」書面を提出、「申立人が主張する『杉原千畝の手記とされる文書を、偽造文書と決め付けるような放送』は、行っていない。従って、申立人が求めている訂正を、放送する考えはない」と述べた。
同局は、八百津町が町内に設置した「杉原千畝生家跡」との看板を後に「実家跡」に書き換えたことをきっかけに取材を始め、番組は世界記憶遺産登録申請の「活動の根幹(根拠)となる『八百津町で出生』という通説が揺らいでいることを報じたもので、この“霧”を晴らすことが地元メディアの役割であり、真っ当な世界遺産登録への道と考えた。正確性、真正性が厳格に問われるユネスコの審査に、疑義を残したままで大丈夫なのか。登録申請者である八百津町の姿勢に警鐘を鳴らすとともに、世界に胸を張って杉原千畝の業績の顕彰を進めるため、この機会に、地元や研究者の間にくすぶる千畝の出生地の疑問、及びその根拠を再検証する必要があると考え、一連の報道を行った」と説明した。
また「一連の取材でキーになったのが、千畝の子どもで唯一存命の伸生氏(四男・ベルギー在住)へのインタビューと、彼が入手した千畝の戸籍謄本などの一次資料」とし、出生地に関する手記の書き直しが、伸生氏が指摘するように別人によるものかその可能性を探るため「利害関係のない専門家」に筆跡鑑定を依頼したところ、「下書き原稿の出生地書き直しは、千畝とは別人の筆跡である可能性が高い。」という結果が出たと指摘。ただ、「筆跡鑑定は絶対ではなく、あくまで判断材料の一つ」として、「放送は、手記が真正か、偽造されたものかという判断には踏み込んではいない。但し、下書き原稿の出生地の書き直しに限っては、筆跡鑑定の結果を含めた総合的な判断として、不自然さが残ることを指摘した。申立人が指摘する『手記は偽造文書だ』という旨の放送は、行っていない。また、申立人が指摘する『杉原まどか氏および平岡洋氏が手記を偽造したという印象』を、この放送を視聴された一般の方が抱くとは思えない」と主張した。

委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。