放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第251回

第251回 – 2017年10月

沖縄基地反対運動特集事案のヒアリングと審理…など

沖縄基地反対運動特集事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聴いた。

議事の詳細

日時
2017年10月17日(火)午後3時~9時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「沖縄の基地反対運動特集に対する申立て」事案のヒアリングと審理

対象となった番組は、東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)が2017年1月2日と9日に放送した情報バラエティー番組『ニュース女子』。2日の番組では、沖縄県東村高江地区の米軍ヘリパッド建設反対運動を特集し、「軍事ジャーナリスト」が現地で取材したVTRを放送するとともに、スタジオで出演者によるトークを展開し、翌週9日の同番組の冒頭、この特集に対するネット上の反響等について出演者が議論した。この放送に対し人権団体「のりこえねっと」の共同代表・辛淑玉氏が、「名誉を毀損する内容である」と申し立てた。
委員会では、申立人と被申立人のTOKYO MXにヒアリングを行い、詳しく事情を聴いた。
辛淑玉氏は代理人の弁護士とともに出席。本件番組でスタジオ出演者の発言やテロップ等を合わせると、(1)沖縄の基地反対運動の現場で行われているのは「犯罪」で、「テロリズム」である、(2)反対派は5万円の日当、つまり報酬をもらってやっている、(3)そこにおカネを送っているのは辛淑玉氏である、等の事実を摘示しており、これが申立人の社会的評価を低下させ、名誉を毀損したと改めて主張した。
また、スタジオの出演者が、申立人は「元々反原発、反ヘイトスピーチなどを職業的にずーっとやってきて、今は沖縄に行っている」「いわゆるスキマ産業ですね」と述べたことについて、「スキマ産業という、つまり営利目的でやっている、何らかの利益を得ているという評価をされた。しかし、この活動だけで利益を得たことは一度もない。この事実の摘示は虚偽であり、それ自体が名誉毀損にあたる」と述べた。
さらに、番組の制作会社が反対運動の現場や辛淑玉氏ら「のりこえねっと」の人間に何ら取材をしていない点を挙げ、「対象としている個々対立する意見がある事象について、片方の意見のみ聞いて報道したことが、最も大きな不公正」と指摘。辛淑玉氏は、「少なくともMX自体も私に聞くべきだと思う」と付け加えた。
このほか、本件番組が「明白な人種差別」と主張する理由について、「韓国人はなぜ反対運動に参加する?」とのテロップ等、「批判の対象が韓国人であること、外国人であることを殊更強調している。それ自体が差別」と主張した。
本件番組による被害については、「普通のテレビで見られ、スマホでもテレビの受信が出来る(地上波の)MXで流されたということが、今までインターネットの中だけでやられていたものとは一線を越えている」との判断を示し、具体的には放送による精神的な苦痛、放送後の脅迫・嫌がらせのメール、手紙、社員研修等仕事の発注量の減少、社会的評価の低下等「かつてとは質・量が違い、多岐にわたる」被害があったとし、特に「今回の番組で初めて、自分の出自は沖縄の友だちにこんなに迷惑になると思った。朝鮮人であることが、こういう使われ方をするかと思い、厳しかった」と心境を語った。
一方、被申立人のTOKYO MXからは上席執行役員編成局長、考査担当者ら3人が代理人弁護士2人とともに出席。「申立人の主張は本番組の内容を独自に解釈し、自己の名誉を毀損するものであると主張するものであり、理由がないことは明らか」との立場を改めて示した。
また、虚偽・不公正であるとの申立人の主張については、「制作会社において必要な取材を尽くしたうえでの事実ないし合理的な根拠に基づく放送であって、何ら偽造ではない。申立人が主張するその他の事項についても同様であり、本番組の放送は虚偽ではなく不公正な報道にも該当しない」と述べた。
ただ、「表現の仕方などに関しては、もう少しきちんと見ておいても良かったのかなと、要は不快の念を抱かれた方がいらっしゃるのではないかということで、遺憾の念を述べさせていただいており、そこは反省点である」と語った。
基地反対派を「テロリスト」と表現していることについては、「明らかに断定していれば、それはまずいという指摘になる」「『テロリストみたい』という表現だったら、ギリギリ許される表現なのかなというふうには考えていた」と説明した。
本件番組は自社制作番組とは異なり、スポンサー側で制作を行い、電波料も別途支払われ、番組分類上「持ち込み番組」に該当する。同局は「きちんと考査もしたうえで放送しており、放送倫理、放送基準、放送法に則って、たとえ持ち込みであろうが、自社制作であろうが、所定の手続きをもって審査して放送している」と、重ねて放送責任を認め、さらに、名誉毀損の成否は通常、公共性、公益性、真実性という枠組みで判断するが、持ち込み番組であっても、自社制作と同じ基準で判断することを前提としてよいかとの問い対し、「そうでなければいけないと思うし、それはきちんと責任をもっていくつもり」と答えた。
基地反対派や申立人らに取材しなかったことについては、反対派らの意見を「聞けたほうがベストと思う」としながらも、「これはある一つの角度から見た番組なので、違う角度から見る番組というのは当然必要になる。いわゆる放送法第4条が定めるような両論併記というところも、我々としては視野に入れているので、今回は取材をしなくても、別の機会で取材をすれば良いだろうという判断も一つはある」と述べた。
また考査担当者は、本件番組は通常スタジオトークを中心に番組進行することが多く、現場での取材はほとんどしないことから、沖縄に飛んで取材した「軍事ジャーナリスト」の報道内容については、「そもそもの現場に本人が行っているというのが、なによりの担保になってしまって、自分の中では疑う余地を外してしまったというのが本音」と明かした。
委員会はヒアリング後審理を続行、その結果、担当委員が起草準備のための会合を開いたうえで、次回委員会でさらに審理を進めることになった。

2.その他

  • 委員会が今年度中に開催予定の県単位の意見交換会について、年明け2月2日に長野で開催することになり、事務局から概要を説明した。

以上