放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第247回

第247回 – 2017年5月

都知事関連報道事案の審理、浜名湖切断遺体事件報道事案の審理、STAP細胞報道事案の対応報告、沖縄基地反対運動特集事案の審理入り決定など

都知事関連報道事案および浜名湖切断遺体事件報道事案の「委員会決定」案をそれぞれ議論し、またSTAP細胞報道事案について、NHKから提出された対応報告を検討した。さらに沖縄基地反対運動特集事案を審理要請案件として検討し、審理入りを決定した。

議事の詳細

日時
2017年5月16日(火)午後4時~9時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「都知事関連報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日(日)に放送した情報番組『Mr.サンデー』。番組では、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑に関連して、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃が支払われていた問題を取り上げ、早朝に取材クルーを舛添氏の自宅を兼ねた事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
申立書によると、未成年の長男と長女は、1メートル位の至近距離からの執拗な撮影行為によって衝撃を受け、これがトラウマになって家を出て登校するたびに恐怖を感じ、また雅美氏はこうした撮影行為に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集して放送され視聴者を欺くものだったとしている。雅美氏と2人の子供は人権侵害を訴え、番組内での謝罪などをフジテレビに求めている。
これに対してフジテレビは委員会に提出した答弁書において、長男と長女を取材・撮影する意図は全くなく執拗な撮影行為など一切行っておらず、放送した雅美氏の発言は、ディレクターが家賃について質問した以降のやり取りを恣意性を排除するためにノーカットで使用したとしている。さらに雅美氏は政治資金の使い道について説明責任がある当事者で、雅美氏を取材することは公共性・公益性が極めて高いとしている。
前回の委員会後、起草委員会が開かれて「委員会決定」文が起草され、今月の委員会では担当委員の説明を受けて決定文案の結論部分を中心に審理した。次回委員会でさらに検討を重ねることになった。

2.「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、テレビ静岡が2016年7月14日に放送したニュースで、「静岡県浜松市の浜名湖で切断された遺体が見つかった事件で、捜査本部は関係先の捜索を進めて、複数の車を押収し、事件との関連を調べています」等と放送した。この放送に対し、同県在住の男性が「殺人事件に関わったかのように伝えられ名誉や信頼を傷つけられた」と申し立てた。
申立人は、「私の自宅、つまり私と特定できる映像と、断定した『関係者』『関係先』とのテロップを用いて視聴者に残忍な事件の関係者との印象を与えた。実際、この放送による被害が目に見える形で発生しており、名誉毀損は十分に成立する」等と述べている。
これに対しテレビ静岡は、「本件放送は社会に大きな不安を与えてきた重大事件について、客観的な事実に基づいて、捜査の進展をいち早く知らせる目的をもって行ったものであり、申立人の人権の侵害や名誉・信頼の毀損にはあたらないものと考えている」等と述べている。
委員会では、5月9日の第1回起草委員会を経て委員会に提出された「委員会決定」案を審理した。その結果、第2回起草委員会を開催して修正案を検討し、次回委員会に提出することになった。

3.「STAP細胞報道に対する申立て」 NHKの対応報告

本事案で「勧告」として「名誉毀損の人権侵害が認められる」との決定を受けたNHKから、対応報告(5月9日付)が委員会に提出された。
報告内容について意見が出され、次回委員会でさらに検討のうえ対応を決めることになった。

4.審理要請案件:「沖縄の基地反対運動特集に対する申立て」

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となった番組は、東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)が本年1月2日と9日に放送した情報バラエティー番組『ニュース女子』。2日の番組では、沖縄県東村高江地区の米軍ヘリパッド建設反対運動を特集し、「軍事ジャーナリスト」が現地で取材したVTRを放送するとともに、スタジオで出演者によるトークを展開し、翌週9日の同番組の冒頭、この特集に対するネット上の反響等について出演者が議論した。
この特集に対し、番組内で取り上げられた人権団体「のりこえねっと」の共同代表の辛淑玉氏が、「事実と異なる虚偽情報」と在日韓国人である同氏に対する「人種差別発言」により名誉を毀損された等とする抗議文(1月20日付)を同局に送付した。
その後辛氏は1月27日付で申立書を委員会に提出。「本番組はヘリパッド建設に反対する人たちを誹謗中傷するものであり、その前提となる事実が虚偽のものであることが明らか」としたうえで、番組内では、「のりこえねっと」の団体名を挙げるとともに申立人について、あたかも「テロリストの黒幕」等として基地反対運動に資金を供与しているかのような情報を摘示し、また申立人が外国人であることがことさら強調され、不法な行為をする「韓国人」の一部であるかのような人種差別を扇動するものであり、申立人の「名誉を毀損する内容である」と訴え、TOKYO MXに対し同番組での訂正放送と謝罪、第三者機関による検証と報道番組での結果報告、再発防止策の公表と実行、人権、差別問題に関する社内研修の確立等を求めた。
また申立書は、「虚偽を事実であるかのように放送したこと」「まともに取材していないこと」「極めて偏向した内容であること」という放送内容は、「もはや放送倫理云々のレベルですらなく、明確に放送法4条各号違反である」と主張した。
さらに1月9日の放送については、改めて申立人もしくは「のりこえねっと」に取材することなく、前週放送の「虚偽報道を糊塗するような放送がなされた」としている。
申立人とTOKYO MXは、委員会事務局の要請に応じて代理人同士が話し合いによる解決を模索したが、不調に終わり、申立人側から4月12日、改めて委員会の審理を要望する意思が事務局に伝えられた。
これを受けて同局は4月27日、本件申立てに関する「経緯と見解」書面を委員会に提出。その中で、「本番組は、沖縄県東村高江区のヘリパッド建設反対運動が、過激な活動によって地元の住民の生活に大きな支障を生じさせている現状等、沖縄基地問題において、これまで他のメディアで紹介されることが少なかった『声』を現地に赴いて取材し、伝えるという意図で企画されたものであると承知している」と放送の趣旨を説明し、放送内容は「申立人が主張する内容を摘示するものでも、申立人の社会的評価を低下させるものでなく、申立人が主張する名誉毀損は成立しないものと考える」と反論した。
同局は、申立人が「黒幕」として「テロリスト」に資金を供与しているかのような情報を番組が摘示したと主張していることについて、「申立人が具体的に本件番組のどの表現を捉えてこのような主張をしているのか、不明であると言わざるを得ない。当社としては、本件放送はそのような内容を含むものではないと考えている」と述べ、また「申立人が問題視している『テロリスト』等の表現は、高江でヘリパッドの建設反対運動には、一部強硬な手段がとられていることを伝える中で比喩として用いられているものであり、申立人について述べたものではないため、本件申立ての争点である申立人の名誉毀損の成否とは直接の関係がないといえる」と主張した。
このほかTOKYO MXは、申立人が放送内容が事実に反すると主張している点について、「当社として調査、確認した結果、本件番組内で使用された映像・画像の出典根拠は明確であり、本件番組内で伝えられた事象は、番組スタッフによる取材、各新聞社等による記事等の合理的根拠に基づく説明であって、本件放送に係る事実関係において、捏造や虚偽があったとは認められない」と反論した。
TOKYO MXによると、本件番組は自社制作番組とは異なり、番組分類上スポンサー側で制作を行い、電波料も別途支払われる持込番組に該当するため、クレジットが、「製作著作 DHCシアター」となっているが、「当社は、放送枠を販売する形式ではあるが、放送責任が当社にあることは承知している」と述べている。
なお、本番組については、BPO放送倫理検証委員会が2月10日の委員会で審議入りを決定している。

委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

5.その他

  • 在京キー局との意見交換会を7月18日(火)に開催することになり、事務局から概要を説明して了承された。当日予定される委員会に先立って開催する。
  • 委員会が今年度中に予定している東北地区加盟社との意見交換会について、今秋仙台で開催することを決めた。
  • 次回委員会は6月20日に開かれる。

以上