放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第246回

第246回 – 2017年4月

浜名湖切断遺体事件報道事案のヒアリングと審理、都知事関連報道事案の審理など

浜名湖切断遺体事件報道事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。また都知事関連報道事案を審理した。

議事の詳細

日時
2017年4月18日(火)午後3時~8時55分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理

対象となった番組は、テレビ静岡が2016年7月14日に放送したニュースで、静岡県浜松市の浜名湖周辺で切断された遺体が発見された事件について、「捜査本部が関係先の捜索を進めて、複数の車を押収し、事件との関連を調べている」等と放送した。この放送に対し、同県在住の男性が「殺人事件に関わったかのように伝えられ名誉や信頼を傷つけられた」と申し立てた。
今月の委員会では、申立人と被申立人のテレビ静岡にヒアリングを実施し、詳しい話を聴いた。
申立人は、「テレビ静岡は、私の名前も公表していない、被疑者として断定して放送していないと主張しているが、私の自宅、つまり私と特定できる映像と断定した『関係者』『関係先』とのテロップを用いて視聴者に残忍な事件の関係者との印象を与えた。実際、この放送による被害が目に見える形で発生しており、名誉毀損は十分に成立すると思う。私有地に侵入しての取材については、マスコミという屋外での撮影を主たる業務とする職種であるので、当然に撮影前のみならず、撮影後の編集の段階においても、私道等撮影をしても問題なき場所かの確認を取るべきで、少しの注意で結果が予見でき、回避ができるのに、注意を怠った重過失がテレビ静岡にはある。プライバシーである寝具を撮影したことも、奥の窓を撮影するためという主張は苦しいもので、編集段階でいくらでもどうにかなる。要は犯人視していたからこそ、躊躇なく知られたくない生活の一部も撮影、放送したものだと思う」等と述べた。
テレビ静岡は報道の責任者ら4人が出席し、「申立人の氏名等を一切報じていないのはもちろん、申立人を犯人視する表現をしたり、視聴者に申立人を犯人視させたりする演出やねつ造は一切行っていない。さらに、本件捜査が行われた申立人の自宅を一般視聴者が特定できないように種々の配慮をしつつ、報道の真実性を損なわないよう映像を編集した。その中で、申立人宅の道路に面して干してあった枕等が映像に映っていた点については、道路からごく自然に目に入るものであることや下着等のものでないことから、プライバシーの侵害には当たらないと考えている。申立人宅の私有地への立ち入りという点については、一般の立ち入りが禁止されることを示す表示や門柱・仕切りなどは一切なく、取材陣はこれを一般の生活道路として立ち入りや通行が認められているものと認識していた。本件放送は社会に大きな不安を与えてきた重大事件について、客観的な事実に基づいて、捜査の進展をいち早く知らせる目的をもって行ったものであり、申立人の人権の侵害や名誉・信頼の毀損にはあたらないものと考えている」等と述べた。
ヒアリング後、本件の論点を踏まえ審理を続行、その結果、担当委員が「委員会決定」文の起草に入ることになった。

2.「都知事関連報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日(日)に放送した情報番組『Mr.サンデー』。番組では、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑に関連して、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃が支払われていた問題を取り上げ、早朝に取材クルーを舛添氏の自宅を兼ねた事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
申立書によると、未成年の長男と長女は、1メートル位の至近距離からの執拗な撮影行為によって衝撃を受け、これがトラウマになって家を出て登校するたびに恐怖を感じ、また雅美氏はこうした撮影行為に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集して放送され視聴者を欺くものだったとしている。雅美氏と2人の子供は人権侵害を訴え、番組内での謝罪などをフジテレビに求めている。
これに対してフジテレビは委員会に提出した答弁書において、長男と長女を取材・撮影する意図は全くなく執拗な撮影行為など一切行っておらず、放送した雅美氏の発言は、ディレクターが家賃について質問した以降のやり取りを恣意性を排除するためにノーカットで使用したとしている。さらに雅美氏は政治資金の使い道について説明責任がある当事者で、雅美氏を取材することは公共性・公益性が極めて高いとしている。
今月の委員会では先月のヒアリングを受けて、人権侵害と取材方法や編集などの放送倫理の問題について審理を進めた。その結果、担当委員が「委員会決定」文の起草に入ることになった。

3.その他

  • 放送人権委員会の2016年度中の「苦情対応状況」について、事務局が資料をもとに報告した。同年度中、当事者からの苦情申立てが18件あり、そのうち審理入りしたのが4件、委員会決定の通知・公表が5件あった。また仲介・斡旋による解決が6件あった。
  • 次回委員会は5月16日に開かれる。

以上