青少年委員会

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2016年度 中高生モニター会議

2016年度「中高生モニター会議~日テレフォーラム18~」

◆概要◆

2006年から始まった「モニター制度」も、11年目を迎えました。その間、若い世代のさまざまな意見が委員会に寄せられ、放送局に届けられました。「中高生モニター会議」は、中高生の意見を委員や放送局に直接伝えるとともに、放送局の見学や放送体験、放送に関する討論を通してメディアリテラシーの涵養の場にもなっている重要な委員会活動の一つです。今年度は、日本テレビと共同で「2016年度 中高生モニター会議~日テレフォーラム18~」として開催しました。
2017年3月5日に日本テレビで行われた会議には、全国から集まった中高生モニター22人、日本テレビから加藤幸二郎制作局長、杉本敏也コンプライアンス推進室長、BPOからは汐見稔幸青少年委員会委員長、最相葉月副委員長、稲増龍夫委員、大平健委員、菅原ますみ委員、中橋雄委員、緑川由香委員が出席しました。また、会議の進行役として蛯原哲日本テレビアナウンサーが、社内見学の案内役として豊田順子アナウンサーがご参加くださいました。

第1部では、参加者全員が自己紹介をしたのち、日本テレビ社内のスタジオを見学しました。最初に行った報道フロアでは、昼のニュースを読み終えたばかりの豊田アナウンサーにニューススタジオを案内していただき、天気予報などに使われるクロマキーによる映像の合成を体験しました。
その後、平日の生放送『ZIP!』と『ヒルナンデス!』を送出している番組スタジオに移動し、引き続き豊田アナウンサーに、スタジオの使い分けの演出などついて教えていただきました。また副調整室も見学し、演出や音声、映像など多くの専門スタッフが一つの番組に関わっていることを知ることができました。
第2部では、今年2月に放送開始10周年を迎えた『世界の果てまでイッテQ!』を題材に、番組初代プロデューサーでもある加藤制作局長を交え、演出方法や制作過程についての質疑応答や、番組に寄せられた批判の多い企画について意見交換を行いました。

≪『世界の果てまでイッテQ!』について≫

  • 【委員】『世界の果てまでイッテQ!』(以下、『イッテQ』)が誕生した経緯は?

  • 【加藤さん】2006年に深夜の30分番組として立ち上げた。当初は、タレントが世界に出かけてクイズを見つけてくるというコンセプトだったが、正直、迷走していた。結果、番組は終了することになり、終了特番の打ち合わせの場で、ロケハン帰りのディレクターの一言がきっかけとなり、「現場に行き、汗をかいて調べてみないとわからない」「インターネットでは調べられないことをアンサーにする」という今の番組の原型が誕生した。例えば、「火山の溶岩で焼肉は焼けるのか?」や「サメ肌でわさびをおろすことができるのか?」といったことをクイズにしてみた。この特番が好評を博し、急遽2月から新番組としての放送が決まった。しかし、番組スタート時は、長期間の海外ロケを行うことができる出演者のスケジュールを押さえることにも難航し、また低予算だったために、有名ではなくスケジュールに余裕があり、ギャラが安いタレントや芸人に必然的に出演してもらうことになった。有名になりたいというタレントの熱と番組を面白くしたいというスタッフの思いが相乗効果を生み、『イッテQ』の雰囲気ができていき、番組が人気になるにつれて、タレントたちも人気者になっていった。

  • 【委員】タレントが体当たりで頑張る姿が印象深いが、人によっては不快なのでは?というシーンがあることもまた事実だが…。

  • 【モニター】体当たり頑張っている姿が『イッテQ』らしさだが、女性芸人が裸になるボディペイントや、吹き矢を刺して痛がる様子を笑うことは道徳的にダメだという考えもあると思う。

  • 【委員】BPOにも結構、視聴者から意見が来る。中には「これは女性蔑視ではないか」「男性目線の企画じゃないか」などいろいろ厳しい意見もあった。女性から見て、どうだろう?

  • 【モニター】自分自身は、女性蔑視云々は感じなかったが、タレントの痛がっている姿を見るとあまりいい気持ちはしない。個人的には好みではない。

  • 【モニター】決して高度な笑いではないとは思うが、ああいう刺激的な映像をテレビが自粛していくなかで、インターネットの動画が伸びてきているのかなと思う。そういうなかで、刺激的な企画も堂々と放送しているからこそ、『イッテQ』が人気なのではないかなと思った。

  • 【加藤さん】番組を作る側としては、『イッテQ』は刺激のあるものを目指している感覚はない。みなさん、「笑い」について考えたことは?「笑い」は、人の失敗を笑う。だめなところを笑う。それができる関係性は幸せな関係。日本では「失敗は笑ってはいけない」と言うが、実は平和じゃないと笑えないと思う。もう一つ、笑いに高等や下品などのレベルがあるとは考えていない。ただ番組には人格があると思っている。『イッテQ』だから、視聴者は見方がわかっている。受け入れてくれる。ただ、あれが「好きではない」いう人がいることも理解して、その意見に対して「笑ってもいいんですよ」と啓蒙していかなければならないという思いもある。芸人たちは、そういう志を持ってやっている。かつてエルビス・プレスリーが初めてテレビに出た時、品のない歌い方や腰つきだと、放送局に猛抗議があった。大多数の大人はだめだと言った。しかし、若者は熱狂した。テレビはそれを放送した。それが文化になっていった。文化になるには時間がかかる場合があり、賛否両論あるかもしれないが、全員がいいと言うものは大体文化にはなりにくい。

  • 【委員】バラエティー番組を見ていて、「これは笑えない」と感じたことはない?

  • 【モニター】軍隊の訓練を女性芸人がやらされていて、女性として体がおかしくなったりしないかと心配になった。ロケの基準はどうなっているのか?

  • 【加藤さん】『イッテQ』においては、「安全第一」が全てにおいて優先する。危険だったらやらせない。その辺のリスク管理は必要。やらない勇気を持つというバランスが重要。

  • 【モニター】『イッテQ』は、「笑い」だけが目的なのか?ほかにも視聴者に伝えたいことはないのか?「笑い」だけが目的の番組は、見ていて飽きてしまうと思ったりもする。

  • 【加藤さん】お笑い系の番組で言われて嬉しい言葉が1つある。「くだらない」と言われること。何のためにもならないが、「時間を忘れて笑ってしまった」と言ってもらうこと。『イッテQ』が続いているのは、特別な強いメッセージを持っていないからだと思う。そういう押しつけがあった時、メッセージを受けとめる人と受けとめない人に分かれてしまう可能性がある。しかし、全ての人が喜ぶものを作るのがテレビとしての正しいバラエティーではないだろうか。ためにならないようなこともできる世の中にいられることが、実は幸せ。全て無駄のない時間を過ごさなければいけない状況は、すごく窮屈な世の中かもしれない。また「笑い」がなければ、不寛容な、優しさのない世界になる。

  • 【モニター】今まで、制作側で自粛した企画はあるのか?

  • 【加藤さん】あまり記憶にない。しかし、明確に現場で指示を出しているのは、家庭で面白半分にマネができ、さらに命に関わるような重大な案件になるものはやるな、と言っている。命に関わる、関わらないということが、何より一番重要だと思っている。家庭では真似できないような大がかりなものはやる。そういう基準で自主規制をすることはある。

  • 【モニター】出演者が、笑いを前提としていない時、例えば、一般の人が出てきて、その人は真剣にやっているけれども周りから見たら面白いことなどを笑いに変えているのは、ちょっとどうかと思う時がある。どこかの民族が出てきて、日本人から見れば面白いと、それを笑いにしていたりする場面を見た時など、決して全員が笑いを前提に何かをしているわけではないと思うことがあり、視聴者としては面白いかもしれないが、出ている人のことを考えた時に、どうなのかなというのは思うことがある。

  • 【委員】その国の風習であったり、その人にとっては当たり前の行為であったり、特に素人の出演者を笑ってしまうドッキリ企画などでよくあるかもしれない。

  • 【加藤さん】そこは気にしている。ただ『イッテQ』ではあまりないと思う。『イッテQ』では番組と視聴者やロケの相手方との関係性ができている。番組の人格で『イッテQ』は笑いをやっているけれども、相手に対して失礼なことをしているという人格がないから、許してもらえていると思う。しかし、違う番組が同じことを同じ手法、同じネタをやったとしても、その番組と視聴者との関係性ができていないと、なんて失礼なことをやっているんだと見えてしまう。それと、出てくれた人たちに対して制作者が愛情を持っているかどうかというのが、すごく大事なところ。

  • 【モニター】『イッテQ』で以前、宮川大輔さんが牛乳を飲むレースに参加し、吐いてしまう場面が放送されていた。きれいなモザイクがかけられていたが、食事をしながら見ていたことや、自分も普段飲んでいるものなので、ちょっとどうかと思った。

  • 【加藤さん】実は、私がプロデューサーの時の企画。今でも覚えているが、ロケから帰ったディレクターが「すごく面白いロケだが、放送できそうにない」と言った。牛乳を丸々1リットル飲んで走る参加者が、必ず嘔吐する。それをみんなが大笑いしながら見るというカナダの祭り。人が失敗するとか、滑稽なところを笑っちゃうという祭り。しかし、考査からは口から食べ物を出す映像を注意されるだろうと。『イッテQ』は海外の文化を紹介する番組でもある。そこで、ワイプという映像加工の手法を使って工夫するようアドバイスした。するとディレクターは、汚いものを隠すのなら、せめてきれいにしようと考えて、きらきらするCGをわざわざ作った。あれは、実は結構お金がかかっている。そして放送してみたら、クレームが1件も来なかった。汚い物を見て笑っているわけじゃないという放送の意図を受け取ってもらえたと感じた。しかし、だからといって、他の番組で同じことをやって同じ結果になるかどうかは分からない。

  • 【モニター】きらきらのCGに関してだが、森三中が鼻ヨガに挑戦して、よだれや鼻水を流す場面は隠さずに放送しているが、その判断の違いは?

  • 【加藤さん】私は、よだれや鼻水を汚いと思わない。人が思い切り泣いた時、涙や鼻水でぐずぐずになったりするが、汚いとは思わない。同じようにその国の文化であるヨガで、よだれを垂らしたからといって汚いとは思わない。気持ち悪い虫や動物だから映さないとか、何でも隠してしまう世の中よりも、ある程度のものは見せてもいいんじゃないかという感覚がある。そういうものも見られる寛容な世の中のほうが、素敵だと思っている。もちろん時と場合によるが、あの時は「いい」と判断した。

  • 【モニター】番組は、批判を受けたりもするぎりぎりの線で制作されていると思うが、テレビ放送は公共の電波なので、小さな子どもからお年寄りまで見ている。また過激な動画を見たい人は動画サイトなどで検索して、動画を探して見ていると思う。そんななか、それでもやはりテレビで批判覚悟の放送を流すということに何か理由があるのか?

  • 【加藤さん】テレビというメディアは、全ての人が楽しむことができるという方向性を持って作られるべきメディア。一部の人だけが分かればいいというメディアではない。そこがインターネット動画との大きな違い。100人が100人、見た人全員を楽しませようと思っている。その時に、半分以上の人が番組を不快に思ったら、それは失敗ということ。そして、失敗は淘汰されていく。その表現のぎりぎりを突くというのはどういうことかというと、道幅に例えるならば、絶対安全な道路の真ん中だけを歩いていても道路の幅というものはわからない。「これ以上はみ出ると溝に落ちるぞ」と知らせてくれるのが視聴者の反応、クレームだ。100件ぐらい来ると、「やばい、半分溝に落ちかかっているぞ」と分かる。「不快な人のほうが多いぞ」というふうに。ただ、安全なことだけをやっていたら、そのことも分からないままになる。そこに『イッテQ』は挑戦しているところはある。

休憩をはさんで行われた第3部には、スペシャルゲストとしてタレントのイモトアヤコさんがサプライズで登場、中高生モニターを沸かせました。その後、イモトさんも討論に参加し、出演者の立場から、『イッテQ』のロケ裏話や、制作スタッフとの関係や、過酷な撮影に挑む時の気持ちなど、率直にお話しくださいました。

≪『世界の果てまでイッテQ』について、イモトアヤコさんを交えて≫

  • 【イモトさん】こんにちは。実際見ている人の意見を直接聞く機会はあまりないので、正直な意見を聞かせてほしい。

  • 【モニター】『イッテQ』に出演する芸人にとってのスタッフの存在について聞きたい。もう一つはBPOについてだが、モニターに参加するまで、自分は勝手にテレビ局とBPOとは生徒と怖い生徒指導の先生みたいな関係だと思っていたが、今はそんなこともないと思っている。芸人にとってBPOというのはどういう存在かも教えてほしい。

  • 【イモトさん】BPOについては、正直、きょうまで意識したことがない。『イッテQ』に関しては、BPOの存在は気にせず自由にやっている。もう一つの「スタッフとの信頼関係の愛を感じるか」という質問だが、『イッテQ』では、そこが全て。同じチームとして、なんとかVTRを面白くしようという目的意識が共通している。例えるならいい意味での共犯者のよう。仲間意識はとても強い。

  • 【モニター】イモトさんとスタッフとで対立したり仲直りをしたりといったこともあるのか?

  • 【イモトさん】めちゃくちゃある。でもそこがいいところ。しかもケンカの時も全てカメラが回っている。たまにスマホのカメラで撮影していることさえある。今ではスタッフは家族より一緒にいる時間が長いので、一番わがままな部分を出せる人たちになっている。スタッフのことは信頼しているので、「どのシーンを使われても大丈夫ですよ」というスタンスでロケをしている。

  • 【モニター】『イッテQ』をやめたいと思ったことは?

  • 【イモトさん】いい質問。やめたいことは多々ある、毎回ぐらいの勢いで。しょっちゅうやめたいと思っている。でも結局、自分の意思でやっている。最終的にはケンカしつつも、やめた自分は嫌だと思うので、自分と葛藤しながらやっている。

  • 【加藤さん】スタッフもそう思いながらやっている。いつもやめたいって言いながら。でも仕事などは、9割5分がつらいこと、でも残り5分がすごく楽しい。9割5分つらいほど、そのわずか1割に満たない成功や達成感がすごく楽しい。わずかな喜びがすごい喜びになる。何もやらなければ、そんな感動もないかもしれないが、9割やめたいと思っている人間が、でも頑張ってやっていることが視聴者に届いているのだと思う。

  • 【モニター】牛のおしっこで頭を洗うような、普通の人なら絶対できないことができるようにイモトさんを突き動かしている原動力は何か?

  • 【イモトさん】究極、追い込まれた時は、頭にぷっと現れる人がいる。目の前にいるディレクターだったり、田舎にいる姪っ子だったり。その思いつく誰か一人のために頑張ろうって思って、いつもやっている。

  • 【委員】番組制作の際、面白くしたいという気持ちが行き過ぎてしまうことはないのか?そういうところでいかに踏みとどまるか?どのように調整しているのか?出演者やスタッフの意見は、どのように相互に作用しているのかを教えてほしい。

  • 【イモトさん】生放送ではなくロケなので、その状況に甘えて、自由にやっている。制作スタッフを信頼して、彼らが編集するのならば大丈夫!というふうに。たまにエゴサーチをすると「言葉遣いが悪い」など言われていることもあり、反省もする。でもロケ中にそれを考えすぎて、自分のよさが出なくなるのも嫌なので、基本、ノンストップでやっている。

  • 【加藤さん】表現については、よくネットで「テレビが自主規制して表現が苦しくなってきた」などと言われているが、日本テレビではあまりそういうことはない。イモトも言っているように、のびのびとやる。一つの価値観とか、固定観念だけでものを見ないということを含めて、多様な見方をしてもらえると嬉しく思う。

  • 【モニター】イモトさんにとって『イッテQ』という仕事は、どういう存在なのか?

  • 【イモトさん】全て。この10年に関しては仕事が全て。20代全部、仕事。自分を表現する全てだった。だからこれからは、アマゾンや雪山ばかりではない、きらきらしたものも見ていこうと思っている。アンコールワットなど海外の遺跡にはたくさん行ったが、京都の金閣寺、銀閣寺を見たことがないことについ1年前に気づき、最近は国内の行ったことがない所に一人で行くようにしている。

  • 【蛯原アナ】会議の最後に、イモトさんから感想を一言。

  • 【イモトさん】皆さんの鋭さにびっくりした。すごく年上の方としゃべっているような感覚だった。これまで自分の情報源はツイッターのエゴサーチしかなかったので、こんなふうに思ってくださる方もいるということがわかり嬉しい。すごく参考になったし、いい機会だった。
    (イモトさん 退場)

  • 【蛯原アナ】加藤制作局長からも一言。

  • 【加藤さん】バラエティーは、ちょっと下に見られることが多く、なかなか褒めてもらえない番組。いつも本当にくだらないと怒られる。けれども、ためにならないことも視聴者を勇気づけることがある。2011年の震災の時、一時、テレビからバラエティーの放送は一切消えた。その後、日本テレビは批判覚悟で、最初にバラエティーを復活させた。『イッテQ』も放送した。すると被災3県ですべて視聴率が20%を超えた。ためにはならない、くだらないと言われる番組だが、被災地の人たちは求めてくれていたということ。私は無駄なものなど一切ないと思っている。バラエティーがなくなっていく世界は、すごく不幸な世界になっていくのではないだろうかという感覚がある。汚いとか気持ち悪いとか言われるものにふたをして放送しなくなると、視聴者は見る機会を失うことにもなる。大人に「子どもがマネをするから放送してはだめ」と言われたら、「僕たちはマネをするなんてバカなことはしない」と声をあげてほしい。「お笑いだし、お約束だとわかっている」「素直に笑えばいいんだよ」と伝えてほしい。みなさんがこれから社会人になっていく時に、自分とは価値観の違う人に出会うかもしれない。その時に、お互いを認め合う。相手をただ否定することはしない、という世の中になっていけばいい。テレビがほんの少しでも、その環境をつくる足しになればいい。そういう番組をこれからも作っていこうと思う。

≪まとめ≫

最後に汐見委員長から、「BPO青少年委員会の一番の仕事は、放送を深いところから応援すること」であり、「放送の表現の自由を守るために活動している」と、青少年委員会の活動の意義が述べられました。さらに、「番組が真剣勝負のなかで作られているということが、きょうは手に取るように分かったと思う。『イッテQ』では、笑いを扱いながら、実は、人間にとっての文化の多様性の大切さをあわせて伝えていて、結果としてそのことがグローバル社会のなかでどれほど大切な価値あることなのかを、我々視聴者に知らせてくれている。皆さんも、きょう感じたこと、また放送から受ける影響などをポジティブに表現していってほしい」との話がありました。

以上