「世田谷一家殺害事件特番への申立て」審理入り決定
放送人権委員会は1月19日の第229回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤みきおさんの妻泰子さんの実姉で、事件当時隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送に対し入江氏は、番組の取材要請の仲介をした人物を介してテレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。その後弁護士とともに7回にわたってテレビ朝日側と話し合いを行い、放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。
このため入江氏は2015年12月14日、委員会に申立書を提出、「テレビ的技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びに(新聞の)ラジオ・テレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元FBI捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
申立人はこの中で、実際の面談において申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」を否定しているにもかかわらず、過剰な演出、恣意的な編集がなされ、「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したかのように、事実と異なる報道、公正を欠く放送をされたと主張。また、実際の面談において申立人は犯人の特定につながる具体的な発言は一切していないにもかかわらず、音声を一部ピー音で伏せるなどの過剰な演出、恣意的な編集により、申立人が殺害された長男の発達障害に関連して犯人の特定につながる具体的な発言を行ったかのように、事実と異なる報道、公正を欠く放送をされたとして、「これらは、悲しみから再生された申立人の人格そのもの、真摯に築いてきた生き方、すなわち人格権としての名誉権、自己決定権を著しく毀損するもの」と訴えている。
さらに申立人は、テレビ朝日が新聞のラジオ・テレビ欄で「被害者実姉と独占対談」「○○を知らないか?『心当たりがある!』遺体現場を見た姉証言」と実際にはない発言を本件番組の目玉として番組宣伝を行ったのは、「放送倫理に著しく違反する」と述べている。
これに対しテレビ朝日は2016年1月14日、本件申立てに関する「経緯と見解」書面を委員会に提出し、申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張した。
またテレビ朝日は、番組では「妹達には恨まれている節はなかったと感じる。経済的なトラブル、金銭トラブル、男女関係みたいなものなど一切無かったですから。」とサファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。さらに、申立人が被害者長男の「発達障害に関連して犯人の特定につながる具体的発言を行ったかのように事実と異なる報道、公正を欠く放送をされた」と述べていることについては、事件現場が世田谷区上祖師谷であることなどの情報と合わせれば、視聴者による誤った推測で「具体的な場所」が「特定」される可能性があったためで、言葉を伏せたのはそのような誤解が起きないようにという配慮であり、「公正を欠く放送」には当たらないと考えていると主張している。
このほかテレビ朝日は、新聞のラジオ・テレビ欄で「『心当たりがある!』遺体現場を見た姉証言」との表記で番組宣伝等を行ったことに関しては、サファリック氏の「(規制音)へ行ったり、そのような接点は考えられますか?」という質問に対し、申立人が「考えられないでもないですね。」と回答した点を挙げ、番組ではこの発言を新聞ラ・テ欄や番組宣伝等に利用するのに際し、「字数制限の制約の中で表現する上での演出上許容範囲であると思料しており、ご指摘のような『放送倫理に著しく違反している』とは考えていない」としている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。
放送人権委員会の審理入りとは?
「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。
* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。