NHK総合テレビ『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見の通知・公表
上記の委員会決定の通知は、11月6日午後2時から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。委員会からは、川端和治委員長、升味佐江子委員長代行、中野剛委員、藤田真文委員の4人が出席した。当該局のNHKからは、局内の調査委員会委員長を務めた副会長をはじめ5人が出席した。
まず川端委員長は、「NHKは日本で唯一の公共放送でしかも最も信頼されている。NHKなら正確な報道をしてくれるという視聴者の信頼があるのに、それを裏切ることはメディア全体の信頼度を引き下げることにつながりかねない。番組のねらいは非常に良かったが、肝心の相談場面は事実と相当にかけ離れていた。真実を追求しようとして努力を尽くすことが全くないまま、ブローカーとされる人物の言うことをそのまま垂れ流すというのは、最も問題のある態度ではなかったか」と述べた。そのうえで、「日本を代表する報道番組として、視聴者の信頼を得られる素晴らしい放送を今後も作っていただきたい」と要望した。
続いて藤田委員が、「NHKの調査報告書は『NHKガイドライン』の枠の中にとどまることで、視野を狭くしてしまったのではないか。現場でこの意見書をかみしめて欲しい」と述べた。中野委員は「放送された内容と事実の間に大きな乖離があった。視聴者側に向いた調査報告書にして欲しかった」と述べた。升味委員長代行は、「特に『クローズアップ現代』という番組だけに残念だった。時代の先端に切り込む姿勢を失わないで欲しい」と述べた。
これに対してNHK側出席者は、「今回の決定を真摯に受け止める。取材、制作、放送のあらゆる点で多くの問題があったことを率直に認めざるを得ない。"視聴者のために公共放送がある"という原点に戻り、信頼される放送、番組制作に取り組みたい」と述べた。
このあと、午後3時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には27社77人が出席し、テレビカメラ7台が入った。
初めに川端委員長が「相談場面は事実とかけ離れた情報を視聴者に伝えている。報道番組として許容される範囲を著しく逸脱していた点で非常に問題があり、重大な放送倫理違反があると判断した」と述べた。さらに、「政府側のメディア規制の動きが目立っている状況のなかで、総務省の文書による厳重注意の行政指導と政権与党の事情聴取は、問題があると指摘せざるを得ない」と強調した。そして、「『クローズアップ現代』は、これからも良心的な番組を作り続けて欲しい」と要望した。
続いて藤田委員が、「委員会の調査はNHKの調査報告書への疑問から始まった。この意見書を読んで、自分たちの番組作りはどうだったのかを検証して欲しい」と述べた。中野委員は、「慎重に進めた事実認定の結果、放送された内容と事実の間にある落差が大きすぎると感じた。意見書を基に良い番組作りを進めて欲しい」と述べた。升味委員長代行は、「視聴者に報道が真実かどうかを確かめる術はない。制作現場の皆さんは、視聴者が番組を見て、その内容を信じて社会を見る目をはぐくんでいくことを考えながら、制作にあたって欲しい」と述べた。
記者とのおもな質疑応答は以下のとおりである。
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Q:「重大な放送倫理違反」と判断したが、「重大な」が付いた理由は?
A:視聴者が報道番組に寄せる信頼を裏切るレベルの倫理違反、という意味で「重大な」という形容を付けた。(川端委員長) -
Q:この事案が「やらせ」でなければ何が「やらせ」なのだろうかという疑問がある。委員会では議論にならなかったのか?
A:この問題を「やらせ」のあるなしということのみで判断するべきではないと考えた。また、「やらせ」の定義の問題にしたくないとも考えた。番組は、事実が全くないのにゼロから作り上げたわけではないので、ねつ造とまでは言えない。多重債務者は信用情報機関のリストに載っている状態であり、ブローカーとされた人物は専門用語を使って手口を詳しく語ることができた。さらに、多重債務者は全く出家のことを考えていない、という状態ではなかった。従って、NHKガイドラインにあるような「事実のねつ造につながる『やらせ』」ではない。ただ、視聴者の一般的な感覚からすると、NHKガイドラインの「やらせ」の概念は狭いと感じるだろう。(川端委員長) -
Q:自民党内には「BPOはお手盛りではないか」という意見がある。BPOに対する疑念があるのではないか?
A:BPOの意見に対して放送局が改善策を取る、という「循環」があるようになったが、こうした「循環」が完全な状態ではないのも事実で、放送倫理が問われるケースが少なくなっているわけではいない。ただ、少なくとも放送局はBPOの意見に従って自主的自律的に改善策を講じていて、前には進んでいるのではないか。(川端委員長) -
Q:野党からのNHKへの事情聴取も今回あったが、与党とどう違うのか?
A:政権与党であるがゆえに、呼ばれた放送局側は事実上の強制力を感じざるを得ない点が問題である、と意見書で指摘した。(川端委員長) -
Q:A氏がブローカーであるかどうかについて、委員会はどのように判断したのか?
A:ブローカーの定義そのものが難しいが、少なくとも「経営が行き詰った寺などを多重債務者に仲介することによって、多額の報酬を得ているといいます」という番組でのナレーションとは違うと判断した。(升味委員長代行)
A氏は活動拠点を持って、B氏以外の人の出家詐欺を仲介した、という事実は確認できなかった。(藤田委員) -
Q:出家詐欺が広がっているかどうかの、委員会としての判断は?
A:広がっていることを確定的に言える材料はなかったが、一方、全然広がっていない、とも言いきれないと判断した。(川端委員長)
番組に登場する出家の仲介をうたうサイトの存在は確認した。(中野委員) -
Q:ブローカーではない人物をブローカーとして放送したことについて、委員会での議論はどのようなものだったのか?
A:いわば、相談場面の丸投げという形で取材がなされたこと自体に大きな問題がある。事後の取材もない。安直な取材だったことに問題を感じた。(升味委員長代行)
以上