第226回 – 2015年10月
ストーカー事件映像事案のヒアリングと審理、出家詐欺報道事案の審理、ストーカー事件再現ドラマ事案の審理、STAP細胞報道事案の審理、自転車事故企画事案の審理…など
ストーカー事件映像事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。出家詐欺報道事案の「委員会決定」修正案を検討し、ストーカー事件再現ドラマ事案の「委員会決定」案を議論した。STAP細胞報道事案を審理し、自転車事故企画事案の審理に入った。
議事の詳細
- 日時
- 2015年10月20日(火)午後3時~8時55分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 1.ストーカー事件映像事案のヒアリングと審理
2.出家詐欺報道事案の審理
3.ストーカー事件再現ドラマ事案の審理
4.STAP細胞報道事案の審理
5.自転車事故企画事案の審理
6.その他 - 出席者
- 坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員
1.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案のヒアリングと審理
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが会社の人間が見れば分かる。車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴え、「ストーキングしている人物が自分であるということを広められ、退職せざるを得なくなった」と主張する申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは「番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張。また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今回の委員会では、申立人と被申立人のフジテレビから個別にヒアリングを行い詳しく事情を聴いた。申立人は冒頭陳述で「放送を見ると、自分が警察で見せられたものと同じ映像が流され、自分であることは間違いないと確信した。これだけのことをしたからには退職は仕方ないとは思うが、事実と違う内容の放送をされ、会社の人たちに無視されたり、あからさまに睨みつけられたりするのは、正直辛いものがあった」と訴えた。また、「誰かの指示を受け、共謀して、いじめやいやがらせをした事実はない」と述べた。さらに申立人自身が行なったストーカー行為として放送された実写映像について、「コンビニで被害者の写真は撮っていない。被害者の車を撮っていた。あからさまな尾行、つけ回し、ずっと後ろを走っていたという事実はない」として、被申立人に対し「事実と違う内容の放送があったことと、個人を特定できる放送をしたことを認めてもらえればいい」と主張した。
一方、フジテレビからは編成担当幹部ら4人が出席し、ストーカー事件に関わる申立人の実写映像を放送したことについて、「視聴者の方が信ぴょう性を感じられるように、そういった情報、ないしは実際の映像を用いている。申立人を描き、申立人を基にした内容であるのは違いないが、申立人を特定する内容ではない。あくまで描写の一部というふうにとらえている」と説明。そのうえで、「申立人自身や申立人が運転している車、会社の駐車場などの映像には十分なマスキングをしていると考えているので、同定はできない」と主張した。また、取材協力者らが放送前に周囲に会社のことが放送される旨流布してしたことについて、「事実、流布が行なわれてしまったことを考えると、確かに、流布されるような人物であったことを見抜くことができなかったことは反省すべきだと思うが、予見することはその時点では非常に難しかった」と述べた。さらに、取材で知り得た事実を他言しない旨の承諾書を取材協力者と取り交わしていたことについては、「取材協力者の方々のプライバシーと安全を守るという意図で承諾書を交わす。安全のために不必要な言論は控えた方が良いですよという意味合いで交わしている」等と説明した。
ヒアリング終了後、委員会は論点に沿って双方の主張を整理しながら議論し、次回も審理を続けることになった。
2.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の審理
審理の対象はNHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」として紹介された男性が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
NHKは「収録した映像と音声は、申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
今回の委員会には第2回起草委員会を経て修正された「委員会決定」案が提出された。結論部分を中心に審理した結果、ほぼ内容がまとまり、今後細部について検討することになった。
3.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたとして、謝罪・訂正と名誉の回復を求める申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された音声データや加害者らの映像にはマスキング・音声加工を施した。放送によって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
この日の委員会では、第1回起草委員会を経て提示された「委員会決定」案の検討に入った。委員会の判断のポイントについて起草担当委員が説明を行い、各委員が意見を述べた。そのうえで、11月初旬に第2回起草委員会を開らき、さらに検討を重ねることになった。
4.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理
対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
9月の委員会後、申立人から「反論書」が、被申立人から「再答弁書」が提出された。今回の委員会では、事務局が双方の新たな主張を取りまとめた資料を基に説明した。次回委員会では、論点の整理に向けて審理を進める予定。
5.「自転車事故企画に対する申立て」事案の審理
審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。
同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
これに対してフジテレビは、事前の説明が適切でなかった点は申立人にお詫びしたが、「再構成ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない」とし、この点は視聴者も十分に理解できるので、申立人の名誉と信用を侵害したものではないと主張している。
9月の委員会で審理入りが決まったのを受けて、フジテレビから申立書に対する答弁書が提出された。今回の委員会では事務局が双方の主張をまとめた資料を配付して説明した。
6.その他
- 次回委員会は11月17日に開催かれる。
以上