意見交換会(松山)概要
◆概要◆
青少年委員会は、「視聴者と放送事業者を結ぶ回路としての機能」を果たす役割を担っています。その活動の一環として、在松山放送局の皆様との相互理解を深め、番組向上に役立てることを目的に、7月3日に愛媛朝日テレビ役員会議室で「意見交換会」を開催しました。四国地区では初めての開催であり、15時から18時まで、活発な意見交換が行われました。
BPOからは、汐見稔幸・青少年委員会委員長(白梅学園大学学長)、川端裕人・同委員(作家)、緑川由香・同委員(弁護士)と三好晴海・専務理事が参加しました。放送局側の参加者は、NHK、南海放送、テレビ愛媛、あいテレビ、愛媛朝日テレビ、FM愛媛の各連絡責任者、制作・報道・情報番組関係者など27人です。
川端委員の司会進行により、会合ではまず、三好専務理事が「BPO発足の経緯と役割」、事務局が「青少年委員会の役割」などについて説明しました。参加者からは、昨今の放送局やBPOに対する与党の発言などについて懸念する声があがり、更なる"自律"に向けて、放送界全体が気を引き締めていくことの重要性について委員との意見が一致しました。また、放送局側から「BPOで取り上げられることになった時点で、当該番組に問題があることが確定したかのような印象が世間に生じてしまっている」との指摘があり、事務局から「青少年委員会での議論には段階を設けており、放送局名や番組名の公表は段階に応じて慎重に行っている。また、放送前や実際には視聴していないにも関わらず意見が寄せられるケースがあることなども踏まえ、丁寧な対応および広報を心掛けている」との説明がありました。
その後、(1)地域における番組制作の課題と克服、(2)子どもが関わる事件・事故における放送上の配慮、(3)ネット情報の取り扱いについて、(4)メディアリテラシーの取り組みなどについて意見交換しました。
【意見交換の概要】
●=委員、○=放送局出席者
(1)地域における番組制作の課題と克服について
- ● 県内放送局の現状を教えてほしい。
- ○ 地域情報を取り上げる番組に各局が力を入れてきており、それぞれの局の視点で地域の魅力を掘り下げているところだ。
- ○ 「地域の人が見る地域放送」「全国の人が見る地域放送」「地域の人が見る全国放送」のバランスが難しい。青少年向け番組については、「地域の人が見る全国放送」のニーズが高いと感じているが、そうなるとローカル局制作の範疇を超えるため、積極的な番組制作が難しい。
- ○ 青少年は近くの学校や県内で起こっていることなど身近な情報を知りたいと思っていると思う。当社はラジオ社で自主制作番組の比率が比較的高いので、愛媛の10代にターゲットを絞った番組を制作できる環境にあり、特性を活かした番組編成を行っている。
(2)子どもが関わる事件・事故における放送上の配慮について
- ○ 社会環境の変化に沿って、子どもに配慮すべき時間帯が拡大しているとの思いがあるが、委員会ではどのように考えているのか。
- ● 以前に比べ、青少年の間でもタイムシフト視聴が浸透してきているとの認識がある。深夜帯だから過激な表現が許されるといった単純な状況ではなくなってきているのではないか。一方、時間帯によって表現の許容度が大きく異なる制度を運用している国もあるので、そういった制度も研究したうえで、放送局の人たちと共に、日本に適した考え方を模索していきたいとの思いもある。
- ○ ラジオはテレビに比べ、パーソナリティーの考えや思いがそのまま発信されていく傾向が強い。それが良さでもあるがリスクも大きいため、パーソナリティーを含めたスタッフが、日頃から放送が青少年に与える影響を考えていく必要があろう。
- ○ 最近ではニュース番組であっても、青少年に人気のあるタレントを起用するなど、青少年の視聴も念頭に置いた作りになっており、事件報道でも露骨な表現や直接的な表現は避けるなどの配慮をしている。
- ○ ラジオ番組に対する青少年関連の視聴者意見にはどのようなものがあるのか。
- ● パーソナリティーによる過激な発言や性的な発言についての意見が一定程度寄せられている。また、未成年と思われる聴取者の性的体験談を放送したことなどについての意見もあった。これらの意見はほとんどが親世代からのものである。一方、BPOの中高生モニターからはラジオ独特のローカルな企画などについて好意的な意見が寄せられている。
- ○ ラジオでの性的な発言が直接的な表現になってきている印象がある。かつてはもっとイメージに訴える表現が多かったと思う。最近の聴取者はインターネット情報などの直接的で過激な表現に慣れてきていることから、こうした聴取者に合わせてラジオでの表現も過激になりがちなので留意している。
- ○ 性的な事件の被害状況などのディテールをどこまで表現するかが難しい。狭いエリアを対象にした放送であり、被害者が特定されてしまうおそれが都会に比べて高い。報道によって被害者やその家族などが傷つく可能性がないかについて悩むことは多い。
- ○ 被害者映像の取り扱いが悩ましい。テレビメディアの特性上、映像をいかに入手するかという問題が出てくる。卒業アルバムや写真シールなど、色々な形で被害者映像を入手するが、映り方によっては被害者の人物像に予断を与えかねないので気を付けている。
- ○ 親子で罪を犯した場合が難しい。成人である親の名前を実名で出すと、子どもの匿名性が維持出来なくなるといったケースも考えられる。
- ○ 海外の少年刑務所で更正プログラムを受けている少年達のドキュメンタリーを作った際に考えさせられた。同プログラムを受けている少年達は、社会復帰間近の模範囚で、厳しい訓練を受けて立ち直ろうとしていることに誇りを持っていた。日本の少年法に則り、モザイクをかけて放送する旨を少年たちに伝えたところ、「また悪者扱いか」と大変失望された。顔を出すことで当該少年に不利益があるとは思えないし、親権者も顔出しを望んでいた。色々な考え方があるかと思うが、難しい問題だ。
- ● 日本の少年院を退院して社会復帰した人を取り上げた番組で、本人の強い意思があったことから、放送局内での様々な議論や周辺情報の確認を経て、顔出しで放送したとの報告があった。放送後も特に問題は生じていないとのことなので、適切な判断だったのではないかと思う。しかし、マスメディアで放送される影響は、本人が考えている以上に広がる可能性がある。放送だけではなく、週刊誌やインターネットなど、他のメディアにも波及しかねない。社会復帰後の生活を保護しようという視点から、個別に慎重な判断をしていくことが重要ではないか。
(3)ネット情報の取り扱いについて
- ● インターネット上の情報をどう取り扱うかが、放送局共通の新たな課題として浮き上がってきている。ガイドラインや放送局内での共通理解の有無、あるいは現状を教えてほしい。
- ○ インターネットに特化した対応マニュアルやガイドラインはない。インターネットはあくまでも情報を得るためのツールのひとつであり、他のルートから得た情報と同様、情報の真贋確認などを慎重に行っている。
- ○ SNSを含めたインターネット上の情報を鵜呑みにして放送することは絶対にない。取材に進むにあたっての入口に過ぎない。
- ○ キー局を中心にSNSと放送の融合を加速させる動きが進んでいる。SNSやインターネット上の情報は、裏取りも含めて、より慎重な取り扱いが求められている。
- ○ 視聴者からの投稿動画を広く募集する動きも進んでいるが、当該動画の真贋をどこまで見極められるのか不安だ。大きな交通事故や天変地異などの映像が投稿されると、すぐに飛びつきたくなるが、投稿した方への詳細な取材や行政・司法機関への確認などを行ってはじめて情報の信頼性が担保されることを頭に入れておかねばならない。
- ○ 事故情報など、速報性が求められる場合もある。そういった場合には情報の確認をしつつも、情報の出所を明らかにしたうえで一次情報を放送することもあり得る。
- ○ 映像については著作権がクリアされているかどうか分からないので、必ず実際に情報提供者と連絡を取り、確認した上で使っている。
- ○ 生放送でSNSを利用した番組へのコメントや意見募集を行う際には、大人数でスクリーニングしている。SNSを利用することで双方向性が高まり、番組が豊かになり、生放送らしさも出てくるので今後も活用したいと考えているが、非常に手間がかかるし、注意が必要な手法でもある。
- ● インターネット上で流行していることや人気のサイトを紹介する際には、青少年への影響にも配慮してほしい。
- ● インターネット上の過激な映像を紹介する企画が散見するが、そういった映像の中には、仮に放送局自身が取材・撮影していたら放送しなかったと思われるようなシーンであっても、「インターネット上ではこんな過激映像が流れています」という形で放送しているものがあると感じる。
【まとめ】
最後に、汐見委員長から出席者に謝辞が述べられるとともに、「新たなメディアが急速に発達しているが、それに対応した新しい倫理基準や法律が用意されているわけではないので、その都度考えていく必要がある。悩ましい問題だからこそ率直な意見交換が大事だ。その意味で、今回の意見交換会は非常に有意義だったと思う。また、意見交換会に先立ち、各放送局の番組を視聴したが、地元の素晴らしいものを再発見し、それをきっかけに若い人が自分たちの足元をもっと豊かにしていくサポートになるような、広い意味での"街づくり"をしているように感じた。番組を通じて若者たちが小さな夢を育めるような、新しい情報環境をぜひ作っていただきたい」との感想があり、意見交換会を終えました。
以上