第93回–2015年5月
"出家詐欺"報道で「やらせ」疑惑が持たれているNHK総合の『クローズアップ現代』審議入り…など
第93回放送倫理検証委員会は5月8日に開催された。
委員会が今年2月に出したテレビ朝日の『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見について、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することとした。
"出家詐欺"の追跡報道をめぐって「やらせ」疑惑が持たれているNHK総合の『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)について、当該局から最終報告書が提出され意見交換を行った。その結果、放送倫理に違反する疑いが濃く、委員会として意見を言うことに意味がある事案であることで一致し、『クローズアップ現代』とその基になった『かんさい熱視線』(2014年4月25日放送 関西ローカル)の2番組を審議の対象とすることになった。
議事の詳細
- 日時
- 2015年5月8日(金)午後5時~7時30分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 1.テレビ朝日の『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見の対応報告書を議論
2.「やらせ」疑惑が持たれているNHK総合の『クローズアップ現代』"出家詐欺"の討議(審議入り) - 出席者
-
川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員
1.テレビ朝日の『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見への対応報告書を了承
2月9日に委員会が通知公表した、テレビ朝日の『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見(委員会決定第21号)への対応報告書が、4月末に、当該局から委員会に提出された。
報告書では、再発防止とより良い報道を目指して、検証委員会の担当委員を招いた勉強会を社内で開催したことや、問題発覚後に策定してすでに実施している再発防止策について、委員会決定後にその実施状況を検証し、必要に応じて見直しをしていることなどが記されている。
委員会では、勉強会の一部が紹介された広報番組も視聴した上で意見交換を行い、この対応報告書を了承して公表することとした。
2."出家詐欺"の追跡報道をめぐって「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』を審議入り
NHK総合の『クローズアップ現代』で2014年5月14日に放送された「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」は、出家して僧侶となり法名を授けられる「得度」の儀式を受けると、家庭裁判所の許可を得て戸籍の氏名のうち名のほうを法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。
番組では、宗教関係者や行政の担当者が、不活動宗教法人の対策に苦慮していることや、実際に「ブローカー」と「多重債務者」が相談している隠し撮りの現場などが紹介されたが、その相談シーンは「やらせ取材」だったと週刊誌が告発した。
NHKは、放送で「ブローカー」とされた人物が「自分はブローカーではない」などと主張しているため、外部委員を交えた調査委員会を作って関係者の聞き取りを行い、4月28日に最終報告を公表した。当委員会にもその報告書が提出された。
報告書は、「意図的または故意に、架空の場面を作り上げたり演技をさせたりして、事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』はないと判断したが、一方で、放送ガイドラインを逸脱する『過剰な演出』や『視聴者に誤解を与える編集』が行われていた」と結論付けている。
委員会では、報告書に記載されている「やらせ」と「過剰演出」の区別の適否や、主要な関係者の言い分が異なることをどうとらえるか、などを議論・検討した。また、番組で紹介された"出家詐欺"とされる事件の事実関係をはじめ、番組全体についても意見を交換した。その結果、放送倫理に違反する疑いが濃いことと、委員会として意見を言うことに意味がある内容の事案であることで一致したため、『クローズアップ現代』とその基になった『かんさい熱視線』(2014年4月25日放送 関西ローカル)の2番組を審議の対象とすることになった。
【委員の主な意見】
- NHKの報告書には違和感を禁じえない。「やらせ」ではないということに終始しているのではないか。「やらせ」の有無の問題だけにとどまらず、どこに番組表現上の問題があったのか、なぜ視聴者に誤解を与えてしまったのかを、きちんと説明していない。
- NHKが自主的に第三者を交えた調査委員会を立ち上げ、迅速に報告書を作成したこと自体は、評価してもよいのではないか。
- なぜこうした問題が起きたのか、という基本的な問題意識や説得力ある指摘・言及を、報告書から読み取ることができない。組織・企業風土・職場環境など幅広い観点からの分析が必要ではないだろうか。
- 報告書を読むと、問題のシーンが「やらせ」かどうかしか調査・検証していないことに疑問を感じる。審議入りして、委員会として言うべき意見を言うことにも意味があるように思われる。
- 視聴者的な視点から見た時、この番組が伝えようとしていることに対して疑問を感じたところがあった。例えば"出家詐欺"は、水面下で本当に広がっているのだろうか。
- 当該局の最終報告書が公表された同じ日に、総務省の行政指導が出されたことは、BPOの効果的な活動に期待するという国会の付帯決議の趣旨からしても、いかがなものかと感ずる。
以上