「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」審理入り決定
放送人権委員会は5月19日の第220回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。
番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イ
ジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供
された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。登場人
物、地名等固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者ら
の映像にはマスキング・音声加工が施されていた。
この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分
の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたと
みられる放送内容で、名誉を毀損されたと訴える申立書を4月1日付で委員会に提出し、謝罪・訂
正と名誉の回復を求めた。
申立書によると、「取材は被害者の一方のみ、加害者の調査は一切していない」とされ、取材を
受けたとされる被害者らが放送前に、同社での事件が番組で放送されることを社内で言い回って
いたという。その結果、放送前にそれが会社内等に知れ渡り、その後の放送により申立人及び家
族が精神的ダメージを受けたと主張している。
これに対しフジテレビは4月27日、「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件番組は、特定の
人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組であり、取材した映像・
音声・内容を加工や変更を加えることで、本件番組の放送によって人物が特定されないよう配慮
しているから、相手方側の取材を行う必要性がない」と主張している。
そのうえで同社は、「本件番組を放送したことによって人物が特定されて第三者に認識されるもの
ではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等
の必要はない。また、申立人が自らの名誉が毀損されたとする原因事実は、本件番組及びその放送
自体ではなく、本件番組で申立人所属の会社のことが放送される旨会社の中で流布されたことにあ
ると考えられ、本件番組の放送による人権侵害があったとは考えられない」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満た
していると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。
放送人権委員会の審理入りとは?
「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。
* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。