放送人権委員会

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2015年5月19日

「出家詐欺報道に対する申立て」審理入り決定

放送人権委員会は5月19日の第220回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、NHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えたもので、出家を斡旋する「ブローカー」が出家により名前を変えることを考えていた「多重債務者」の相談を受けるシーンや、その二人のインタビューなどが放送された。二人とも匿名で、映像は肩から下のみ、または顔にボカシが施され、音声も加工されていた。
この放送に対し、番組内で「ブローカー」として紹介された男性が本年4月21日、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出。その中で、「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない」としたうえで、「申立人には、手の形や手の動き、喋り方に特徴があり、申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」と述べた。その結果、2014年末頃から番組ホームページで番組の動画を閲覧した「父親や友人などからは、『お前ブローカーなんてやっているのか!』といった強い叱責がなされた」として、申立人がブローカーではなかったとする訂正放送を求めている。
さらに申立人は、撮影は「再現映像若しくは資料映像との認識で撮影に応じたもの。申立人は上記問題部分がそもそも放送されるのか、放送されるとして、いつ、どの番組で、どのように放送されるのか、といった点について全く説明を受けていない」と主張している。
これに対しNHKは5月14日に委員会に提出した本申立てに対する「経緯と見解」書面の中で、「十分な裏付けのないまま、番組で申立人を『ブローカー』と断定的に伝えたことは適切ではなかった」としながらも、「申立人は『われわれブローカー』と称するなど、ブローカーとして本件番組の取材に応じており、取材班も申立人がブローカーであると信じていた。申立人は、インタビューの中で、仲介する寺や住職の見つけ方、勧誘の仕方、多重債務者を説得する際の言葉の使い方を詳しく語るなど、ブローカーと信じるに足る要素が多くあった」と反論している。
NHKはまた、記者やディレクターが、取材の趣旨や放送予定も収録前に申立人に伝えていたとするとともに、「収録した映像と音声は申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。
尚、申立書では、NHKが2014年4月25日に関西ローカルで放送した『かんさい熱視線』についても放送内容が類似しており、同様の問題点を指摘している。しかし、『クローズアップ現代』の動画が番組ホームページ上で2015年4月まで閲覧可能だったのに対し、『熱視線』は放送後ホームページでの閲覧は一切不可能だったため、運営規則第5条1.(4)の「原則として、放送のあった日から3か月以内に放送事業者に対し申し立てられ、かつ、1年以内に委員会に申し立てられたものとする」との要件を満たさないことから、『かんさい熱視線』は審理対象に含めないと判断した。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。