放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会

2015年1月22日

九州・沖縄FNS(フジテレビ系)各局と「意見交換会」を開催

フジテレビ系の九州・沖縄ブロック8局と放送倫理検証委員会の委員との意見交換会が、1月22日に福岡市内のホテルで開催された。同じ系列の地域放送局を対象とした意見交換会は3回目となる。
放送局側からは報道、編成、制作の部長など30人、委員会側からは是枝委員長代行と斎藤貴男委員が出席した。主な内容は以下のとおりである。

意見交換会ではまず、是枝代行と斎藤委員が、委員会の議論などを通じて日頃考えていることを述べた。
是枝代行は、「出演者のインタビューや自伝本などを鵜呑みにして裏取りもせず、ドキュメンタリーという枠の中で報道したり、再現ドラマにしたりすることが非常に増えている。その結果、虚偽の放送をしてしまったというケースがBPOの事案でも目立っている。本来なら疑ってかかることが結果的に取材対象者を守ることにつながるはずで、放送にかかわる人間は、いくら疑り深くても悪いことはないと思う。ドキュメンタリー、バラエティーを問わず、再現であることを前提にドラマを作ることの倫理性の欠如は、もう少し厳しく問われるべきではないか」と、映画やドキュメンタリーの制作者としての視点から、昨今の再現映像の氾濫について問題を提起した。
また斎藤委員は、この2年間の委員としての経験を踏まえ「テレビの制作者が、感動的な物語を作りたがりすぎるのではないか。世の中はそれほど単純なものではない。公に出すものである以上、個々の裏取りはもちろん、その背景にある構造など、すべて番組に出さないまでも、きちんと調べてほしかったと感じることは多い。しかし、委員会の議論で表現の自由に常に気を使っていることと、意見書を出すことで現場の人々を萎縮させてはいけないと絶えず意識していることは、ぜひ皆さんにもわかっていただきたいと思う」と語った。
その後、具体的な事例をもとにした意見交換に移り、審議事案となった鹿児島テレビの「他局取材音声の無断使用」、テレビ熊本が対象局のひとつとなった「2013年参議院議員選挙にかかわる2番組」、そして討議事案となったテレビ西日本の「待機児童問題報道」の各事案について、当該各局から反省点や再発防止策について具体的な報告がなされた。
その中で出席者からは「実感として、情報と意識の全社的共有につきるなと思った。当該のセクションは契約の方が多く、選挙に関する情報と意識の共有が不十分で、放送人としての公共性の意識や選挙の公平性など会社としての教育も足らなかった」「スタッフとプロデューサーの距離感は密接でいわゆる丸投げといった問題はなかったが、取材が甘く裏取りもきちんとしていなかった。また、日頃の人間関係作りも含め、取材対象者や放送することによって影響を受ける関係者との距離感のあり方を、スタッフ間でもっと詰めておくべきだった」といった反省や、「再発防止策でチェック体制などというと現場が萎縮するのではという心配があったが、スタッフが積極的に日頃の勉強会やチェックを重ね、それがルーティンになることで、記者活動や取材活動にもむしろプラスになっていると感じる」といった発言がなされた。
これに対し、是枝代行からは「審議入りしたのかしなかったのか結果だけが取り上げられがちだが、審議入りした番組について意見書を書くのは、皆さんに読んでいただきその経験を共有財として持ってもらい、現場にフィードバックしてもらうためである」という説明があり、また、斎藤委員からは正社員と契約者が協業する放送の制作現場を念頭に「下積みから頭角を現す人間がいたら、表舞台に出してあげるような雰囲気や、表現者ならではのインセンティブを設けるような仕組みをぜひ検討してほしい」という発言があった。
最後に是枝代行より、「BPOは権力の介入に対する防波堤である、という自負が正しいのであれば、直接圧力が放送局に向かわないために何らかの役割が果たせるのではないかと思っているし、その覚悟をもって参加している。今回、意見交換会に出席して、その気持ちを新たにした」と締めくくった。

 今回の意見交換会終了後、参加者からは、以下のような感想が寄せられた。

  • 「BPO」という言葉のイメージが先行していたため、かなり気構えて参加したのですが、思いを新たにすることができ、非常に有意義な会になりました。様々なメディアが世の中にあふれ、ともすれば「放送」の役割や信頼性が、ひところより下がっている今の時代に、第三者的な視点を持って、時には厳しい意見、叱咤激励をしてくださるのが「BPO」だと感じました。もちろん、それは放送局自らが律しなければいけないことであり、そうした日々の努力によって、放送の質をより高めていく必要が、今後さらに高まってくると感じました。

  • 是枝委員長代行の「現場に悪い人間が減り、いい人間が増えた」との話は胸を突き刺さりました。最近の事例は「まさかそんなこととは思わなかった」「だまされた」という話が多いとのこと。「疑ってかかるのが取材対象者を守ることにつながる」…まさにその通りだと思います。プロダクションの派遣社員が多い現場。ちゃんと情報を共有しているか?責任までも押し付けていないか?現場の管理職として、考えさせられる時間でした。

  • 具体的な事例を挙げたことによって人員の不足・情報の共有、チェック体制といった点で各局の皆様が同じような悩み及び課題をお持ちだということが良く分かりました。またコミュニケーションを取ることの大切さを改めて感じさせられた会でもありました。最後に是枝さんが「権力の介入に対する防波堤となるのがBPOの役割」とお話になったところは印象的でした。

以上