放送人権委員会

放送人権委員会  決定の通知と公表の記者会見

2015年4月14日

「大阪府議からの申立て」事案の通知・公表

放送人権委員会は4月14日、上記事案に関する「委員会決定第54号」の通知・公表を行い、本件放送は申立人の名誉を毀損したり名誉感情を侵害するものではなく、放送倫理上の問題もないとの「見解」を示した。

[通知]
通知は午後1時からBPO会議室で行われた。委員会からは坂井眞委員長と起草を担当した市川正司委員、小山剛前委員が出席し、申立人本人と被申立人であるTBSラジオ&コミュニケーションズの取締役ら4人に対して委員会決定を通知した。
まず、坂井委員長が放送人権委員会の委員の構成が4月1日付で変わったが今回の委員会決定については審理に参加した委員名で通知・公表するとした上で、「決定の概要」「委員会の判断」を読み上げる形で、申立人と局側の双方に決定内容を伝えた。
続いて、小山前委員が「一般論としては申立人が言うように、公人といっても何を言われてもいいというわけではない。今回の事案に当てはめると、申立人がこだわっていた『キモイ』という言葉は当該局が初めて出したものではなく、一連の動きの中で既に出てきている言葉だったことと、申立人本人が府議会議員であることなどからこのような結論となった」などと、説明した。
局側が一旦退席した後、委員長から委員会決定に対する意見・感想を聞かれた申立人は、「この委員会決定については『はい、分かりました』ということです」と答えた。続いて一連の問題と市長選挙との関連について、「個別の放送に関してはここで取り上げられて議論の対象となるが、一連のこと全体に対して実際どうだったのかということについて検証する場がないではないか」と述べた。
また、申立人と入れ替わって席に着いたTBSラジオ&コミュニケーションズの取締役は「私どもの主張のうちで公人としての議員の不適切な行動を論評したということを一定程度受け止めていただいたと考えている。一方では、やはり人権というものへの配慮は我々が放送するうえでも大切なものなので、この決定を社員教育などに使いながら今後の一つの基調としてやっていきたい」と述べた。
市川委員は、番組での発言は申立人の行動に対するもので、人格に対してのものではないとする局側の主張に対し「それらを峻別することは難しいという立場に立って判断した」と述べた。また、「キモイ」という言葉について「すべての場合許容されるわけではないと書いてある。その言葉の厳しさというか、例えば子供に対して使われたらどうかという問題もあるので、慎重に考えていただきたい」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館の2階ホールで記者会見を行い「委員会決定」を公表した。23社46人が取材し、テレビカメラ5台が入った。
会見では、まず坂井委員長が主に「決定の概要」と「委員会の判断」の部分を読み上げながら決定の内容を説明した。続いて、補足意見について、「三宅前委員長が9年の在任中に4件の政治家に関わる事案の判断に関わられた経験があり、その経験を前提に補足の意見を書かれた」としたうえで、その主旨を紹介した。
市川委員は、番組での論評は議員の行為だけに着目したもので、人格に対する非難、あるいは社会的評価の低下とはならない、と局側が主張したことに対して、「行為と人格を峻別することは困難な場合が多く、本件でもそれを峻別する事はできないと判断した。枠組みとしては、一定の社会的評価の低下、名誉感情の侵害があるという前提で、それが公共性・公益性との関係で許容されるのかということを、委員会としては比較考量して判断した」と局側の主張する枠組みと委員会決定の枠組みの違いについて説明した。
また、補足意見に触れ「私も同感と考えている」と述べた。
小山前委員は「バラエティー番組の特性は局側が強調していたポイントのひとつだった。このバラエティーについては、かつて放送人権委員会決定第28号があるが委員会決定第28号は、独り歩きして、場合によっては都合よく拡大解釈されているのではないかという印象を持っている。バラエティーだから全部許されるのか、どこまで許されるのかは、今後、局側としても慎重に考えていかなければいけない。また、人権委員会の宿題でもあるのではないかと認識している」と述べた。
続いて質疑応答が行われた。

(質問)
日本テレビの『スッキリ!!』についての申立てが1月に取り下げられたが、申立人は取下げの理由をどう説明しているのか。
(坂井委員長)
取り下げられた事案なので、その理由を説明するのは、あまり適当ではないと思う。放送人権委員会は申立てがあって初めて審理が進められるので、理由の内容によって取り下げを認めないとかという話でもない。

(質問)
今回の判断には、『スッキリ!!』に関する委員会としての判断は示していないということか。
(坂井委員長)
そうだ。『スッキリ!!』は取り下げられた時点で、審理の対象ではなくなっている訳なので、今回についてはTBSラジオの放送のみについての判断ということだ。ただ、ここで説明した内容については、一般的な考え方も入っているので、それについて、突然また違ったことを我々委員会が言うとは思えない。
(小山前委員)
『スッキリ!!』の事案は、ヒアリングをやる前に取下げられた。ある程度、論点を整理したが、やはりヒアリングを聞いた上で具体的な事実関係とか、具体的な主張の内容を確認することになる。
一般論としては、今回の決定で使った規範の部分は取り下げられた番組にも、当然そのまま当てはまる。したがって、どういう場合にどこまで許容され、あるいはどういう場合に、人格権侵害になるかという判断の基準自体は同じだが、例外的に人格権侵害に当たるような事情があったのかどうかの確認は全くやってないので、その結論については何も申し上げることができないということだ。

(質問)
決定では「申立人の主張には理由がない」となっているが、これは問題なしという見解とはまた異なるものなのか。
(坂井委員長)
理由がないということは、申立人が主張している人権侵害、放送倫理上の問題は認められないという結論だと理解していただいて結構だ。結論として、申立ての趣旨は認められないということと全く同じだ。

(質問)
問題なし、という判断をする事によって、みだりに申立てを行うような傾向は、少し抑えられると考えるか。

(坂井委員長)
「みだりに」というところに非常に難しい評価が入っているので答えづらいが、申立てがいっぱいあればいいとは決して思っていないけれども、人権侵害や放送倫理上問題があるといった事案が出てしまえば、それは遠慮しないで申立てていただいたほうがいいと思っている。この事案で人権侵害、放送倫理上の問題はなかったからといって、一般的に、申立てることが控えられる方向になるとは思っていない。あくまで個別の判断だ。

(質問)
みだりにというか、似たような申立てがあまり起こらないように、例えば、審理入り自体を行わないという判断が今後あり得るのか。
(坂井委員長)
我々としては、原則個人の申立てで、人権侵害、名誉毀損やプライバシー侵害がある、ないしは放送倫理上の問題があるという申立てがあれば、審理を開始するということになる。そこでは、規則に定められた要件に合うかどうかということだけを考える。
それから先は個別事案を判断していく。地方議会議員は全てを受忍しなければいけないということは、もちろん無い訳で、地方議会議員であっても最も極端な例を言えば、寝室だとか浴室を暴かれていいはずはない。
ただ、そういう立場の方が申立てる時点で、申立てすべき事案かどうか本人ご自身が判断をすると思う。公的な立場だからそういう問題にはならないと考えるのか、そうでなく、いくら公的な立場でもやり過ぎだと思えば申立てる。我々は、規則に従って要件があえば審理を開始して判断をするということになる。

(質問)
三宅前委員長の補足意見の所にもあるし、市川委員も同感ということだが、受忍限度は地方議員よりも国会議員のほうがさらに高くなくてはいけないという指摘がある。これは昨今の政治状況等を反映しての補足意見あるいはお考えと考えてよいのか。
(坂井委員長)
私の個人的な意見だが、補足意見には「国政を担う政治家の行動についてはなおさら妥当する」とあるだけで、必ずしもより高くなるとまでは書かれていない。地方議会議員の場合は、一般私人に対する論評よりも受忍すべき限度は高いというのは、今回の決定で我々が書いたことで、それについて、なおさら妥当すると書いているだけだ。ただ、選挙で選ばれる議員は、公的な立場として最も強いということは、争いのないことだろうと思う。
(小山前委員)
公人というのはずいぶん広い意味で使われる場合もあって、この決定では公人という言葉は使っていない。「公人が…、公人が…」と言うのではなくて、それぞれがどういう人かで判断したほうがいい。
(市川委員)
委員会としては、これは濫用的な申立てであるとか、あるいは介入的な要素があるとか、そういうことを判断するという立場にはないし、そういう基準も持ち合わせてはいない。委員会としては、来たものをまず申立て要件にあてはまるかどうかを粛々と検討する。
放送人権委員会の場合には、人権侵害あるいは放送倫理違反という主張があれば審理入りをしなければいけないということになっている。それが本当にあるかどうかは全く考えずに審理入りをするというふうになっている。そこでの審理の開始というのは、ある意味では無色透明なものだと理解してほしい。
その上で、委員会としては、なるべく速やかに結論を出していくことによって、申立てするかどうかの判断を、自ずからみなさんが考えてくれるようになるのではないかと考えている。
(坂井委員長)
公人という言葉を使っていなくて個別に判断する訳だが、数年前ある国家試験委員をやっている方についての事案があった。もちろん、公職選挙で選ばれる方とは違う訳だが、国家試験委員をやっている方の公的な立場はどうなのかというような個別の判断をした。それぞれ、事案によって判断されていくことになると思う。
取扱い基準は、放送と人権等権利に関する委員会運営規則の第5条に書いてある。第5条の1.の(1)で「名誉・信用、プライバシー・肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関するものを原則とする」ということが書いてあり、その中で1.の(6)に「苦情を申し立てることができる者は、その放送により権利の侵害を受けた個人または直接の利害関係人を原則とする。ただし、団体からの申立てについては、委員会において、団体の規模、組織、社会的性格等に鑑み、救済の必要性が高いなど相当と認めるときは、取り扱うことができる」と書いてある。こういう規定に従ってやっていくということになる。

(質問)
「キモイ」という言葉自体の意味と、委員会としてこれを無限定に使うことを是とするものではないということを付言しているが、あえてこれを書いたねらいは何か。
(坂井委員長)
私の個人的な考えになるが、このケースでは「キモイ」とか「キモジュン」とかの言葉が繰り返し使われていて、それは今回の申立人の立場、この放送内容を前提にして受忍限度内だということを言っているのだが、それが誤解されては困る。青少年の間のLINEでの村八分みたいな話など、色々な事象が今、報道されている。そういう中で、「キモイ」は人を傷つける場合もあるので、全部OKということは決してないということは、付言をしておきたい、というのが私の理解だ。
(市川委員)
この決定が与えるメッセージとして、「キモイ」という言葉自体にお墨付きを与えるというか、そういうことであってはいけないということが、基本的な考え方だ。審理の中でも「キモイ」という言葉の与える強い打撃を指摘する委員もいた。場面によっては、違うことになるので指摘したほうがいいだろうと思う。
ただ逆に、これはいいとかこれは悪いとかと、一律に言葉を選別するというのも適切ではないと思っているので、その辺りのことを配慮した記述にしたと考えている。

(質問)
ということは、逆に言うと、言葉の使い方について縛りをかけるという意味ではないと理解していいのか。
(坂井委員長)
この言葉について、一定の評価を一般的にかけている訳ではなくて、どの場面でどう使われるかによって、深く人を傷つける意味を持つ事もあるという意味で理解してほしい。使われる場面で、全く変わってくると思うので、一般的に言葉狩りみたいな形になってしまうのがいいとは、思っていない。

(質問)
今回の委員会の判断の中で、「キモイ」という言葉がキーワードのひとつであると書いてあるが、もし、中学生が「キモイ」と言わなければ、こういう判断基準にはならなかった可能性もあるのか。
(坂井委員長)
それは、むしろ逆で、元々この話はLINEで「キモイ」という言葉が使われて、議員のほうがそれに反論したということが報道された事案だ。それを取り上げる時に、「キモイ」という言葉を抜きにして取り上げるのは難しい。元々報道すべき事象の中に、既に「キモイ」という言葉があったので、事実の報道として、「キモイ」は出て来てしまう訳だ。
今回の番組は、必ずしも事実の報道そのものではなくて、ラジオの番組で論評をしたということだ。その中で、その事象に出てきた言葉を出演者が使ったということで、ことさらに「キモイ」という言葉の人を非常に傷つける部分を強調して使うために、あえて選んだのではないと、そういう文脈で私は理解している。
(小山前委員)
今の質問は基準が変わるのかという質問だったと思うが、基準自体は全く変わらない。基準はどこで決まるかというと、相手が公人、この場合府議会議員であり、かつまた、その論評の対象となった出来事が、府議会議員としての公務に付随した行為だった。そこのところで基準は決まる。簡単に言うと、人身攻撃みたいな例外的な場合でない限りは「我慢しろ」というのが基準だ。
要するに、確かに「キモイ」という表現は不愉快な表現だ。でも、その「キモイ」という表現は、この事案では元々のやりとりの中で既に使われていた言葉であり、殊更この申立人を誹謗中傷するつもりで言った言葉ではない。むしろ、事件のキーワードになった言葉だから、例外的な誹謗中傷にあたるような場合には該当しない。

(質問)
申立人は納得したのか。
(坂井委員長)
心の中まではわからないが、先ほど通知公表をして、格別な意見なり感想なりというのはなかったので、委員会の判断として受け止めたのだと、私は理解している。

以上