放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第91回

第91回–2015年3月

再現映像による不適切な演出が行われていたTBSテレビのバラエティー、審議入りせず…など

第91回放送倫理検証委員会は3月13日に開催された。
3月6日に「見解」を通知・公表した"全聾の天才作曲家" 佐村河内守氏をめぐる5局7番組について、記者会見での質疑や当日の報道などが報告され、若干の意見交換を行った。
大家族に密着するTBSテレビのバラエティー番組で、再現映像による不適切な演出が行われていた問題を討議した。事実や人物にきちんと向き合おうとしない姿勢は気になるが、虚偽ねつ造とまでは言えないとして、審議の対象とはせずに議論を終えた。

議事の詳細

日時
2015年3月13日(金)午後5時~7時15分
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、藤田委員、升味委員

1."全聾の天才作曲家"佐村河内守氏を取り上げた5局7番組に関する見解を通知・公表

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していた事案について、5局7番組に関する見解(委員会決定第22号)の通知と公表の記者会見が、3月6日に実施された。
委員会では、TBSテレビ、テレビ新広島、テレビ朝日、NHK、日本テレビの当該5局の当日のテレビニュースなどを視聴したあと、委員長と担当委員から、記者会見での質疑応答の内容などが報告され、意見交換が行われた。
テレビや新聞での報道は、「放送倫理違反とまでは言えない」という結論のみを伝えた短いものから、委員会の要望内容を詳しく伝えたものまで幅があり、「委員会の思いが十分に汲み取られていない。今後はプレゼンテーションの仕方も考えていかなければ」「委員会の要望をこれほど具体的に述べた決定はない。当該局がどのように受け止めたか、3か月報告がひとつのポイントになるだろう」などの意見が出された。

2.再現映像による不適切な演出が行われていた、TBSテレビのバラエティー『水トク!激闘大家族スペシャル』を討議

TBSテレビのバラエティー番組『水トク!激闘大家族スペシャル』(2015年1月28日放送)は、福岡市に住む3男3女、一家8人が主人公で、17歳の母親から生まれた長女が、自らも17歳で出産を体験する様子が物語の柱になっている。
不適切な演出として問題になったのは、(1)妊娠中の17歳の娘とその母親のやりとりが、実際には出産後に撮影されていたこと(2)大家族の祖父がスポンサーとなった食料品の買い出しシーンが、実際には番組側の依頼によるもので、経費も番組持ちだったこと、の2点である。放送後、ネット掲示板に母親自身が告白したことにより、発覚した。
TBSテレビは、制作会社や母親への聴き取りの結果、本人たちの再現による不適切な演出であったことが確認できたとして、同じ時間帯でお詫び放送をし、番組のホームページにも詳細なお詫びを掲載している。また、委員会に報告書を提出し、慣れによる制作会社側の安易な姿勢や、放送局側のチェック体制の不備などを、原因としてあげている。そのうえで、テロップ表記などにより「再現」であることを明らかにすべきだったとしている。
委員会では、バラエティーであっても、事実や人物にきちんと向き合わないと制作者の思いは視聴者に伝わらず、テレビはこんなものだと受け取られてしまうだろうという意見も出された。番組の中に確かに誇張はあるが、本人が記憶に基づいて再現したものであり、視聴者はシリアスなドキュメンタリーというよりもバラエティーとして楽しんでいるのだから、虚偽やねつ造として問題にするまでのことはないだろうとして、審議の対象とはしないで議論を終えることになった。

【委員の主な意見】

  • 当該局が言う「実録型バラエティー」とは何なのか。この説明自体は後付けであり、バラエティーに分類することによって、放送倫理上の許容範囲を広げようとしているのではないか。

  • 舞台設定などを番組が用意してのドキュメンタリータッチの番組であれ、このような密着型を目指すのであれ、事実や人物にはきちんと向き合ってほしい。

  • 再現の場面に、再現のテロップを入れれば良かったという当該局の説明は、いかにも表面的過ぎないだろうか。再現の手法そのものが良くないということではないので、別の演出や作り方も考えてほしかった。

  • 番組の作り方自体が稚拙すぎないか。放送倫理の問題として取り上げても、議論が深まるとは思えない。

  • 番組で取材期間○○日と強調しても、実質的にはいったい何日ロケに出ていたのか。結局、シーンが足りなくなって、再現の場面が必要になったのではないだろうか。

  • 妊娠していなかったわけではなく、なかったことを作ったわけではないから、虚偽やねつ造とまでは言えないだろうが、誇張にあたるのではないか。

  • この番組を見て、シリアスなドキュメンタリーだと思う視聴者はいないだろう。バラエティーとして、楽しめればいいのではないか。

  • あまりに、誇張や事後の再現などが増えていくと、視聴者に「テレビって所詮こんなものだよ」という、シニカルな見方がますます蔓延するのではないか。それは放送局にとっても好ましいことではないだろう。

以上