放送人権委員会

放送人権委員会  決定の通知と公表の記者会見

2015年1月16日

「散骨場計画報道への申立て」事案の通知・公表

放送人権委員会は1月16日、上記事案に関する「委員会決定第53号」の通知・公表を行い、本件放送について「放送倫理上問題あり」との「見解」を示した。

[通知]
通知は、被申立人には午後1時からBPO会議室で行われ、三宅弘委員長と起草を担当した坂井眞委員長代行、大石芳野委員が出席し、被申立人の静岡放送(SBS)からは取締役編成業務局長ら3人が出席した。申立人へは、被申立人への通知と同時刻に熱海市内の申立人の会社事務所にBPO専務理事と調査役がおもむき、通知した。
被申立人への通知では、まず、三宅委員長が「決定の概要」「委員会の判断」をポイントに沿って読み上げる形で、「肖像権侵害にはならないが、放送倫理上問題あり」という決定内容を伝えた。
続いて、坂井委員長代行は、「付言だが、本来、実名・顔出しでできることを記者会が足並み揃えて顔出しをやめようとするのは、報道の自由の観点から問題がある」と述べ、大石委員は「今の社会は、長いものに巻かれるという流れの中にあるような気がする。そのことが報道にも出てきたのではないか」と述べた。また、委員長は「放送は映像が伴い、記者会合意として活字メディアとひとつにまとめることには問題がある場合がある。十分議論してほしい」とした。
決定について、被申立人は「今回の決定を真摯に受け止め、今後の取材と放送活動に生かしていく所存です。本件を取材対象者との信頼関係を損なう行為と重く見ており、すでに実効性のあるマニュアルを作成し再発防止に取り組んでいます。今後は公共性・社会性のある事案に対する取材・報道への議論を深め、規制することなく真実を伝えることで、視聴者・取材対象者の信頼を得るよう努力します」と述べた。
最後に委員長が、「意見交換など積極的に行っていきたい」と今後、SBSの研修会等に協力する旨を伝えた。
申立人への通知では、専務理事から、「放送倫理上問題あり」とする「見解」で、放送局にとって厳しいものになっているが、一方、「肖像権については侵害していない」という決定内容であると伝えた。その後、「委員会の判断」に沿ってポイントを説明し、担当調査役が、「決定の概要」を読み上げる形で通知した。通知を受けた申立人は、「『放送倫理上問題あり』となっていることは当然のことだが、肖像権侵害はなかったという放送人権委員会の結論に対しては不満だ。今後は裁判所の判断を仰ぎたい」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館の2階ホールで記者会見を行い、「委員会決定」を公表した。22社46人が取材し、テレビカメラ6台が入った。
会見では、まず、三宅委員長が「委員会の判断」と「結論」の要所要所を紹介しながら委員会決定の説明をした。
続いて、坂井委員長代行は「3つのポイントがある。第1点は、SBSに非があった点は争いがないということ。2点目は肖像権侵害になるのか、放送倫理上の問題はあるのかということで、今回の場合正当な社会の関心事なので、その報道で顔の映像を放送することは、肖像権侵害となる『みだりにその容貌・姿態を撮影・公表』の『みだりに』にはあたらない。公共的な事項について、そういう立場にある人の映像を放送することはできたのではないか、ということだ。3点目は付言の部分になるが、この事案は各社の判断で報道してもいい事案だと考えるので、足並み揃えて匿名・顔なしを約束することには、報道の自由の観点から問題をはらんでいるということだ」と述べた。
また、大石委員は「今の日本の社会状況は『長いものに巻かれて行こう』という流れの中にある。個々の判断に任せればいいものをみんな一緒になってしまったことが、そのことを象徴している」と述べた。
このあと、出席者から質問を受けて委員が答えた。主なやり取りは以下のとおりである。

(質問)
委員会決定の通知を受けた後の申立人と被申立人の反応を伺いたい。
(三宅委員長)
被申立人のSBSは、「決定を真摯に受け止め、今後の取材・報道に生かして行く」というものだったが、申立人は「放送倫理上問題があるということは納得するが、肖像権侵害はないということについては不満である」ということだった。
(事務局)
申立人は最初から、裁判のことは委員会に対してもSBSに対しても言っていた。今日もそのような趣旨のことはおっしゃったようだ。

(質問)
今回の決定は、放送人権委員会の「判断のグラデーション」の中で、もう少し厳しいとか、逆に「問題なし」との意見はなかったのか。
(三宅委員長)
比較的議論が一本化できた案件だった。

(質問)
話し合いを促し、当事者間に任せるというようなことはなかったのか。
(事務局)
申立書が来た段階で事務局から話し合いをお願いしている。しかし申立人は、終始一貫SBSとは話さないという態度だった。

(質問)
「顔を出さない」「匿名」という条件で記者会見を開いているということは、これまでにもあったのか。
(三宅委員長)
今回についての条件として判断している。以前どういうことがあったかは判断からはずしている。

(質問)
匿名、顔出しNGの申し入れがあった時に、記者会として受け入れず、記者会見の開催自体を断念するべきだったのか。
(三宅委員長)
いろいろな場合があると思うが、「きびしい条件が付いたので共同記者会見に至らなかった」ということで、独自取材で映像を流すこともあると思う。それは当該現場の記者の判断だから、こうすべきだということは決定文では控えている。

(質問)
SBSの内部では、合意の情報は担当記者だけのものだったのか、局として共通認識として持っていたのか。
(坂井委員長代行)
社として合意を受け入れるとしているので、担当記者だけが知っていたわけではない。しかし、ミスをしてしまった。関係者・スタッフは顔を出さない処理をするつもりだったということだ。

(質問)
今回以前の報道でも、顔・名前は一切出ていないのか。
(三宅委員長)
新聞では名前は出ていない。
(大石委員)
顔は今まで出していないと言っていた。申立人は「狭い社会なのでいやだ」と顔出しを拒否している。企業名は出ていたが、顔・個人名は出ていない。

(質問)
一旦合意すると、決定文では「報道各社が一旦受け入れたその条件を以後まったく無視して新たに取材・報道できるかどうか、大きな疑問がある」としているが、この記者会見だけ顔を出さない、個人名を出さないという合意だったのではないかと思うのだが。
(坂井委員長代行)
合意としては、理論的にはその時だけの制限といえるが、例えば翌日に独自取材で顔を映し、実名を出して、記者会の合意には縛られないからと、報道できるのだろうかということだ。顔や実名を出せるかもしれない時に、皆で出さないで行こうと合意することが、本当にいいのかどうか危惧して付言した。
(三宅委員長)
例えば事態が変わっても合意が重くなり、それに縛られてしまうのではないかということがある。そうだとしたら、条件を付けた記者会見をやるべきだったのかどうか、という議論になった。

以上