放送人権委員会

放送人権委員会 委員会決定

2014年度 第53号

「散骨場計画報道への申立て」に関する委員会決定

2015年1月16日 放送局:静岡放送株式会社

見解:放送倫理上問題あり
静岡放送は2014年6月11日放送のローカルニュース番組『イブアイしずおか・ニュース』において、静岡県熱海市で民間業者が進める「散骨場」建設計画について民間業者の社長が市役所に計画の修正案を提出したうえで記者会見する模様を取材し、社長の映像を使用して放送した。この放送に対し社長が、熱海記者会との間で個人名と顔の映像は出さない条件で記者会見に応じたのに、顔出し映像が放送されたとして人権侵害・肖像権侵害を訴え、「謝罪と誠意ある対応」を求めて申し立てた事案。
放送人権委員会は審理の結果、1月16日に「委員会決定」を通知・公表し、「見解」として本件放送には放送倫理上問題があるとの判断を示した。

【決定の概要】

静岡放送(SBS)は2014年6月11日放送のローカルニュース番組『イブアイしずおか・ニュース』において、静岡県熱海市で民間業者(以下、「本件会社」という)が進める「散骨場」建設計画について本件会社の社長(申立人)が市役所に計画の修正案を提出したうえで記者会見する模様を取材し、申立人の顔の分かる映像を使用して放送した。この放送に対し申立人は、熱海記者会との間で個人名と顔の映像は出さない条件で記者会見に応じたのに、顔出し映像が放送されたとして人権侵害・肖像権侵害を訴え、委員会に申し立てた。
委員会は申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下のとおりである。
「個人名と顔の映像は露出しないとの合意」は申立人と熱海記者会との間でなされた。SBSは、熱海記者会所属の同社記者が会見に参加するにあたり、記者会の合意事項を受け入れることとしたのであるから、この合意事項に拘束される。
SBSが合意事項に反して申立人の顔の映像を放送した点は、明らかにSBSに非がある。しかし、肖像権侵害の判断との関係においては、「合意事項に反して放送がなされた」ことは、結局、承諾なく肖像が放送された場合の一態様と評価されるため、肖像権侵害の有無は、報道の公共性との比較考量によって判断される。
本件放送当時、本件会社が建設・運営を計画していた散骨場施設は、亡くなった方を慰霊する施設であることから、墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)の適用の有無が問題とされており、墓地類似という施設の性格から近隣住民による反対運動が起きていた。記者会見前、報道各社は「熱海の山林に『散骨場』計画 周辺に保養所、マンション 地元住民が反発」などと報道し、また、熱海市は散骨場に対して墓埋法が適用されるかを厚労省と協議していることについて会見を開いていた。そして、本件会社も修正案提出後のホームページ上で「心の"お墓"熱海『大地の里』—海洋散骨園—」と記していた。これらの事実から、本件当時、散骨場建設計画について報道することには相当高い公共性が認められる。
SBSの取材・報道の内容も、散骨場建設を計画している本件会社の社長である申立人が、市役所に計画の修正案を提出する場面と、熱海記者会との会見の状況を取材し、適切な範囲で報道したものであるから、特に問題があったということはできない。
以上から、本件放送は、公共性のある事項に関し、公益目的をもって、申立人の映像を相当性の認められる態様において放送したものであるから、肖像権侵害があったとは認められない。
しかし、取材対象者との信頼を確保し、その信頼を裏切らないことは、放送倫理上報道機関にとって当然のことである。日本民間放送連盟の報道指針の趣旨からすると、SBSが、合意事項に反した放送をしたことは放送倫理上の問題がある。
既にSBSが申立人に対し謝罪の意向を示し、また、今後同様の事態が生じないための措置をとっていることを委員会は評価するが、今回の事態が生じた原因は日々の放送業務の性格上当然に予見されるべき基本的な問題であった。委員会はSBSに対し本決定の主旨を放送するとともに、再発防止のため更なる社内体制の充実を要望する。
なお、本件事案の特殊性に鑑み、以下付言する。
公共性のある事項について、公益目的のもとで、適確な報道を行うことは、報道機関に課せられた重要な使命である。そのような役割を果たすために取材・報道の自由が認められている。その観点から、取材・報道規制につながる申し入れに応じるようなことがあってはならず、また、同様の結果を生じさせるような過度の自主規制的対応があってはならないことを指摘しておきたい。

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2015年1月16日 第53号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第53号

申立人
株式会社 A社社長
被申立人
静岡放送株式会社(SBS)
苦情の対象となった番組
『イブアイしずおか・ニュース』(月~金 午後6時15分~7時)
放送日時
2014年6月11日(水)の上記番組内の4分30秒のニュース

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1. 「個人名と顔の映像は露出しないとの合意」に関する事実関係
  • 2. SBSが申立人と熱海記者会との合意事項に反し申立人の顔の映像を放送したことは肖像権侵害にあたるか
  • 3. SBSが申立人と熱海記者会との合意事項に反し顔の映像を放送したことに放送倫理上の問題があったといえるか
  • 4. 熱海記者会による申立人との合意と報道の自由の問題(付言)

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年1月16日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、放送局側(被申立人)には1月16日午後1時からBPO会議室で行われ、申立人へは、放送局への通知と同時刻に熱海市内の申立人の会社事務所で行われた。
その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。報道関係者は22社46人が出席した。
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2015年4月22日 委員会決定に対する静岡放送の対応と取り組み

「散骨場計画報道への申立て」事案で、2015年1月16日に通知・公表された委員会決定第53号に対し、静岡放送から局としての対応と取り組みをまとめた報告書が4月10日付で提出された。
4月21日に開催された第219回委員会で報告書の内容が検討され、了承された。

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目 次

  • 委員会決定の放送
  • 再発防止についての取り組み
  • 委員会決定に伴う取り組みについて
  • 現場の変化
  • 終わりに

2014年度