放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第85回

第85回–2014年9月

"全聾の作曲家"佐村河内守氏を取り上げた番組について審理

福岡市の「待機児童」問題でお詫び放送したテレビ西日本の報道番組について討議、審議入りせず…など

第85回放送倫理検証委員会は9月12日に開催された。
"全聾の作曲家"と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案については、前回の審理入りを受けて新たに2局3番組に対するヒアリングが実施された。担当委員から詳細な報告が行われ、さらに審理を継続することにした。
福岡市の待機児童問題をめぐる特集企画で、取材不足などを認めてお詫び放送をしたテレビ西日本の報道番組について、当該局から再提出された報告書をもとに討議した結果、審議の対象としないことを決めた。

議事の詳細

日時
2014年9月12日(金)午後5時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、藤田委員、升味委員、森委員

1.「全聾の作曲家」と称していた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案を審理

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として公表していたことが発覚した事案について、前回の委員会で、以下の5局7番組を対象に審理することが決まった。

  • TBSテレビ『NEWS23』「音をなくした作曲家 その"闇"と"旋律"」(2008年9月15日)
  • テレビ新広島『いま、ヒロシマが聴こえる・・・』(2009年8月6日)
    <フジテレビを含む多くの系列局が日時を変更して放送>
  • テレビ朝日『ワイド!スクランブル』「被爆二世・全聾の天才作曲家」(2010年8月11日)
  • NHK総合『情報LIVE ただイマ!』「奇跡の作曲家」(2012年11月9日)
  • NHK総合『NHKスペシャル』「魂の旋律~音を失った作曲家~」(2013年3月31日)
  • TBSテレビ『中居正広の金曜日のスマたちへ』
    「音を失った作曲家 佐村河内守の音楽人生とは」(2013年4月26日)
  • 日本テレビ『news every.』「被災地への鎮魂 作曲家・佐村河内守」(2013年6月13日)

前回の委員会の後、新たに2局の3番組に対するヒアリングが実施された。その内容について、担当委員から詳細な報告が行われ、さまざまな視点から質疑や意見交換がなされた。番組で取り上げる際に、全聾や音楽性などについてどのような裏付け取材がされたのか、あるいはされなかったのかという状況の把握が進み、問題の根深さがあらためて浮き彫りになった。また、一定の社会的評価を受けている人物についてドキュメンタリーを制作する際の裏付け取材などのあり方についても、意見交換がなされた。
審理に入る前に、任意の協力を得て実施したヒアリングをあわせると、これまでに5番組のヒアリングが終了した。委員会は、次回までに残る2番組のヒアリングを終えて、番組の企画から取材・放送に至る経緯を把握する作業に区切りをつけるが、問題発覚後の各局の対応などについてさらに審理を継続する。

2.福岡市の「待機児童」問題の特集で、取材が不十分だったとお詫び放送したテレビ西日本の報道番組について討議

テレビ西日本の報道番組『土曜NEWSファイルCUBE』(2014年4月12日放送)は、福岡市の「待機児童ゼロ宣言」をめぐる問題を特集企画として伝え、保育所までの所要時間を女性キャスターがバスを乗り継いで検証して「ゼロ宣言」に疑問を投げかけた。しかし、福岡市から抗議を受け、6月の同番組内で事前取材が不十分で、公平性の観点から問題があり、結果として一方的な内容となったなどとする「お詫び放送」を行った。
前回の委員会では、「行政機関に問題提起する姿勢は評価できるが、脇の甘い取材になったのは残念」など、さまざまな意見や疑問が出されたため、委員会は質問書を作成して、当該局に詳細な報告を求めていた。
提出された再報告書をもとに意見交換が行われた結果、事前取材が十分でないことなどには問題があるものの、福岡市の抗議の対象となった所要時間の検証ドキュメント自体には虚偽や作為がないこと、局内での検証作業を踏まえて取材不足を認め、公平性に問題があったとお詫び放送をして福岡市側の了承も得られていること、待機児童の問題が依然として解消されていないのではないかという番組企画の問題意識自体は正当であること、番組スタッフの体制強化・取材連絡の強化などの改善策がすでに取られていることなどから、審議の対象としないことを決め、議論を終えた。

[委員の主な意見]

  • 事前取材の甘さは問題として残るが、前回の委員会で議論したさまざまな疑問点については、再報告書でほぼ解消されたようだ。紹介された2か所の保育所の一方だけでも通園に30分以上要すれば待機児童になる、と考えたのは問題だが、所要時間の検証自体には虚偽や作為がないので、委員会がさらに審議の対象とする必要まではないのではないか。

  • 取材する前に放送日を先に決めていたことも、事前取材の甘さを許した背景としてあるように思われる。行政機関の施策に問題提起をする今回のようなケースでは、丁寧な取材が不可欠であることを徹底してほしい。

  • お詫び放送は決して十分なものとは言えないが、福岡市側も了承しており、また、番組制作の体制についても改善策が実施されている。今回の教訓を今後に活かしてほしい。

以上