放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第180回

第180回 – 2012年2月

委員会に対する放送局からの要望~放送倫理上の判断について

1月の苦情概要 ……など

在京・在阪放送局に対する聞き取り調査で出た放送人権委員会への要望や意見について議論した。今月は「放送倫理上の問題に関する判断」を取り上げた。

議事の詳細

日時
2012年 2月21日(火) 午後4時~6時40分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
堀野委員長、樺山委員長代行、三宅委員長代行、小山委員、坂井委員、武田委員、田中委員、山田委員

委員会に対する放送局からの要望~放送倫理上の判断について

先月に続いて、在京・在阪放送局への聞き取り調査で出た委員会への要望や意見について議論した。今月は「放送倫理上の問題に関する判断」を取り上げた。聞き取り調査では、直接には名誉やプライバシー等人格権の侵害を扱う放送人権委員会が、人権侵害に係る放送倫理上の問題についても判断することに、「違和感はない」とする意見に対し「疑問だ」とする意見も出された。また「放送倫理違反」と「放送倫理上問題あり」という判断の違いが分かりにくいという声もあった。この日の委員会では、事務局による資料説明の後、委員のひとりが「放送倫理違反とは何か」について問題提起した。その中で、放送局が守るべき倫理を自らの手で明文化したものが「放送倫理基本綱領」(民放連及びNHKが1996年制定)等の規範であり、第三者である委員会はこうした自主ルールの遵守状況をチェックするという考え方を基に、「倫理違反」ではなく「ルール違反」と呼んではどうかと述べた。また「放送倫理」という言葉を使うとしても、法と倫理は別途存在するものであること、放送倫理やジャーナリズムの倫理が確定的なものではないこと、倫理とは自律的な規範であること等を踏まえ、「違反」ではなく「問題あり」という表現に止めてはどうかとも述べた。
問題提起を受けて各委員が意見を述べた。
堀野委員長は「申し立てられた苦情が人権侵害には当たらない場合でも、放送局側になんらかの問題点があれば、委員会として申立人の救済という観点から局の責任を問い、これを放送倫理上の問題として指摘してきた。そこに不満があるのかもしれない」と述べた。
委員からは「法律には反していないが、放送のあり方としてはひどいという意見はありうる。人権侵害にならないから軽いとは簡単に整理できない。被害を受けて救済を求めてきた人たちを救うためには、法律違反にならないけれど放送倫理上問題があるというのも第三者機関としての重要な役割ではないか。裁判所と同じである必要はない」、「報道がどうあるべきかは法規範に基づく判断だけでは済まない。やはり法と倫理の2つの軸でやっていくべきだ。法律家だけでなく一般有識者が委員として加わっている意味もそこにある」、「我々は人権侵害ではなく倫理違反に過ぎないと言ってきたわけではない。倫理という言葉が、実はことによると人権侵害よりも重大な問題を指摘しているのだということを、申立人にも局にも分かってもらう決定文にするにはどうしたらいいかということではないか」等の意見が出された。
また「委員会としてはきめ細かくきちっと類型化を考えてやってきたと思う。名誉毀損において黒ではないもののグレーだという場合、グレーが黒にかかるものと、ほとんど白いグレーとがある。その微妙な差異を出そうとしてきた。検証委員会では放送倫理に反しているものが取り上げられ黒となる。申立てによる救済機関である人権委員会とは自ずから違いがあるのではないか」という意見も出た。
議論の結果、委員会としては今後も人権侵害とそれに係る放送倫理上の判断を二本の柱としていくこと、しかし、法と倫理は別概念であり人権侵害と放送倫理上の判断の書き分けには一層神経を配る必要があること等を確認した。
次回は、決定文における具体的な書き分けや、「放送倫理違反」と「放送倫理上問題あり」という判断のカテゴリーの問題等について検討を行う。

1月の苦情概要

1月中にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情・相談・批判の内訳は以下の通り。

  • 審理・斡旋に関する苦情・相談・・・・・2件
    (個人又は直接の関係人からの要請)
  • 人権一般の苦情や批判・・・・・・・・・・23件
    (人権問題、報道被害、差別的表現など一般視聴者からの苦情や批判)

その他

  • 2月14日に行われた東京・渋谷のNHK放送センターへの訪問について、事務局より報告した後、各委員が感想を述べた。
    当日は、まず東日本大震災の報道について、テレビ報道の責任者から発災当日の対応と原発事故を含めたその後の取り組みを聞いた。2万人近い死者・不明者が出たことを教訓に、地震・津波の緊急報道の放送画面や避難を呼びかけるコメントの改善に取り組んでいること、膨大な震災映像のアーカイブス化を進めることなどの説明があった。
    このあとニュースセンターに移動し、大きな地震が発生すると直ちにアナウンサーが地震情報を伝える態勢や仕組みの説明を受け、全国に設置しているロボットカメラの運用や操作、津波の速報画面の送出を見学した。続いて、夕方のニュース情報番組『首都圏ネットワーク』のスタジオを見学し、企画ニュースの提案から取材、編集、放送までの流れや放送内容のチェック体制の説明を聞いた。そして、午後6時10分から始まった放送本番に立ち会い、送出の様子を見守った。
    委員からは、ニュースの制作・送出に大勢の職員やスタッフが携わっていることに驚いたという声が多く聞かれた。そのほか、「ニュースの取材と制作にはたいへんな人手と費用がかかっていることを、視聴者や出来上がったニュースを配信するサイト運営会社の人に理解してもらわないといけない」、「震災報道については報道現場で問題意識が共有され、きちんと取り組んでいることがよくわかった」、「ニュースを分かりやすく伝える努力をされているが、受信料で支えられているNHKだけにしかできない問題の発掘、取材にもっと力を入れて欲しい」などの感想があった。
    委員会では、来年度もテレビ局への訪問を予定している。
  • 次回委員会は3月13日(火)に開かれることになった。

以上