放送人権委員会

放送人権委員会  決定の通知と公表の記者会見

2013年8月9日

「大津いじめ事件報道に対する申立て」事案の通知・公表

放送人権委員会は8月9日、上記事案に関する「委員会決定第50号」の通知・公表を行い、「本件放送は人権への適切な配慮を欠き、放送倫理上問題がある」との見解を示した。
通知は、被申立人側には8月9日午後1時からBPO第1会議室で行われ、三宅委員長、奥委員長代行が出席し、被申立人のフジテレビからは報道局専任局次長ら4人が出席した。申立人側へは、申立人の都合がつかなかったため、被申立人への通知と同時刻に京都市内にある申立人の代理人法律事務所に事務局長と調査役の2名がおもむき、通知した。申立人(少年の母親)と代理人弁護士2人が出席した。
被申立人側への通知では、まず、三宅委員長が「決定の概要」「委員会の判断」をポイントに沿って読み上げる形で決定内容を伝えた。委員長が感想を求めたのに対し、被申立人側は「人権上配慮に欠けた放送をしたことをお詫びする。決定を真摯に受け止め、新しいメディア状況を考慮したとき細心の注意と確認の上にも確認をし、再発防止に努め、スタッフの意識を高めていきたい」、「委員会決定にもあるように、何にでもぼかしを入れてしまえばいいというわけではない。モザイク処理が多くはなっているが、積極果敢な放送を心掛けたい」と述べた。最後に委員長が、「意見交換など積極的に行っていきたい」と今後、再発防止のための研修等に協力する旨を伝えた。
申立人側への通知では、事務局長が「放送倫理上問題あり」とする「見解」で、放送局にとって厳しいものになっており、この決定はテレビ界全体に対する警鐘にもなっていると説明。その後、調査役が「決定の概要」「委員会の判断」の要所要所を読み上げる形で通知した。通知後、申立人の感想は特になかったが、代理人が、決定文で「フジテレビは再発防止策をすでに実施している」としていることについて説明を求めた。事務局からは、「フジテレビは、マスキング処理の方法の改善、ダブルチェック体制などをすでに講じている。委員会は、再発防止策の運用の実際について報告するように求めており、改善策の報告を3ヶ月以内にもらうことになっている。それはホームページ上などでオープンになる」と説明した。
申立人側、被申立人側への通知の後、千代田放送会館2階ホールで記者会見を
開き、「委員会決定」を公表した。午後1時40分から事務局による事案の説明があり、引き続き午後2時から三宅委員長、奥委員長代行が記者会見した。報道関係者は23社53人が出席し、テレビカメラ6台が入った。
会見では、三宅委員長から「本件でプライバシーの侵害が生じたかどうかの判断に際しては、テレビ映像が容易に静止画像として切り取られ、インターネット上にアップロードされるという時代状況において、申立人の主張する『プライバシー侵害』が起きてしまったということをどのように判断するかという点が、今回の決定における非常に新しい判断部分であると考えている」とし、「委員会の判断」の要所要所を紹介しながら説明を行った。最後に、結論部分では、「新しい状況に対処すべく、いま放送人に求められているのは、高度に研ぎ澄まされた人権感覚である」と述べた。判断の説明の後、今回「和解」の試みもあったが、まとまらなかったことも紹介された。起草主査の奥委員長代行は「新しいメディア状況には放送局も対応しなければいけないが、当委員会も今回同じ状況に直面した。本来は放送されたものだけが審理対象だが現実は明らかに違ってきている。現実の状況をどのように審理に反映させるかが課題だった」と述べた。次に起草委員で会見には出席できなかった大石委員のコメントを三宅委員長が読み上げた。コメントの概要は「少年の事案で私たちは和解を望んだが、和解には至らなかった。テレビ局には厳しい結果になったが、人権意識を高めることがいかに大切かを考えさせてくれた事案であった」というものであった。
質疑応答では、「放送そのものではなく、録画したものから切り取った静止画像でも放送局に責任を求めたのはBPO3委員会でも初めての決定か」という質問があり、委員長は「第三者の故意行為によってアップロードされ、局とは無関係に流れたというケースで判断したのは初めて」と答え、事務局からも「他の事案で、審理の中での議論はあったかもしれないが、決定文で判断を下したのは初めて」と補足した。
「同じ時期の別の番組で、マスキング処理されたものが第三者の加工で薄く見えてしまうということがあったが、今回は議論されなかったのか」という質問には、奥委員長代行が「ご指摘の件は、申立ての中には入っていないので検討していない」と説明し」た。
「検証委員会で取り上げなかったことと、今回の判断との違いは何か」という質問には、委員長が「人権委員会は申立てがあって苦情取扱いの条件が合えば取り上げる。われわれは申立てがあってこれを受けてからということ。プライバシー権の侵害と放送倫理上の問題の2点について申立てがあったので、委員会として判断した。検証委員会と人権委員会は役割が違う。人権委員会として独自に取り上げている」と答えた。さらに、「今回、第三者の故意行為が介在してネットに流れたことで判断の範囲は広がっているが、われわれは本来放送が守備範囲だ。主たるものは放送自体であり、その点では本件の場合は何度見ても(ほとんど)分からない、ということでプライバシー侵害はないとした。このことは重要な判断といえる」と説明した。
このほか、「決定文の中で、民放連放送基準の規定も『新しい想像力とともに読み込まれる必要がある』とあるが、時代に即して規定を変えるなど、ネットの問題を明文化していくべきかどうか」という質問があり、三宅委員長は、「テレビの映像を取り巻くメディアの状況が変わっている中で、考えなければいけない要素がいくつか出てきている。放送基準を弾力的に解しながら人権への適切な配慮を及ぼすように運用していってもらいたい。(委員会としては)慎重にも慎重に放送の自由について委縮させることのないような働きかけをしながら考えて行きたい、という基本的なスタンスでいる」と答えた。また、奥委員長代行は、「ネットに流れることをパブリシティーと考えて番組作りすることも現実にあるだろう。放送基準などでネットのことについてガチガチに書いてしまうのは絶対よくない。しかし、ニュースの場合、今回のケースを含め“これはやっぱりまずいな”というふうな形で想像力を発揮してもらいたい」と答え、会見は終了した。