「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」に関する委員会決定
2013年3月28日 放送局:株式会社フジテレビジョン
見解:番組表現等に要望(少数意見付記)
フジテレビ『ニュースJAPAN』が2011年10月に2回にわたって放送した企画「イレッサの真実」に対し、長期取材を受けて番組にも登場した男性が「放送はイレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性、正確性、公正さに欠け、放送倫理に抵触している。こうした放送や、申立人の主義主張とは反する発言の使われ方、取材休憩中の撮影とその映像の放送などによって名誉とプライバシーを侵害された」として、謝罪と放送内容の訂正を求め申し立てたもの。
2013年3月28日 第48号委員会決定
放送と人権等権利に関する委員会決定 第48号
- 申立人
- X
- 被申立人
- 株式会社フジテレビジョン
- 苦情の対象となった番組
- 『ニュースJAPAN』
(月―木曜日 午後11時30分~11時55分、 金曜日 午後11時58分~午前0時23分) - 放送日時
- 第1回 2011年10月5日(水)特集シリーズ「時代のカルテ」「イレッサの真実【前編】ガン新薬の副作用は薬害か?」(7分12秒)
- 第2回 2011年10月6日(木)特集シリーズ「時代のカルテ」「イレッサの真実【後編】承認から8年目の真実」(7分)
本決定の概要
本件放送は、抗がん剤イレッサをテーマにした報道番組である。申立人は、イレッサの副作用で亡くなった患者の父親であり、その後、訴訟や社会的活動でイレッサの副作用にかかわる問題を追及しているが、本件放送中での扱いによって、これまで自身が続けてきている活動を否定されかねない人権侵害があるとして、委員会に苦情の申立てを行った。
本件放送は、「イレッサの真実」というタイトルのもと、2011年10月に二夜連続で放送された。ちょうど同時期、イレッサの副作用を巡る製薬会社や国の責任を問う訴訟が係争中であり、番組放送後間もない時期に控訴審判決が出された。被申立人には、いわゆる薬害について熱心に追跡・報道してきた実績がある。
委員会は、本件放送に、法的な意味での名誉毀損・人格権侵害はなかったとともに、放送倫理上問題があるとまではいえないと結論する。しかしながら、申立人を含む番組中の登場人物の対比のさせ方やコメントの使い方などにおいて、視聴者の誤解を招きかねない点があるなど、放送の一部に配慮不足があったと認められる。申立人である取材対象者の思いを軽視して長年の信頼関係を喪失したことは、報道機関として重く受け止める必要がある。取材者・放送人にとって取材先との信頼関係を喪失するという重大な事態を招いたことにつき十分に反省し、事前の取材・企画意図の説明や番組の構成・表現等の問題について再度検討を加え、今後の番組作りに生かすことを強く要望する。
なお、本決定には、多数意見と結論を異にし、「放送倫理上問題がある」とする少数意見がある。
(決定の構成)
委員会決定は以下の構成をとっている。
I.事案の内容と経緯
- 1.申立てに至る経緯
- 2.放送内容の概要
- 3.申立人の主張
- 4.被申立人(放送局)の答弁
II.委員会の判断
- はじめに~本件放送の構成と申立人の人権
- 1.申立人の訴訟提起と東京地裁判決の伝え方
- (1)東京地裁判決の引用の正確性
- (2)T医師の東京地裁判決に対するコメント
- (3)新薬の承認をめぐる研究者のコメント
- (4)申立人とAさんの二人を対比的におくこと
- 2.申立人のコメントの使用と人権侵害
- (1)申立人のコメント使用の正確性
- (2)申立人のコメント等の使用による人格権侵害の有無
- 3.番組内容・構成における公平・公正
III.結論
- 少数意見
IV.審理経過
- 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
- 補足意見:
- 多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
- 意見 :
- 多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
- 少数意見:
- 多数意見とは結論が異なるもの
放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。