第170回 – 2011年2月
「大学病院教授からの訴え」事案の通知・公表の報告
委員会運営上の検討課題 ……など
2月8日に行われた「大学病院教授からの訴え」事案の決定通知と公表の模様について事務局より報告した。
放送人権委員会の委員会運営上の課題について検討した。今月は、事案審理に関連した事務局による資料収集とその取り扱いについて実質的な議論を行った。
議事の詳細
- 日時
- 2011年 2 月15 日(火) 午後4時~6時25分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 「大学病院教授からの訴え」事案の通知・公表の報告
委員会運営上の検討課題
1月の苦情概要
その他 - 出席者
- 堀野委員長、樺山委員長代行、三宅委員長代行、大石委員、小山委員、坂井委員、武田委員、田中委員、山田委員
「大学病院教授からの訴え」事案の通知・公表の報告
2月8日に行われた本事案の決定通知と記者会見での公表の模様について、事務局がまとめた資料をもとに報告した。また当該局であるテレビ朝日が決定について報じた番組同録DVDを視聴した。
決定通知は8日午後1時30分より行われた。申立人が大学の職務の都合上、上京できなかったため、申立人に対する通知は担当調査役が現地まで出向いて行った。東京では、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で、堀野委員長と起草委員である小山委員、武田委員の3人が出席し、被申立人であるテレビ朝日および朝日放送からは4人が出席して通知が行われた。
堀野委員長は「番組の意義は評価するものの、申立人のインタビュー映像の使い方と民事裁判の経緯についての紹介の仕方に放送倫理上の問題があった。また表現上配慮に欠ける部分があった」とする決定内容を伝えた。ただし人格権の侵害については否定した。
通知を受けて申立人は「人格権の侵害が認められなかった点には不満が残るが、放送倫理上の問題があるとの決定には満足している」と感想を述べた。
一方被申立人は、番組制作担当者が「7か月にわたる丁寧な審理にお礼を申し上げる。しかし、決定は判決の解釈や臨床試験という表現の問題など編集権にまで踏み込んでおり、制作者個人としては受け入れがたい」と述べた。
これに対して堀野委員長は「正確に伝えているかどうかであり編集権の問題ではない。編集権があるから誤ったことを伝えていいということにはならない」と述べた。
この後、午後3時前から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、決定内容を公表した。テレビ、新聞等から25社・44人が取材に訪れ、テレビカメラ5台が入った。
会見では堀野委員長が決定の概要を説明し、「社会的事象に切り込もうとした番組の意図は高く評価したい。しかし、裁判所の判断を裏付けとするなら判決の紹介は正確であるべきだ。また申立人のインタビューの使い方には取材目的との間にズレがある。これらの点で放送倫理上問題ありとなった」と述べた。
起草主査を務めた小山委員は「申立人が主張していた実名と映像の使用による人格権の侵害については、申立人が準公人という立場にあること、本件報道は過去の出来事を取り上げているが、現在につながる公共性・公益性があること等から人格権の侵害はないと判断した。また申立人に対する直撃取材の問題についても人格権の侵害はなく放送倫理上の問題もないと判断した」と補足した。
武田委員は「医療という専門家集団を監視することもマスメディアの役割であり、やらなければならない仕事だ。しかし、番組の正義を貫くためにはもう少し方法論を考えてほしい」とコメントした。
記者から、予定より会見が遅れたのは反論等があったからかと質問が出た。
堀野委員長は「編集権にまで口を挟んでいるという意見もあった。われわれは、編集権があっても伝えることは正確に伝えるべきだと述べた」と答えた。
直撃取材の問題点について質問が出た。
堀野委員長は「直撃取材そのものには問題はなかったが、映像が局側の説明する意図とは違った使い方をされているところに問題があった」と述べた。
記者からさらに「直撃取材は最後の手段であり、アリバイ的取材に陥る危険性もある。本件では直撃によって教授の言い分については尽くされた取材ができていたのか」と質問が出た。
堀野委員長は「詳しいやり取りは聞いていないが、放送では教授は身のあることを答えていない」と述べた。
委員会運営上の検討課題
放送人権委員会の委員会運営上の課題について検討した。今月は当面の課題として、事務局による資料の収集・調査について実質的な議論を行った。
放送人権委員会は、申立人、被申立人から提出された書面、資料等に基づく審理を原則としているが、一方で審理の参考とするために、委員会の指示に基づき事務局が資料収集をするケースもある。
この日の委員会では、インターネットや情報公開制度を使った資料収集が容易になった現状において、こうした事務局の資料収集や調査のあり方、委員会審理における用い方等について各委員が様々な角度から意見を述べた。
これらを整理したうえ、次回委員会でさらに議論を深めることになった。
1月の苦情概要
1月中にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情・相談・批判の内訳は以下の通り。
- 審理・斡旋に関する苦情・相談・・・・・2件
(個人又は直接の関係人からの要請) - 人権一般の苦情や批判・・・・・・・・・・39件
(人権問題、報道被害、差別的表現など一般視聴者からの苦情や批判)
その他
- 2月4日に開かれた第3回BPO事例研究会について、事務局がまとめた資料をもとに報告した。当日はBPO加盟30社89人が出席し、「上田・隣人トラブル殺人事件報道」事案の委員会決定をもとに、犯罪被害者とその遺族に対する取材と放送上の配慮について議論した。また昨年秋刊行された『判断ガイド2010』で、放送倫理上の問題を考える目安として示された「事実の正確性」など5項目についての説明が行なわれた。このあと、最近目立って増えている顔なしインタビューの問題についても意見を交わした。
- 次回委員会は3月15日(火)に開かれることになった。
以上