第168回 – 2010年12月
「大学病院教授からの訴え」事案の審理
2件の審理要請案件~いずれも審理対象外と決定 ……など
「大学病院教授からの訴え」事案の「委員会決定」案について審理した。原案を修正して第二次案を作成し、次回委員会でさらに審理のうえ最終決定としてまとめることとなった。2件の審理要請案件について審議した結果、いずれも審理対象外との結論となった。
議事の詳細
- 日時
- 2010年12 月21 日(火) 午後3時 ~7時00分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 「大学病院教授からの訴え」事案の審理
2件の審理要請案件の審議
11月の苦情概要
その他 - 出席者
- 堀野委員長、樺山委員長代行、三宅委員長代行、小山委員、坂井委員、武田委員、田中委員、山田委員
「大学病院教授からの訴え」事案の審理
この事案は、テレビ朝日・朝日放送が2010年2月28日に放送した『サンデープロジェクト』の特集コーナー「隠蔽体質を変える~大学病院医師の孤独な闘い~」について、大学病院教授から、不当な直撃取材をされたことや放送の内容が偏向し人権を侵害されたと申立てがあったもの。
今月の委員会では、12月14日の起草委員会を経て提出された「委員会決定」案について審理した。
まず決定の対象となる範囲を整理した後、過去の裁判等を取り上げて申立人の実名や映像を出したことが申立人の人格権に触れるかどうか、申立人への直撃取材や収録したインタビュー素材の扱い方に問題はなかったかどうか、さらに裁判についてのコメントなどに偏った点がなかったかどうかなど、本事案の主な論点について決定内容を詳細に検討した。
この結果、起草委員が原案を修正して第二次案を作成し、次回委員会でさらに審理のうえ最終決定としてまとめることになった。
2件の審理要請案件~いずれも審理対象外と決定
- 鹿児島県阿久根前市長らからの人権侵害の訴え
申立人らは、2010年8月29日に放送された在京テレビ局の報道番組において、当時阿久根市長であった竹原申立人が市長の立場で行った専決処分について、リポーターから「専決処分が極めて例外的なこと」「これは明らかに違法です」との発言がなされたことは、重大な人権侵害にあたるとして、局に対して謝罪と訂正を求めた。しかし、話し合いはつかず、委員会に対し苦情を申し立て、審理を要請した。
委員会では、双方から提出された文書等をもとに審議した結果、「放送倫理・番組向上機構の目的や当委員会の任務に鑑み、市長による専決処分という公職者による公権力の行使そのものを対象とした放送部分についての苦情は、委員会が審理対象として取り扱うべき苦情に含まれない」として、委員全員の意見が一致した。
これにより本案件は審理対象外と決定した。 - 県知事選立候補予定者からの公平・公正に関する訴え
沖縄県知事選挙の立候補予定者であった申立人は、沖縄のテレビ局が2010年11月1日に放送した「沖縄県知事選公開討論会」において、同じく立候補予定者であった他の2名を討論者として招き、申立人を招かなかったことについて、申立人を他の2名の立候補予定者と同様に番組に出演させなかったことは、選挙の公正さを害する不公平な取扱いであったとして、委員会に対し苦情を申し立て、審理を要請した。
委員会は、当該局に対して局側の見解提出を要請し、双方から出された文書・資料等をもとに審議した。
この結果、「当該局が3名の立候補予定者の中から公開討論に招く立候補予定者を絞り込んだ基準そのものは不合理とは認められず、かつ、基準へのあてはめが平等を欠いたことをうかがわせる事情も格別見当たらない。したがって、本件申立ては、『名誉、信用、プライバシー・肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関する』苦情(委員会運営規則第5条1項)には当たらず、かつ、委員会が『公平・公正を欠いた放送により著しい不利益を被った者』(同条2項)からの申立てとして取り扱うべきものとも判断されない」として、委員全員の意見が一致した。
これにより本案件は審理対象外と決定した。
11月の苦情概要
11月中にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情・相談・批判の内訳は以下の通り。
- 審理・斡旋に関する苦情・相談・・・・・1件
(個人又は直接の関係人からの要請) - 人権一般の苦情や批判・・・・・・・・・・23件
(人権問題、報道被害、差別的表現など一般視聴者からの苦情や批判)
その他
- 12月7日に札幌で開かれた放送人権委員と北海道地区のBPO加盟放送事業者との意見交換会について、事務局がまとめた資料を配布し報告するとともに、会の模様を放送した地元テレビ局の番組同録DVDを視聴した。
札幌での開催は2003年10月以来7年ぶり2回目で、加盟9社から62人、一方、委員会側からは委員7人と事務局が出席し、「ジャーナリズムへの信頼向上のために~現場の困難をどう乗り越えるか」を全体テーマに、約3時間にわたってやり取りを交わした。
また記者7人が取材に訪れ、テレビカメラ5台が入った。
堀野委員長は基調スピーチで、「キバを抜かれたジャーナリズムは無力だが、優しさを欠いたジャーナリズムは凶器と化す」という清水英夫氏の言葉を引用しつつ、「放送はもっと事実を突っ込んでほしい。一方で、視聴者や被取材者との緊張感を欠いて優しさを失くした放送は凶器と化して人権を侵害する。その両面を自覚して仕事をしてほしい」と要望した。
個別テーマの議論では、特に顔なしやモザイクなど匿名化手法の問題で、各局から顔出しでのインタビューが難しくなっている現状が次々と報告された。記者の若年化に伴い、”顔は個人情報でしょう”といって、対象者と向き合う前に顔を切って撮影して来てしまうという悩みも聞かれた。
これに対して委員からは「内部告発者の人権擁護やプライバシーの観点から顔を隠す必要がある場合はある。しかし、なんとなく成り行きで隠してしまう場合もあるのではないか。本当に顔なしの必要性や必然性があるケースなのか真剣に議論してほしい」という要望や、「個人情報の保護は万能ではない。事実報道の価値は間違いなくあり、すべてが匿名化したら民主主義社会は成り立たない。両方の価値があってこそバランスが取れるし、どちらが優先するかはケースバイケースだということをちゃんと考えてほしい」とする意見が出された。 - 今後のICT(情報通信)分野における国民の権利保障のあり方について検討してきた総務省ICTフォーラムの最終会合が12月14日に開かれ、報告書が採択された。そのBPOに関連する事項について事務局より報告した。
- 次回委員会は2011年1月18日(火)に開かれることになった。
以上