放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第190回

第190回 – 2012年11月

イレッサ報道事案のヒアリングと審理
無許可スナック摘発報道事案の審理…など

「肺がん治療薬イレッサ報道に対する申立て」事案のヒアリングとヒアリング後の審理を行い、本事案の「委員会決定」の起草委員会を発足させることになった。「無許可スナック摘発報道への申立て」事案の「委員会決定」最終案を了承し、本決定の通知・公表を11月27日に行うこととなった。

議事の詳細

日時
2012年11月20日(火) 午後3時~8時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、田中委員、林委員、山田委員

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」事案のヒアリングと審理

本事案は、フジテレビ『ニュースJAPAN』が昨年10月5日と6日の2回にわたり肺がん治療薬イレッサに関する問題を取り上げた企画「イレッサの真実」に対し、長期取材を受けて番組にも登場した男性から、イレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性や正確性、公正さに欠けた報道により人権を侵害されたと申立てがあったもの。フジテレビは、番組に人権侵害も放送倫理に抵触する部分もないと反論している。
この日の委員会では、申立人とフジテレビの双方に対し、個別に事情を聞くヒアリングを実施した。
申立人側は、申立人とその代理人の計5人が出席した。申立人は、「私の娘はイレッサを承認直後に服用し、間質性肺炎で亡くなった。しかし、その後、承認前から間質性肺炎による致死的な副作用報告があったことがわかり、以来約10年間、そうした注意喚起を怠った国や製薬会社の責任を裁判で問い、娘のような被害が起きないように人生を賭けて闘っている。しかし本件放送は、私の娘のケースと安全対策等が講じられた後にイレッサ治療を受けているがん患者とを対比的に描くなど、あたかも私がイレッサの有効性を理解しないまま、がん患者のイレッサ服用を妨げる活動をしているかのように伝えた。がん患者支援の方々からも非難や注意を受け、私は生きざまを否定されたような思いだ」と訴えた。
一方、フジテレビからは、番組担当ディレクターと放送当時の番組編集長ら5人が出席し、「本番組はイレッサに感謝しているというがん患者の声を聞いたことを端緒に、高齢社会に生きる私たちが薬とどう向き合えばよいのかを考えてもらう機会になればと願い制作した。番組ではイレッサをめぐる10年間の動きを俯瞰する視点で多様な意見を紹介した。視野をできるだけ広く柔軟に持ち、いろいろな意見を客観的で公平、公正に伝えるため、何度も推敲を重ね映像も何度も確認した。申立人とがん患者を対立的に描いたつもりはないし、申立人の立場も正しく伝えており、人権侵害に当たるとは考えていない」等と述べた。
双方合わせて3時間に及んだヒアリング後の審理では、各委員がひとりずつ意見と感想を述べ、議論した。この結果、12月上旬に起草委員会を開催し、「委員会決定」原案を12月18日の委員会に提出してもらうこととし、そのうえでさらに議論を詰めることになった。

「無許可スナック摘発報道への申立て」事案の審理

本事案は、テレビ神奈川が本年4月、神奈川県警による無許可営業のスナック摘発と女性経営者の現行犯逮捕を現場で取材し、4月11日の『tvkNEWS930』で1分強のニュースとして放送したことに対し、この女性と家族から「軽微な罰金刑にもかかわらず、顔のアップ映像や、実名、自宅の住所等まで放送したのはプライバシーの侵害」等と申立てがあったもの。テレビ神奈川は、「通常の実名報道原則に基づいて放送した。申立人の基本的人権についても十分慎重に検討した」等と反論している。
この日の委員会では、2回の起草委員会と委員会審理を経てまとめられた「委員会決定」最終案について確認を行い、これを了承した。また、本事案の決定は、本年5月に修正された判断のグラデーションが適用される最初の事案となるため、通知・公表時に「新しい判断のグラデーションンの適用にあたって」と題する委員長談話を出すこととなり、この点についても了承された。
この結果、「委員会決定」の申立人、被申立人に対する通知と記者会見での公表は11月27日(火)に行われることとなった。
(追記:通知・公表は予定通り11月27日に行われた。決定本文および委員長談話はこちらから)

「国家試験の元試験委員からの申立て」事案の審理

本事案は、TBSが今年2月25日に放送した『報道特集~国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた一冊の書籍』で、国家資格である社会福祉士の試験委員だった大学教授が、試験委員就任前に執筆しその後も改訂を続けていた著作物が過去問題の解説集に該当する等、試験委員としてふさわしくない行為があったと放送され、名誉と信用を毀損されたと申立てたもの。
申立人は、番組では「疑念を招く」程度の行為を取り上げてあたかも申立人が試験問題を漏洩したかのように視聴者に印象付けるなど個人攻撃が行われたと主張している。これに対してTBSは、「問題漏洩等にはいささかも言及していない。試験委員だった申立人の行為が社会福祉士試験の公平性・公正性に疑念を招いたのではないかと問いかけたものだ」と反論している。
この日の委員会では、起草担当委員から本事案の論点とヒアリングでの双方への質問項目案について説明が行なわれた後、意見を交わした。論点としては、番組の意図と放送内容が整合していたかどうか、番組が申立人に対する過剰な非難・攻撃になっていなかったかどうか、社会福祉士国家試験の試験委員としての申立人の行為に不適切な点がなかったかどうか、等があげられた。
委員会では12月4日の委員会でさらに検討を重ね、12月18日の委員会で申立人、被申立人の双方に対するヒアリングを行うことを決定した。

10月の苦情概要

10月中にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情・相談・批判の内訳は以下の通り。

  • 審理・斡旋に関する苦情・相談・・・・・3件
    (個人又は直接の関係人からの要請)
  • 人権一般の苦情や批判・・・・・・・・・14件
    (人権問題、報道被害、差別的表現など一般視聴者からの苦情や批判)

その他

  • 12月4日に盛岡で予定されていた東北地区のBPO加盟放送事業者を対象とする放送人権委員会委員との意見交換会は、衆議院の解散・総選挙のため延期されることになった。日程を変更し今年度中に実施する。
  • 増加する事案の審理の迅速化を図るため、12月4日に臨時で委員会を開くことになった。これにより12月は委員会開催が2回となり、次回は12月4日(火)、次々回は12月18日(火)に開かれる。

以上