放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第40回

第40回 – 2010年7月

農水大臣が外遊中にゴルフをしていたと誤報したTBSの『みのもんたの朝ズバッ!』およびニュース番組

寝起き時の脳の働きを調べる実験データに改竄があったTBSの『がっちりアカデミー』…など

第40回放送倫理検証委員会は7月9日に開催された。
TBSの複数の番組で放送された「農水大臣が外遊先でゴルフをしていた」という報道が誤報であった事案について、当該局から提出された経緯報告書をもとに、2回目の討議を行った。その結果、取材で得た情報がニュースデスクに共有されないなど、重大なミスが内在していたこと、お詫び放送の伝え方に不備があったことなどが、改めて指摘された。委員会として審議入りはしないが、当該局に対するウォーニングとして、議論の内容をBPO報告で詳しく紹介することにした。
バラエティー番組で、睡眠から目覚めたときの脳の働きについて、被験者のペーパーテストで調べる実験を行ったが、間違ったテスト結果が放送された。制作過程のミスであり社会的な影響もないので取り上げないこととした。
参議院選挙に関する放送で、比例代表の特定の候補者だけ取り上げて紹介した報道番組や、候補者の名前をクイズ問題に出したバラエティー番組等に、公平公正の観点から疑問があると、視聴者から指摘が寄せられた。これらの番組については、当該局から報告書を提出してもらった上で、次の委員会でまとめて討議することにした。
委員会が4月に出したTBSのブラックノート事案の「意見」に対して、当該局から改善策が提出されたので検討の結果、了承することで一致した。
東京以外の放送局と検証委員会との意見交換会について検討した結果、開催にむけて準備に入ることとした。
事務局からは、この夏に開催される2つの勉強会の案内があった。

議事の詳細

日時
2010年 7月 9日(金) 午後5時~8時00分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、小町谷代行、吉岡代行、石井委員、香山委員、是枝委員、重松委員、立花委員、服部委員、水島委員

農水大臣が外遊中にゴルフをしていたと誤報したTBSの『みのもんたの朝ズバッ!』およびニュース番組

TBSは5月20日の『朝ズバッ!』およびその他のニュース枠で、複数の民主党幹部の取材に対する発言をもとに、口蹄疫発生後に中南米に外遊した当時の農水大臣が外遊先でゴルフをしていたと報じた。しかし、その後誤報であることが判明したとして、当日昼前のニュースでお詫び放送をし、社内処分も実施した事案。
委員会は、取材から放送に至る経緯の説明には明確でない部分があるとして、改めて当該局に質問書を出し、提出された詳細な経緯報告書をもとに、2回目の討議を行った。
報告書の中で当該局は、「記者が取材先で得た重要な情報が、ニュースデスクに伝わっていなかったこと」「記者の思い込みなどから、裏付け取材が不十分だったこと」などを認める一方、番組の制作担当者の連絡ミスからニュース原稿は”民主党幹部の発言の引用”であるのに、画面表示ではゴルフをしたことが一部で断定的な表現になってしまった、などと説明している。
委員の中からは、他のメディアも同じように取材しているのにTBSだけが誤報をしたという事実を重く受け止める必要がある、現職閣僚の進退につながりうる報道なのに裏付け取材が甘い、お詫び放送の伝え方が曖昧で関係者や視聴者に対する謝罪になっていない、などの厳しい指摘が出された。
委員会は、当該局からの詳細な報告書によって、事実関係や問題点の所在がほぼ判明したこと、当該局はすでに誤報に至った原因を解明し、局内処分をし、再発防止策もとっていること、不十分とはいえ迅速なお詫び放送もなされていること、この事案を委員会が審議の対象にすることは、政治家への取材や監視を不必要に萎縮させるおそれもあり好ましくないことなどから、審議入りはしないこととしたが、当該局に注意を促すウォーニングとして、議論の内容をBPO報告などで詳しく紹介することにした。

【委員の主な意見】

  • 今回の報告書で、かなり詳細な経緯まで分かったが、記者の取材した情報が指揮をとるデスクに正しく伝わらないというのが本当だとしたら、大きな問題だ。
  • ぶら下がりなどで他社も同じような情報をキャッチしていたということだが、それではなぜTBSだけが放送に踏み切って誤報を出してしまったのか。裏付け取材の不備などと簡単に言うのではなく、重く受け止める必要がある。
  • ゴルフをしていたという情報をつかんで、これでいけるという雰囲気や思い込みのようなものが記者、キャップ、そしてデスクにも広がったのではないか。仮に民主党幹部がそう発言しても、現職閣僚のクビがかかったニュースなのだから、現地を含めて徹底的な裏付け取材をしなければ放送できないはずだ。
  • 倫理上の問題というよりも、取材者として、報道担当者としての資質の問題とも言えるのではないか。そうならば、この委員会で議論する問題ではない。
  • 当該局は最後まで、大臣が実際にゴルフをしていたかどうかの事実関係を伝えていない。伝えているのは、大臣自身が否定の会見をしたことと、民主党幹部が発言を翻したということだけ。報道機関として、事実はどうだったかをきちんと確認して、客観的に伝えるべきだった。
  • その部分がきちんと押さえられていないから、お詫び放送も、誰に何をお詫びしているのか曖昧なままになっている。
  • 今回の事案は、ファクト(事実)とクォート(引用)の関係が問題になった。もちろんクォートとしてでもニュースとして伝えるべきケースもあるが、その場合きちんと区別をして伝えなければならない。
  • 政治問題や政治家に対するメディアの監視が重要であることは、言うまでもない。誤報はむろん良くないが、誤報の原因が究明され、すでに対策も取られた事案であり、むしろメディア側が不必要に萎縮することのないよう審議入りは控えるべきではないか。
  • 確かに審議入りしての議論までは必要ではないと思うが、さまざまな課題が浮き彫りになった事案だ。当該局に注意を促す趣旨で、BPO報告やホームページなどでは、議論の中身をできるだけ詳しく紹介してほしい。

寝起き時の脳の働きを調べる実験データに改竄があったTBSの『がっちりアカデミー』

TBSのバラエティー番組『がっちりアカデミー』(6月18日)で、寝起き時の脳の働きを調べるために、深い眠りと浅い眠りではどのような違いがあるかについて、被験者のアシスタントディレクターへの簡単なペーパーテスト(計算問題)が行われた。その中で、1問目の解答が不正解であるカットが放送されたにも関わらず、結果は100点だったのはおかしい、と視聴者から指摘があった。
当該局は誤りを認めて、7月2日にお詫び放送をした。さらに当該局は、予備のカットを使ってしまったという単純な編集ミスで、意識的な数字の改竄ではないと説明している。また、この実験は厳密な科学実験ではなく、深い眠りと浅い眠りの違いをわかりやすく示すことが目的なのだから100点でも80点でも大差はなく、社会的に大きな問題があるとはいえない。勿論、編集ミスから放送にいたるまでのチェック機能が働かなかった結果、間違ったデータを放送したことについて当該局は反省すべきだが、既に非を認めて丁寧なお詫び放送をしているので、取り上げないことにした。

【委員の主な意見】

  • 視聴者が気がついたことを、編集段階で何人ものスタッフが下見しているのに気がつかないことが情けない。
  • ミスの内容は明白だし、お詫びもきちんとしている。それによって健康被害が起きたわけでもないし、社会的な影響もない。
  • この事案もそうだけれど、全体にケアレスミスが多すぎる。すみませんでしたとか、気がつきませんでしたとか。

参議院選挙に関して不適切な内容があった複数の番組

放送で選挙を扱うときは番組のジャンルに関わらず、公平公正を常に留意しなければならないが、このたびの参議院選挙においては複数の番組に対して視聴者から、公平公正の観点から疑問があるとする意見が寄せられている。番組を視聴し、当該局に報告を求めた上で、次回の委員会で一括して討議することにした。

TBSから提出された『報道特集NEXT』ブラックノート事案の改善策について

民放連の申し合わせに従い、4月に委員会意見が出された『報道特集NEXT』ブラックノート事案について、TBSから具体的な改善策を含めた取り組み状況が提出された。委員会は報告書を検討し、了承した。
なお、報告書はBPOのホームページに掲載した。

東京以外の放送局と検証委員会との意見交換会の開催

委員会の活動や決定内容を深く知ってもらうことについては前回の委員会で議論したが、広く知ってもらうために、委員が地方に出向いて意見交換をすることが提案され、初回は大阪エリアを候補地とすることで承認された。

事務局連絡

7月29日に、民放連とATPが開催する放送倫理セミナー「バラエティー番組と放送倫理」(水島委員が司会)の案内と、8月3日にBPOが開催する事例研究会の出席要領について事務局から説明があった。

以上