第080回 – 2003年9月
「山口県議選事前報道で名誉毀損」審理
「ゴミ屋敷番組に精神科医が抗議」について…など
「山口県議選事前報道で名誉毀損」審理
事務局から、申立人と被申立人(テレビ山口)双方のこれまでの主張対比の説明があり、次いで論点別に各委員が意見を述べあった。主な意見は以下のとおり。
■肖像権の侵害について
- 本人が無理やりその意思に反して写真を撮られたとは考えられない。
- 当人は、開票速報などに使う写真と理解していたところ、自分が意図していなかった番組で使われた点を問題にしているのではないか。
■「落選」は虚偽報道か、放送時期に問題はなかったか?
- 社会通念上、当選者以外は「落選」と報道され、誰もそれに疑念を持たず、社会も受け入れている。
- 「繰り上げ当選資格者を落選というのは虚偽報道」との主張は誤認であり、社会通念に反する。
- 放送時期が問題。「当選に至らなかった」は事実の報道として受け取れるが、「落選」というのはマイナスイメージだ。
■その他
- 「名誉感情」の問題として本人が受け止めるのはもっともなことだが、名誉感情に対する不法行為責任まで問えるかとなると難しい。
- 番組構成上、最後に「いずれも落選」を持ってきたのは意図的であり、本人を貶めているという印象は否めない。
- 法律違反や不法行為の問題ではないが、「もう少し報道というのは気を付けたほう がいい」ということではないか。
- 選挙報道でこのような表現までも放送倫理上問題があるとなると、「政見放送」のような窮屈な放送しかできなくなるのではないか。
- 選挙の情報はできるだけ多角的に提供されるべきで、立候補した結果の情報も有権者の関心に応えるものであろう。
- 人身攻撃を目的とした報道であれば、公益性を欠くことになる。本人は「この番組は私を標的に作られたものだ」と主張しているが、そう認定できるかが鍵だ。
この後、起草委員2名を決め、次回までに「委員会決定」の草案を作成することになった。また、次回10月の委員会では、関係者を呼んでヒアリングを行うことを決めた。
「ゴミ屋敷番組に精神科医が抗議」について
ゴミをため込んだ家を訪れ、片付けるように働きかける番組に、大阪の精神科医が抗議している件を先月に次いで検討した。
この件について委員会は、現行の放送人権委員会運営規則上、精神科医には申立人としての適格性に問題があること、住人が精神障害者か否か確認しにくいこと等を指摘していた。
この日の委員会では、人権侵害の可能性がある番組の場合、申立人がいなかったり申立人としての適格性を欠いていても、従来より間口を少し広げて、放送人権委員会の審理対象になり得る方向を探れないかという観点から、改めて検討を加えた。
その結果、ゴミ屋敷の住人を笑いの対象にしているとの指摘はあるが、当該番組はバラエティ-番組なりに全体的に公益性を踏まえた演出がなされていることなどから、この事案をもっていきなり放送人権委員会審理の間口を広げるには難しいとの意見が大勢を占めた。
委員会では、これまでの検討過程で出た意見などをまとめて、抗議してきた精神科医と当該放送局に送り、理解を求めることとした。
“苦情・権利侵害申立ての手続き”について
「苦情申立て」から「権利侵害申立て」までの手続きマニュアルを事務局が説明。 概要は次のとおり。
まず、BPOに寄せられる苦情等の中から、名誉・信用・プライバシー等の権利侵害と思われる苦情を放送人権委員会関連苦情として取り出す。
その苦情を、(1)審理を求めているのか、(2)話し合いを斡旋してほしいのか、(3)単に放送局に伝えてほしいのか、(4)それ以外の単なる相談かに分類。
次に、前記(1)(2)については、ア:局側の対応が不誠実または不十分の場合、イ:話し合いが継続中の場合、ウ:局側への接触がない場合に分けて、アとイのケースは当該局に「苦情連絡票」を送り、”苦情受理”とする。双方に話し合いを勧め、話し合いがついたケースを”斡旋解決”とする。話し合いが相容れない状況と判断した段階で、「権利侵害申立書」を提出してもらい、審理事案とするかどうか委員会に諮る――という段取り。審理入り以外に話し合い(斡旋)継続、審理対象外との判断もある。
以上の説明を委員会も了承した。
委員会決定についてNHKからの報告
放送人権委員会が今年の3月に委員会決定した「女性国際戦犯法廷・番組出演者の申立て」に関して、8月26日NHKから「委員会決定に対する取組状況」について報告があった。
この報告を受けた飽戸委員長が概要を説明。 委員会で飽戸委員長は、「一番肝心な点は、放送人権委員会決定を受けてNHKが申立人に最終的にどう対応したかということだが、NHKは『当該番組に関して別途進行中の裁判に放送人権委員会決定の内容が利用される可能性があり、申立人に対する最終的な対応は裁判の進行をもう少し見たうえで決めたい』としている」と補足、委員会も了承した。
8月の苦情概要
BPOに寄せられた8月1か月間の苦情のうち人権関連は次のとおり。
◆人権関連の苦情〔21件〕
- 斡旋・審理に関連する苦情(関係人からの人権関連の苦情で、氏名や連絡先 番組名などが明らかなもの)・・・3件
- 人権一般の苦情 (人権関連だが、関係人・当事者ではない視聴者からの苦情、または、氏名・連絡先や番組名などが不明なもの)・・・18件
◆その他、放送人権委員会への問い合わせなど・・・0件
人権関連の苦情の中で次の案件が事務局より報告された。
▽「自動改札機の開発を取り上げた番組」への抗議
京都の元会社員から、自動改札機誕生を取り上げた教養・ドキュメンタリー番組に対し抗議があった。その概要は次のとおり。
「磁気切符開発(磁気記録の技術開発)の経過を描く番組中で、真実が歪曲された。真の開発者の名誉を守るために、当該放送局らに訂正と再発防止を求めたが誠意ある回答は得られなかった」
この案件について委員会は、当該局に元会社員との話し合いを求めることにした。
(当該局に「苦情連絡票」を送付)
その他
事務局から、放送人権委員会委員と北海道地区放送事業者との意見交換会を10月24日(金)札幌で開催することになった旨の報告があった。
最後に、次回の定例委員会を10月21日(火)とし、最初に「山口県議選事前報道」事案のヒアリングを行うことを申し合わせ、議事を終了した。
以上