第73回 – 2006年11月
いじめによる青少年の自殺報道について
青少年に関する視聴者意見について審議 …など
いじめによる青少年の自殺報道について
鈴木秀美委員から「いじめによる子どもの自殺の連鎖が起こっている。今後、このような状況が続くのであれば、子どもに影響をおよぼすと考えられるので、自殺報道について青少年委員会で検討すべきではないか」との問題提起があり、いじめによる自殺報道のあり方について審議した。
各委員の意見は次のとおり。
- いじめによる自殺報道で自殺の連鎖が起こっていると指摘されているが、以前はいじめによる自殺なのかどうかの真相究明がなかなか難しいときもあった。遺族側からすれば、いじめによる自殺だったと報道することで学校側がいじめ自殺を認めたりすることは大きな価値がある。また、その事実が報道されることの意義も大きい。
- センセーショナルな取り上げ方が自殺の連鎖を生むのではないか。いじめ問題も自殺が起きるとそこだけに報道が集中しているようなので、日ごろから地道に取材し、きちんと検証して報道することが大切だ。
- 自殺報道によって、さらに自殺者が増えるということは、すでに統計的に証明されている。だからといって報道をするなというわけにはいかないので、難しい問題だ。
- 報道の仕方が問題ではないか。WHOの「自殺予防―メディア関係者向け手引き―」には自殺の報道について、いくつかの留意点が書かれているが、報道をするなとは言っていない。ただ、報道の現場の人は、いじめ自殺のような報道については、最低限こういった手引きがあることを知ってほしいと感じた。
- いじめ自殺の報道については、メディア側が短絡的に犯人探しをしているようで、学校側に対し結論を迫っている報道が目についた。
- 今回のいじめ自殺報道を考えると、いじめられた側の最後の抵抗として”自殺”が大きく報道されたため、自殺の連鎖が起きたのではないか。日本では、いじめた側を死をもって懲らしめるというメンタリティーが強いため、いじめ自殺の経緯を報道するだけでなく、そこの部分が強調されたことが問題だったのではないか。
- いじめ自殺報道の難しさはあるが、メディアとしては、子どもたちが自殺しないですむ方法も考え報道してほしい。客観的にニュースを流すのではなく、例えば、いじめ相談電話のテロップを出すとか、たった一言でもいいから子どもたちを救える放送をしてほしい。
- 福岡中2男子自殺の報道では、学校側の対応の悪さがあったかも知れないが、メディアが正義の味方のように学校を糾弾している報道があったので、少し行きすぎではないかと感じたし、あのような報道では自殺の連鎖は食い止められない。
- 相変わらず自殺した子どもの友だちに取材したりしていたが、青少年委員会が出した『「児童殺傷事件等の報道」についての要望』が生きていないのは残念だ。
以上の審議の結果、いじめによる自殺報道の行き過ぎを指摘する意見もあったが、委員会での議論を議事録に掲載することに留め、委員会として要望を出すには至らなかった。
青少年に関する視聴者意見について審議
今回は、いじめによる自殺報道について、視聴者から報道のあり方に関する数多くの意見が寄せられた。各委員の意見は前述のとおりである。
また、先月同様、中学生が妊娠して子どもを産むというドラマについて「不適切な番組」「倫理観の欠如」といった意見が寄せたれたが、委員からは「中学生モニターの意見からも、子どもたちは冷静に受け止めているようで、番組が悪影響を与えているとはあまり感じられない」といった発言があった。
そのほか、青少年委員会が10月26日に公表した「少女を性的対象視する番組に関する要望」について、視聴者から「バラエティーが面白くなくなった」「子どものチャンスを奪うような一方的な解決をしないで」といった批判や「要望を評価する」といった賛否両論の意見が寄せられた。委員からは改めて「子どもがダンスで表現することに対しダメだと言っているのではない。子どもが性的対象になることについて、日本は国際的に見て甘いと感じる。テレビでは厳しくするのが当然ではないか」との意見が出された。
中学生モニターについて
11月のレポートは24人から、39件(一人で複数件の報告有)寄せられた。分野別ではドラマが断然多く19件で、『14才の母』に7件、『のだめカンタービレ』に4件意見が寄せられた。バラエティー・音楽が9件、情報・ドキュメント・ニュースについてが7件、そして映画・アニメとスポーツが2件ずつだった。まず2本のドラマの意見から紹介する。
- 『14才の母』への意見は7件と倍増し、男子からも1件意見が寄せられた。男子の意見を含めほとんどが「第1話から見ているが、題名とは違ってずっしりと重みのある内容で命とは何かと問いかける。”私はこの子に会いたいの”と、お腹をおさえながら訴えかける姿には感動し、涙があふれてきた」などと、14才での妊娠という事をひとまず受け止めた上で、主人公やドラマの内容に共感している。しかし1件「皆この番組を興味本位で見ているのは確かです。だから、大部分の中学生は、”生きてゆくために必要なことを伝えてくれる”なんて、思っていないと思います。本当に、そういうことをTV局側は伝えたいのならば、こんなに美しいドラマにしてはいけない」という番組批判があった。
『のだめカンタービレ』の4件は、「のだめの行動が面白くキャスティングも意外性がある」とすべて好評で、「面白い漫画はたくさんあるから、もっとたくさんの漫画が広まって、もっと楽しいテレビドラマが増えてほしい」という意見もあった。 - 今月ほかに目立ったのは、いじめや自殺に関する意見が分野を越えて6件あったこと。ニュース報道の分野で、「今マスコミがいじめを扱うのにあたって必要なのは自殺の連鎖をくいとめることだと思う。謝ったり言い訳している校長の姿なんてどうでもいい。それよりも”あなたは本当に大切な存在なのだ”、”君が死んだら悲しむ人がいる”などのメッセージを放送する方がとても重要なことだと思う」という意見など2件。『ETVワイド いじめを考えよう』には「いじめられる原因やいじめるきっかけが全然わからないので、中途半端な印象でした」という注文が、またバラエティーの分野でも『リンカーン』のフレンドリーダウンタウンのコーナーについて「ダウンタウンの二人から何度もビンタなどをされる。見ていても気持ちよくないし、学校では友達が後輩に向かってこの企画のようにビンタをするなどの真似をしている。そんな”いじめ”を助長するようなことはテレビで極力やってほしくない。自分はこの番組自体は好きだし、この企画に参加しているダウンタウンも好きなので、この企画だけは本当にやめてほしい」という注文が寄せられた。
委員会での委員の発言を紹介する。
- 『14才の母』は、ドラマとして主人公を美化しすぎの感があるが、中学生たちは「生命の大切さ」を描くところに共感している。中学生なりに考え、番組に向き合っているのだと思う。
- 『のだめカンタービレ』は、リアルなものしか素直に受け入れない子どもの気持ちをつかみ、うまく作っている。メリハリがあり面白い。最近はマンガの世界に良い人材がいる、テレビの世界も作家の育成にもっと力を入れてほしい。
- 北朝鮮の核実験報道が「北朝鮮を責めるばかりで、他の核保有国に触れないのはおかしい」という意見はまっとうで、一部の番組ではやっていたが、確かに北朝鮮を非難するアメリカなど他の核保有国の過去の問題や現実も紹介すれば、北朝鮮の問題もより鮮明になる。
- 『めざましテレビ』のバラエティー化が目立つという指摘も的を射ている。ニュースを子どもたちにわかりやすくきちんと伝える努力を忘れないでほしい。
- 自殺報道についての「”あなたは本当に大切な存在なのだ”、”君が死んだら悲しむ人がいる”などのメッセージを放送する方がとても重要なことだと思う」という意見は適切だ。
調査・研究活動について
橋元良明委員から、調査企画チーム(第10回会合)の概要と11月19日の本調査(第3回)について、下記のとおり報告があった。
- 3回の本調査で、全体の半分の18人にインタビューを行った。当初から予想していたが、アンケート調査では平均値が出るが、インタビュー調査では個別の内容しか出てこないので、傾向を出すことが難しい。今後、どうまとめていくかが課題である。
- インタビューを行って感じたのは、暴力シーンや性的シーンに対し批判的に見ていない子どもがほとんどだった。また、スポーツ番組やドラマは熱心に見ているが、ニュースや報道番組はチラチラ見が多い。
- 受験をするかしないかでライフスタイルが違ってくるので、それによってテレビの見方も変わってくるようだ。
- 12月26日開催の中学生フォーラムで、現在までのインタビュー調査の中間的な報告を発表する。