青少年委員会

青少年委員会

2004年3月19日

「子ども向け番組」についての提言

2004年3月19日
放送と青少年に関する委員会

青少年委員会では、2003年2月から、大人向け番組が子ども達に与える影響、ではなく、子どもにターゲットを絞った番組についての議論を続けてきました。
子ども番組制作者との意見交換や、番組視聴、海外の状況の調査など、さまざな角度から議論をして、2004年3月19日に、記者会見をして発表しました。

放送と青少年に関する委員会(以下、青少年委員会)は、2000年4月に発足して以来、放送が子どもに与える影響について議論をしてきた。しかし、その多くはおとな向けに作られた番組が、子どもに与える影響を検討するもので、いわゆる“子ども向け”に作られた番組についての議論は十分ではなかった。

そこで、改めて、視聴者を子どもに絞って制作・放送されている番組について、実際にレギュラーで放送されている番組の視聴、外国の子ども向け番組を取り巻く状況の調査、また、子ども番組のプロデューサーから話を聞くなどして、さまざまな角度から議論を続けてきた。

民放連は、1999年6月に「青少年の知識や情操を豊かにする番組を週3時間以上放送すること」を決め、同年10月から民放各局は「青少年向け番組」(2000年春に「青少年に見てもらいたい番組」と名称を変更)を、毎年の番組改編の時期に選定している。

しかし、青少年のためだけに特別に制作された番組は、アニメを含めても数本しかなく、現在の民放各局の対応は、既存の番組に「青少年に見てもらいたい番組」と命名するにとどまっている。

青少年委員会が東京キー5局へ、「青少年に見てもらいたい番組」の選定基準をたずねたアンケートでも、放送局の子ども向け番組に対する明確なビジョンは見えてこなかった。

あるテレビ局は、「1.青少年の数多くに見ていただける時間帯に放送している番組、2.エンターテインメントとして楽しんでいただきながら、知識や教養を高めるために役立つ番組、3.家族や自然、芸術などとの触れ合いを通じて情操を豊かにすることに資する番組」を挙げているが、この回答からは、子どもとおとなの違いをどのように考えて対応しているのか判然としない。

さらに青少年委員会で、放送局が「子ども向け番組」として制作・放送している番組を視聴した結果、子どもの購買欲を刺激するCMを挿入するなど、子ども=消費者とするものや、価値観の多様性を認めない、美醜・善し悪しを押し付けるものも多く認められた。そこには、子どもと正面から向き合い、子どもの成長のために、テレビが何をすべきかという視点が欠けているように感じられた。

NHKは、伝統的に幼児番組というジャンルに力を入れ、専門家とともに「子どもに見せたい番組」を積極的に制作・放送してきた。そのため、子ども向け番組のことはNHKに任せておけばいいという意識が、民放の放送現場に潜在しているのではないだろうか。

民間放送では、スポンサーや視聴率がネックとなってNHKと同様の対応はできないという反論も予想される。しかし、オーストラリアの商業放送では、「(1)6~13歳向けに制作された、楽しめると同時に知的・社会的ニーズを満たす番組を、平日の7時~8時または16時~20時30分の間、あるいは週末や休日の7時~20時30分の間に、週最低5時間放送する。(2)CMで中断されない6歳未満向けの30分番組を平日7時~16時30分の間に毎日放送しなくてはならない」などと監督機関(Australian Broadcasting Authority)により定められている。(NHK放送文化調査研究年報NO.45より)

文化的背景の違いは無視できないが、オーストラリアの事例は、日本の民間放送でも可能な子どもへの配慮として参考になると思われる。

現在、社会の多くの場面で、子どもはおとなと対等な存在だと考えられている。子どもは、未成熟な存在としての特権的な地位を追われ、おとなと同じ成熟した存在として扱われることが少なくない。子どもを消費者として捉えたり、子育ての中で子どもとの対等性を強調するなど、社会が子どもに成熟を強いている。このことが、おとなが子どもにかかわる必要性、つまり、子どもの成長発達に対して本来果たすべき責務を軽減してしまう。子どもをおとなとみなして番組を制作・放送している放送局もこれに加担していると言われても仕方ない。子どもに対する特別の配慮の必要性を放送界は再確認する必要がある。

これまで青少年委員会は、主にテレビ・ラジオが青少年に与える悪い影響について論議し、「見解」や「提言」を発表してきた。しかし、テレビが持つ公共性や、影響力の大きさ、大勢の人が容易に接触できるという特性は、子どもたちが広範囲の知識を身につけ、情操を豊かにするうえで、すばらしい役割を果たすことができると考える。

青少年委員会は、子ども向け番組の充実と、すべての番組に対する子どもへの配慮とは両立し得ると考える。子ども向け番組づくりの経験が少ないために、一般の番組づくりのうえでも子どもへの配慮に欠けるのではないか。そう言わざるを得ない面を指摘したい。子ども向け番組づくりの努力が、すべての番組へのよい刺激となり、子どもに配慮した番組を増加させ、テレビ・ラジオが子どもにとってかけがえのない、よい影響を与えることを期待したい。

以上のことから、委員会は、各放送局が、次のような点を検討されることを望みたい。

青少年委員会での検討経緯

1. 放送局は、その公共性から、子どもの成長発達を促進するための番組を作り放送する社会的責務を有していることを再認識してほしい。
2. 「青少年に見てもらいたい番組」について再検討を行い、なぜ見てほしいと考えるのか、理由を番組ごとに明らかにしてほしい。また、新たに子ども向け番組の制作が増えることを期待したい。さらに、「青少年に見てもらいたい番組」の存在が、一般の視聴者に十分に知られているとは言えない現状から、番組欄へのマーク付けや、番組冒頭でのテロップ表示など、視聴者に向けたアピール手段について考えてほしい。
3. 子ども向け番組の中で、ひとつの価値観だけが、唯一の正しいもの、良いものであるとどもたちが受け取りかねないような表現は避け、多様な価値観や生き方を子どもたちに示すような番組づくりを進めてほしい。また、子ども=消費者という視点から、子どもの購買欲や持っていないことの劣等感をあおるように商品の紹介をしたり、関連グッズをことさらにアピールしたりすることなどないよう、十分な配慮を求めたい。
4. 外部の専門家も加えた、子ども向け番組とその制作者をサポートするシステムを作るなど、 “子どもによい番組”について、多角的に検討をしてほしい。

以上