放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第5回

第5回 – 2007年9月

委員会決定の総括

調査と見解のとりまとめについて …など

委員会決定の総括

委員会決定直後のテレビニュースや新聞記事、視聴者の反応については、すでに資料を委員に送付していたが、それ以降のメディアの反応、放送界の反応、さらに委員会決定を受けたTBSの対応について事務局が報告した。TBSのとった主な措置は、次のとおり。

  • 委員会決定の翌日と、司会者の休み明けの8月16日の『朝ズバッ!』の冒頭で視聴者に謝罪
  • 臨時の放送番組審議会を開き、検証委員会見解を受けて議論した(後日、報告書提出予定)
  • 本件等について役員等の処分
  • TBSが視聴者にメッセージを送る『TBSレビュー』(30分番組)において服部・放送倫理検証委員会委員をゲストに委員会決定を詳しく紹介する解説番組を放送

委員会では『TBSレビュー』を視聴した上で総括に入った。

委員会の議論の概要は以下の通り。

調査と見解のとりまとめについて

  • 調査と取りまとめには機動性が必要で、今後どうすればよいか考える必要ある。毎回、今回のように(担当委員に依存)はできないだろう。
  • 委員会議論で「勧告ではなく見解」となったときに、どういう論理構造で、どう書くか。どれだけ詳細にどこがだめだったかきちんと書くかに苦心した。しかし、審理段階で各委員と、委員会決定に何を書き込む必要があるのか、いろんな側面からの議論ができて方向性がはっきりした。
  • 今後こういうことは、ある程度の頻度を持って起こる。今回は二人の担当委員がものすごく自己犠牲的に頑張って、ここまでたどり着けたが、今後、どういう体制で同じ水準のことをできるようにするのかという問題のほうが大きいような気がする。
  • 今回の調査は2人で行ったが、手分けができる4人は必要かなと感じた。
  • 委員が調査をやるのは今回ぐらいの規模が限度。もう少し大きくなったら特別調査チームを作るべきだ。
  • 調査は弁護士中心の特別調査チーム、判断は委員会という二重構造にしたとき、難しさが出てくると思う。特別調査チームと不即不離の関係を一緒に作らないと、水と油みたいな報告書になってくるということになる。

取材テープの視聴について

  • 取材テープ内容をTBS側が文字にしたものを読んだが、「ほんとに活字だけで信用できるのか」という問題もあった。しかし、そのときにどうやって取材源の秘匿や内部告発を萎縮させないことを保証しながらそれをやるかということは、審理途中でも議論した。最終的には音声加工したビデオを視聴したが、その結果、内容はまったく文字で配られたとおりで、途中で編集されていないことを確認した。
  • 「これを前例にしていいのかどうか」というのは、場合による。BPOの姿勢としては、ほんとに必要なところでだけやるという判断が必要なのではないかと思う。
  • ある局の制作者は、何でTBSはテープを出したんだ、悪い前例をつくってくれたと言っていたが、検察とか裁判所がやる提出命令とは違う。放送界内部の自律の問題で、同じととられては困る。われわれも軽々にやったわけではないことは知っておいてほしい。
  • 合意書第1条(調査への応諾)の解釈はきちんとしておくべきだ。
  • 取材テープの提出依頼や取材源の秘匿は今後の課題として検討すべきだ。この委員会は公権力ではないので、取材テープの提出命令は出せない。取材テープを見るのは当然の権利ではなく、前例にすべきではない。
  • 当該局に調査委員会を設置させれば、その委員会は局側だから取材テープは当然見られる。「あるある」はそうだった。当委員会の場合は位置づけが難しい。

その他全般について

  • TBSが見解を受けたその日のニュースで、「捏造はなかった」が最初に出て、「しかし問題点があった」というニュース構造になっていた。「これは解釈が違う。ちゃんと受け取ってほしい」と不満に思った。
  • 制作側が杜撰であることによる事実誤認は今後も起きるだろう。
  • 今回の件を振り返ってみると、委員会での取り上げ方を考えなければいけない。ある意図を持った組織に、我々が利用されかねない危惧がある。
  • 国家権力の放送に対する介入を防ぐということが目的だとすれば、いったいどの時点で取り上げるのか。われわれが見て捏造だと思ったときに取り上げるのか、捏造じゃないかというある疑惑を感じたときに、審理ではなく、とりあえず審議してみようというようなスタンスもあるのか。それとも少し社会的にそのことが動き出したときに、われわれが社会的な倫理観を背景に介入するのか。その辺のタイミングというのを今後議論しておきたい。
  • 今回、『朝ズバッ!』が騒がれ始めたころ、特に新聞メディアが「どうする気だ」「ここはちゃんと機能するのか」という論調だった。何だか裁判所扱いみたいに、とにかくお灸を据えてほしいという変な社会正義みたいな幻想を楯に、あの番組をやっつけてやったら気持ちがいいみたいな雰囲気になっていった。だから、どういう答えを委員会が出すのかというのも、ちょっと低いレベルの興味津々みたいな雰囲気が漂っていたが、委員会決定を出してハッとしてくれたメディアが多かったと思う。きちんとわれわれは一つ一つの具体的な事柄に対して、まさしく見解を示した。なぜ見解なのかということも、ある程度はわかってもらえたような気がする。
  • 多くの現場の人たちが一生懸命読んでくれたと期待したい。番組はこういうつもりで作らなきゃいけないんだというのが積み重なっていく最初の一歩になればと思う。
  • 『朝ズバッ!』を見ていてつくづく思ったが、人は見かけによる。にじみ出る。本気で謝っているのか、困っているのか、一応言っておこうなのか、テレビって怖い。ほんとに怖いほど本心が伝わる。
  • TBSレビューで「こういうシステムの改善をやりました」という紹介があったが、「制作工程における資料の残し方とか、そういうところでこういうプロセスを加えました」というのがあればもっとよかったという気がする。今度の事例で取材メモがなくなったというのも、とっても重大で、今後ともそれが続いたら、調査ができない、機能しないということになるかもわからない。だから、どこかに箱を置いて、その場のメモはとりあえずそこに放り込んで、一定期間は保存するという体制を作ってもらうことも考えられる。
  • 謝り方だが、プロデューサーと司会者とコメンテーターが何が問題だったか話し合いながら謝る、そういう習慣づけが必要。委員会としては「見解」でそれを言い、モラルを浸透させていきたい。
  • 今後、当該局がどれだけ協力してくれるのかが鍵だ。今回、TBSは対応が早かったが、今後も同じように機能するかだ。
  • 放送された内容が取材と一致しているかどうかという点に限って審理するという方針を決め、われわれができることできちんとした意見を出すことができたのはよかった。結果として、TBSが会社としては非常にまじめに取り組んでいる。正に自省を促したことになったことで、「勧告」をして上から強制的にやるんだというのではなく、我々は自省を促す機関ですよというのを示した意味で、非常にいい落ち着き方をしたと思う。

事務局からの報告事項

  • 色覚障害者にやさしいカラーコピー機の開発を紹介したニュース番組について、日本色覚差別撤廃の会事務局長から、使用された映像と解説は虚偽とみなさざるを得ないとの意見が寄せられたが、ビデオをチェックしたところ、虚偽性は認められず、当委員会が取り上げる問題ではないと判断した。
  • 神奈川県貸金業協会から、1年前の放送で利息制限法を越えた金利についてコメンテーターの弁護士が「グレーゾーンではなく違法ゾーン」と発言したことについて虚偽との申立書が送られてきた。利息制限法の上限金利を越す利息は違法との最高裁判決を受けて法改正が行われ、施行を待つ状況であり、取り上げる妥当性がないと判断した。
  • 一般の人が、やらせやだましと思われる方法でテレビに出演させられ、番組上は善意の放送の形を取りながら、結果的に出演させられた本人や、周囲の人たちが傷つけられた。このような番組作りは許されないとする当事者からの訴えがあり、当該局から経緯説明の文書提出を受けて、委員会に報告。10月の委員会で、とりあげるかどうかを検討することになった。
  • このところ頻発している総務省の行政指導について、前回の委員会で、委員から、「行政指導のリストアップ」と「当該放送局が総務省に提出している文書の収集」を要請された件について、事務局から委員会にリストを提出し、数局に対しての要請と、それに対する反応について報告。これについても次回委員会で、改めて検討することにした。

以上