放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第9回

第9回 – 2008年1月

フジテレビ「27時間テレビ『ハッピー筋斗雲』」について

テレビ朝日『報道ステーション』マクドナルド元従業員の制服着用告発証言報道 …など

フジテレビ「27時間テレビ『ハッピー筋斗雲』」について

3回の審議を経て、担当委員がまとめた「意見」案をベースにして議論した。

  • 経営困難という断定、強調を繰り返し、その繰り返しが江原氏にスポットを当てるためのものであった。
  • 江原氏を見せることで、本来の趣旨である励ますということがまったくなくなってしまった。こういう出演のさせられ方をしたら傷ついてあたりまえだ。
  • フォロー企画に何のタイトルもクレジットも冠しないで放送したことについても、言及したほうが良い。Aさんとフジテレビとの間では解決されたにしても、視聴者にはなんの説明もない。あのやり方は姑息だということを指摘しておいたほうがいい。
  • この番組の作り方に、明らかに虚偽の部分というのはあったと思う。「お父さん、実は後ろにいらっしゃっているの」というのは、虚偽以外の何ものでもない。放送番組基準の中にはこのようなものはやるべきではないという基準がはっきり書かれており、それに照らしたら、あの番組だけでなく、類似の番組も基本的におかしい。この委員会が、そういうものをバラエティー番組だから何でもありみたいな角度で認めてしまったら、まずいのではないか。
  • 類似の番組についても言及すべきかどうかだが、具体的にある特定部分が明らかにおかしくて、しかもそれを問題にする人がいたときには、そこを議論するというのがわれわれの役目であって、全体としてこうだからという話に解消させると、すごくまずいことになると思う。
  • われわれが意見を述べるとすれば、放送基準の54条、占い、運勢判断及びこれに類するものは、断定したり、無理に信じさせたりするような取り扱いはしないという、これしかない。もろにこれに触れているわけではない。断定したり、無理に信じさせようとしているわけではないので。ただ、非常に肯定的に扱っているという意味では、少なくとも放送基準の解説とはやや違う。

委員の意見の中から、取り入れるものは取り入れて「意見」を最終的に取りまとめることを、担当委員と委員長に一任し、本件の審議を終えた。(フジテレビへの通知と記者会見は1月21日に行った)

テレビ朝日『報道ステーション』マクドナルド元従業員の制服着用告発証言報道

前回、委員会に提出されたテレビ朝日の報告書に対して、委員会として問題点などについて回答要請し、回答を得た。委員会では、回答内容について次のような意見が出た。

  • この回答を公表するとしても何かつけないと、この木で鼻をくくったような回答をそのまま認めた形になってしまう。
  • コメントをつけるべきだと思う。この回答を踏まえた委員会の意見を、こういう点はやっぱり問題がある、反省してほしいという意見をつけるべきだと思う。
  • 結局、これも「わかりやすく」とか「映像がほしい」ということだ。こうでなければニュースは伝えられないというふうに思ったら、映像のないニュースなんて何も伝えられないということになってしまう。それがニュースに接する態度かということだ。
  • やっぱりおもしろさ、わかりやすさと、結論先にありき、それを何度も注意していかないといけない。
  • 問いかけの趣旨というものに正面から答えられていないことに対しては、遺憾だという意見を示しておきたい。

委員会では、コメントをまとめる委員を決め、各委員の了解を得て質問書と回答書の内容、そして委員会のコメントを公表することになった。

光市事件裁判報道

18番組をチェックして、問題点を抽出した委員長代行のリポートをもとにして審議した。

  • 視聴者の知る権利を侵害しているのではないか。つまりほんとは裁判でいろいろなことがあるのに、自分たちが番組を作るために都合のよい部分だけをピックアップして視聴者に伝えているということが一番大きい問題なのではないか。
  • 確かにこの事件はセンセーショナルな事件、難しい事件でもあるが、そもそも論として裁判というものをどう考えているのかということを放送局に問いたいと思った。
  • 弁護活動に対する無理解。弁護士は何のためにいるのかということ、それはすごく疑問に感じるところが多々あった。
  • 被害者遺族の発言の取り扱いで、放送局からすれば、遺族がこういうことを言ったんだということを放送しているということかもしれないが、長々と時間を取ってやるということは、放送局がこの被害者遺族の言っていることに共感しているというような意味合いを持ってこないのか、非常に気になった。
  • この問題は、そもそも刑事裁判制度が日本のメディアにまったく理解されていないという、そこに問題がある。もともと日本で法教育を全然やっていないから、専門家だけの世界になってしまって、専門家の間では当然、近代的な訴訟制度はこうあるべきだと思われていることが、まったく世間に共有されていないことがよくわかった。そこに根源的な問題がある。
  • 番組の作り方で困ったなと思うのは、ワイドショーとか生ワイド等は、昔はある程度は裏づけを取った情報に関して1人か2人にコメントしてもらったのが、最近、情報の検証みたいなことをほとんどやらないでコメントに全部頼るという作り方が常識になってしまった。この辺で一度、警鐘を鳴らしておかなければいけないという作り方だ。
  • この問題を考えていくキーワードとして、弁護団に対する誤解と公平性とフェアコメントというか、論評が問題なんだろうと思う。
  • 全体として、いわゆる死刑廃止論者を少数派、異端者という線は全番組にほぼあると思う。その少数意見に対する耳を傾けようという姿勢がほとんどない。そういう意味では、ほんとに誤解を視聴者に与えるだけじゃなくて、ある意味じゃ世論を誘導しているみたいなものがある。知る権利、つまり視聴者に対してまったく何も伝えていない、片方の意見を。そういう意味で、すごく偏向報道という、そして極刑礼賛というか、極刑を待っているという状況が何か作られていくなという、危惧を感じる。

この案件は作業量も多く時間がかかるため、小委員会を作り検討することになった。

坂出市事件報道

坂出市事件の報道問題をどのように扱うかについて、議論した。その結果、捜査段階の報道のあり方は、裁判員制度にも絡んでくる大きな問題であり、放送現場の人たちと一緒に考えていきたい。検証委員会が発足して1年になる5月をめどにシンポジウムを企画することになった。

報告事項

  • 読売テレビ「奈良・放火殺人事件を巡る調書漏洩事件」報道の再報告
    前回の報告では、なぜ誤報を出したのかなどに触れられていなかったため、再報告を求めた。1月9日付けで再度提出を受け、委員会はこの報告を了承した。
    読売テレビの報告内容はこちら
  • フグ肝入り釜飯をタレントが作って食べた番組に厚生労働省が行政指導
    昨年12月13日に放送されたバラエティー番組で、タレントが、宮崎県内でシロサバフグ(地元ではキンフグと呼ばれる)をもらい、毒のない肝も入れて釜飯を作って食べた内容が放送され、ホームページでも調理方法を紹介した。これに対して厚生労働省は「番組を視聴した一般国民が、安易に調理行為を真似た場合、死亡事故につながりかねず、フグ毒の知識を持たない一般国民がフグを調理することを助長するものであったことは、きわめて遺憾」として、健康被害の発生防止について対策を講じるよう指導した。
    これを受けて、当該局はHP上で注意を呼びかけ、翌週の番組終了後にも注意を呼びかけた。

    以上の報告に対して委員から、「本来は当該局が、当社はこういう指導を受けたことに対して、こういうことをしましたとホームページに公開すべきだ。テレビ局が自分たちがどう対応したかということを公表する責任はないのかなと思う」との意見が出た。

  • 三宅島観光協会事務局長公募選考を追ったニュース企画について
    三宅島観光協会の事務局長公募選考を伝えたニュース企画について「女性応募者が面接で泣いたシーンは、あたかも面接者が不当な質問をしたような印象を与えた」と、観光協会から文書が届いた。事務局で番組を視聴した結果、泣いた本人も面接会場から出てきて、泣いてしまったと明るく言っており、面接者が不当な質問をしたから泣いたという誤解は視聴者に与えてはいないと判断したことを報告し、委員会は了承した。

以上

読売テレビ「奈良・放火殺人事件を巡る調書漏洩事件」報道の再報告

《報道の内容》

当該ニュースは、昨年9月28日奈良地検が秘密漏示容疑で令状に基づいて京大教授の自宅と大学の研究室を家宅捜索したことを受け、当日の昼ニュース及び夕方ニュース(いずれも関西ローカル)内で放送したもので、「関係者によりますと(中略)調書から○○教授の指紋も検出されたということです」などと、教授が一連の事件に関与していた可能性が強いことを示唆する内容となっており、実名で報道したものです。

《報道にいたる経緯》

「調書から○○教授の指紋も検出された」という情報については、取材の過程で9月27日に、入手したものです。この情報に基づき、弊社報道部は、28日早朝から、当該教授の自宅に取材班を派遣しました。当日、奈良地検の家宅捜索が行われた際に現場に居合わせた報道機関は、テレビ局は弊社のみで新聞は2社でした。当日午後には大学研究室の捜索も行われ、これは全社が取材したものと見られます。

捜索が実際に行われたことを受けて、前述の通り弊社は当日の昼と夕方のニュースで報道いたしました。この際、「教授の指紋検出」については、捜索が行われた事実に引きずられ、情報の真実性について確認が取れないまま、報道に及んだものです。

《謝罪に至る経緯》

11月2日に奈良地検が事件の最終処分を発表し、教授が事実上事件との関わりはないとされたにも関わらず、当日のニュースの中で教授について全く触れず、名誉回復を怠る事態を招きました。

また、「指紋の検出情報」については、その後も引き続き取材を進めましたが、その存在を裏付ける情報は得られず、11月13日に教授代理人に対して、弊社の一連の報道に不備があったことを伝えました。

弊社では、前回の報告書に記載の通り、今回の事案は報道機関としての責任・役割を十分に果たしていなかったとの認識のもと、12月10日付けで5名の社内処分を実施し、翌11日に教授宛に取締役報道局長名での「お詫び」文を提出しました。

《名誉回復措置》

弊社が「お詫び」文を提出した12月11日、教授代理人の弁護士が記者会見を開き、提出文書を公表しました。この記者会見について弊社は、当日夕方のニュース(関西ローカル)で取り上げ、名誉回復措置の一環として報道しました。

また12月18日の夕方ニュース(関西ローカル)において、「調書漏洩事件」全体を振り返る年末特集の中で、自宅が家宅捜索を受けた教授について、指紋は検出されず事件に関わりが無かったこと、弊社がお詫びしたことを改めて伝えました。この措置については、単に謝罪の放送をするより名誉回復の効果が高いと判断し、実施したものです。

以上