放送倫理検証委員会

「テレビ局に対する総務省の行政指導に関する声明」全文

2004年11月11日

テレビ局に対する総務省の行政指導に関する声明

BPO [放送倫理・番組向上機構]
放送と人権等権利に関する委員会委員長  飽 戸 弘
放送と青少年に関する委員会委員長  原 寿 雄
放送番組委員会委員長 木村尚三郎

放送倫理・番組向上機構[BPO]は、「放送事業の公共性と社会的影響の重大性に鑑み、言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情…(中略)…に対して、自主的に、独立した第三者の立場から迅速・的確に対応し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的」に設立された(BPO規約第3条)。BPOを構成する三つの委員会(放送と人権等権利に関する委員会、放送と青少年に関する委員会、放送番組委員会)は、この目的を果たすため真摯な活動を行ってきたが、6月22日に総務省が通達した厳重注意などの行政指導は、以下の理由により、放送の自律や放送界の第三者機関に対する信頼を危うくするおそれが極めて強いと判断せざるを得ない。

第一に、総務省(情報通信政策局長名)が厳重注意を行ったテレビ朝日の国会・不規則発言編集問題については、当事者である衆議院議員・藤井孝男氏の申立てに基づき、放送と人権等権利に関する委員会[BRC]が審理の結果、テレビ朝日が重大な過失によって藤井議員の名誉を侵害したことを認定し、同局に対し適切な措置を講じるよう勧告した。然るに、総務省はテレビ朝日に対し重ねて通達(厳重注意)を行い、その中でBRCの事実認定や判断を引用して自らの措置を正当化した。これは、テレビ朝日側からすれば二重の処分(制裁)を受けたことを意味するとともに、第三者機関としてのBRCの存在意義を甚だしく軽視するものである。

第二に、総務省はテレビ朝日と山形テレビに対し、放送番組の編集上求められる注意義務を怠り、それぞれ政治的公平に反する番組があったとして厳重注意をするとともに、再発防止に必要な措置を講ずるよう要請した。たしかに、放送法第3条の2第1項は、放送番組の編集に当たって、放送事業者に求められる事項について定めている。しかし、当該規定は、総務省の前身である郵政省自ら「精神的規定の域を出ないものと考える」としているところである(郵政省「放送関係法制に関する検討上の問題点とその分析」1964年)。注意を受けた番組にもそれぞれ問題がないわけではない。だが、政治報道は言論の自由と深く関わるものであるから、公権力がその可否を判断することは、慎重のうえにも慎重でなければならないと考える。放送番組における政治的公平の問題については、BPOでも研究課題となっているが、総務省においては慎重な姿勢をとられるよう強く要望する。

そもそもBPOは、放送を通じて市民の知る権利に奉仕するに当たり、国家機関その他の公権力による支配を受けることのないよう、放送への苦情に的確に対応し、その判断を独立した第三者委員会に委ねるため、放送界が自主的に設立した機関である。この民主的な組織が成功するか否かは、一に放送事業者の自覚と公権力の謙抑とにかかっていると言っても過言ではない。

以上、BPOを構成する三委員会は、それぞれ独自に審議を行った結果、改めて放送の自律性と、第三者機関の自主独立の重要性に鑑み、総務省の今回の行政指導に関し、ここに三委員長名で見解を明らかにすることとした。

以上