放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第37回

第37回 – 2010年4月

偽札詐欺報道で違法な取材があったTBSの『報道特集NEXT』と『イブニングワイド』

「バラエティー番組」のブックレット刊行について…など

第37回放送倫理検証委員会は4月9日に開催された。冒頭、香山リカ、是枝裕和、重松清(欠席)の新委員3名が紹介され、新しい委員長代行に吉岡委員が指名された。
ブラックノート詐欺事件を報じたTBSの『報道特集NEXT』について、4月2日に「意見書」を通知・公表したことに関連して、委員から意見や感想が述べられた。
「バラエティー番組」のブックレットに収録する関連資料について合意が得られ、5月上旬に刊行の運びとなった(注:5月14日刊行)。
ダメな夫をテーマにした日本テレビの『行列のできる法律相談所』に前衆議院議員の夫と参議院議員であるその妻が出演した。次回総選挙での投票依頼とも受け取れる不適切な放送があったので、当該局に質問書を出して説明を求めることにした。
日本テレビの報道番組『NEWS ZERO』で、女子フィギュアスケートの浅田選手へのインタビューをめぐって、事実と異なる編集が行われた。既に当該局が非を認め、自主的に訂正・お詫びをしているので審議入りはしないが、問題点を指摘することにした。

議事の詳細

日時
2010年4月9日(金) 午後5時~7時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、石井委員、香山委員、是枝委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員

偽札詐欺報道で違法な取材があったTBSの『報道特集NEXT』と『イブニングワイド』

本事案については、4月2日に当該局に対して「意見書」を通知・公表した。記者会見の質疑や新聞報道について各委員から意見や感想が述べられた。

【委員の主な意見】

  • 「犯人に逃げられたのは、この取材をした番組の責任ではないのか。委員会はそれについて何も言っていないが」との質問があった。しかし、それはこの委員会が審議すべき事柄ではない。
  • 報道では、犯人のクルマに発信器を取り付けたことについてあまり触れられていなかった。このことが軽く考えられているのではないか、という気がした。
  • 興信所のホームページなどを見ると、発信器を使って尾行します、とよく書いてある。尾行調査などで相当使われているようだ。取材での発信器取り付けは大きいテーマだと思うが、記者会見では質問がなかった。
  • 制作会社との共同制作番組における局側の対応や放送責任のとり方などが重要なテーマなのに、今回の新聞報道を見ていると、そこはあまり報道されていなかった。
  • 今回の記事もそうだが、新聞報道がパターン化する傾向があるのではないか。BPOが局を批判した部分はそれに乗って局を批判する、BPOが局を守れば今度はBPOを批判するという、一面的な対応になっていないか。

「バラエティー番組」のブックレット刊行について

ブックレットには、委員会の「意見書」と、各局のその後の対応やメディアの反応などを簡潔にまとめた資料を収録し、今後、関係者がバラエティーに関して考えるときに役立つように配慮した。刊行は5月上旬を予定している。

選挙の事前運動とも受け取れる放送があった日本テレビの『行列のできる法律相談所』

3月21日放送の『行列のできる法律相談所』はダメな夫を紹介することがテーマであった。その中で、落選中の前衆議院議員である夫と参議院議員であるその妻が出演した。その際、夫の選挙区とその自治体名や、次回の選挙での投票を依頼したようにも受け取れるメッセージを字幕スーパー入りで放送した。また、比例区についても、夫妻が所属する政党への投票を誘導するような紹介がされた。これらは政治的な公平に反し、選挙の事前運動の疑いがあるのではないかという指摘があった事案。当該局からは経緯説明書が提出されたが、曖昧な説明が多く、より詳しい報告を求める必要があるとの意見が相次いだため、委員会として正式な質問書を出し、その回答書を見た上で対応を決めることとした。

【委員の主な意見】

  • これは選挙番組風にしようという意識のもとに、前議員の顔にテロップが「よろしくお願いします」とかかるように意図的な演出をしている。
  • 繰り返し見ていると、出演交渉の際に、選挙区についての話をするという約束があったとしか思えないような流れだ。無理やり選挙区の話に持っていっているという気がする。
  • 番組制作者には公職選挙法への意識はなく、選挙自体もひとつのエンターテイメントとして認識していたということがベースにあるのではないか。
  • 本来、局で自主的に解決すべき問題だ。考査部門とか、あるいは番組審議会とかで、チェックや議論をするべきだ。
  • 生放送ではなく、わざわざ時間をかけて編集して作った番組だから、あのテロップを出した事情については、きちんとした説明を聞く必要がある。
  • これだけ視聴者意見が寄せられているのは、相当な人があれは異常だと思って見ているわけだ。局内で編集から放送までの過程で、なぜ全部スルーしてしまったのか。

スポーツ選手へのインタビューで事実と異なる編集をした日本テレビ『NEWS ZERO』

『NEWS ZERO』(3月29日放送)で、女子フィギュア世界選手権終了後に浅田、安藤、キムの3選手がいっしょにインタビューに応じた模様を放送した。「3人は友達ですか」の質問に浅田選手が「はい」と答える映像が流された。しかし、浅田選手は実際には何も答えず微笑んでいただけであり、「はい」の映像は「安藤選手と友達ですか」という別な質問の答えを編集で差し替えていたという事案。
誤った情報に接した担当チーフディレクターの思い込みによる指示が原因であるとの当該局の説明を元に討議した結果、事実と異なる編集を意図的に行ったことはある意味でねつ造といえるが、当該局が非を認め、4日後に訂正放送を行い、お詫びしている、NOをYESと改ざんしたわけではなく、また、それによって深刻な被害を被った人が出たわけでもないから、自主的な対応を評価して審議対象にはしないこととした。

【委員の主な意見】

  • 明白な故意のあるねつ造ではあるが、うなずいた映像と「はい」と言ったのを入れ替えただけの違いだ。被害者がいるわけではないし、迅速に訂正をしているということを考えると、取り上げる必要があるのだろうか。
  • NOをYESと変えたのだとしたら問題だが、そうではない。
  • あの”うなずき”は本当にYESという意味の”うなずき”なのかという疑問もある。
  • 局内で事実関係をきちんと調査した上で訂正放送をし、原状回復したのだから、その自主的・自律的な措置を尊重するべきだ。むしろ、同じ局でありながら、前の「法律相談」事案の対応と、どうしてこんなに違うのかが疑問だ。
  • テレビ的な表現とか、わかりやすさということを追求していくと、このような落とし穴に落ちてしまうことがある。
  • 制作者が事実とは違うと知りながらこのような編集をしてしまうことについて不感症になっていることのほうが怖い。

以上