放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第159回

第159回 – 2010年3月

「上田・隣人トラブル殺人事件報道」事案の審理

「旅館再生リポート・女将の訴え」事案の和解報告 ……など

「上田・隣人トラブル殺人事件報道」事案の実質審理が始まった。「旅館再生リポート・女将の訴え」事案の和解について事務局より報告した。3月10日に行われた「拉致被害者家族からの訴え」事案の通知・公表について事務局より報告した。

議事の詳細

日時
2010年 3月16 日(火) 午後4時~6時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
堀野委員長、樺山委員長代行、三宅委員長代行、小山委員、坂井委員、武田委員、田中委員、山田委員

「上田・隣人トラブル殺人事件報道」事案の審理

長野県在住の被害者遺族から申立てのあった本事案の実質審理に入った。
申立ては、テレビ朝日が、2008年12月23日に『報道ステーション』で放送した、特集「身近に潜む境界トラブルの悲劇・住宅地の惨劇はなぜ起きた」に対して行われたもの。
申立人は、「両親の嫌がらせが殺害動機であるとの放送内容は事実ではない。また、放送は『嫌がらせを行った人物』『常識のない人物』として、両親の社会的評価を著しく低下させるもので、両親に対する敬愛追慕の情を著しく侵害された。さらに、子供である申立人本人の名誉も侵害された」と主張している。
これに対しテレビ朝日は、「決して被害者を貶めるつもりで放送したものではなく、謝罪、訂正放送が必要な事実誤認もなかった」と反論している。
委員会では、テレビ朝日から提出された放送同録を再度視聴した後、取材や番組の構成等について意見を交わした結果、次回委員会においても、さらに審理を重ねることとした。

「旅館再生リポート・女将の訴え」事案の和解報告

本事案は2月18日にBPO会議室で堀野委員長立ち会いのもと、申立人と被申立人のフジテレビが出席して和解の手続きがとられ解決した。
事務局が当日の様子とホームページやBPO報告で和解成立を伝えたことを報告した。
(和解内容の詳細は2009年度 仲介・斡旋解決事案をご参照ください)。

「拉致被害者家族からの訴え」事案の通知・公表の報告

本事案の「委員会決定」の通知と公表が3月10日に行われた。
事務局よりその概要とテレビ各社の放送対応および新聞記事をまとめた資料を配付し、以下のとおり報告した。また、当該局であるテレビ朝日が報じた当日夕方のニュース番組の同録DVDを視聴した。

通知には堀野委員長と、起草委員を務めた樺山委員長代行および坂井委員の3人が出席し、申立人である「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」と被申立人であるテレビ朝日とが同席する形で行われた。
(決定内容の詳細は「委員会決定」の項、決定第43号をご参照ください)。
通知の後、両当事者から個別に質問を受け、意見や感想を尋ねた。
家族会の飯塚代表は「謝罪が不適切と判断していただいたが、国民に分るような謝罪の仕方とはどういうものか、もっとやっていただきたかった」と述べた。増元事務局長は、田原発言全体については「言論の自由の範囲内」とした判断を「残念だ」と述べた。一方、テレビ朝日は「決定を真摯に受け止め、今後に生かしていきたい」と述べた。
この後、記者会見で「委員会決定」の内容を公表した。会見には26社64人が集まり、テレビカメラ6台が入った。
昨年6月に申立書を受理してから通知・公表までに9か月を要した点について、堀野委員長は「申立て内容が重大であり、また『名誉毀損やプライバシーの侵害以上に、最も重大な人権侵害』という主張をどう理解するかなど、論点についての意見統一にも時間がかかった」と説明した。
樺山委員長代行は、「BPOで扱ってきた事案の中でも極めて難解で、被害者の救済と言論の自由とが正面衝突したケースだった。それだけに長い時間をかけて議論した」と述べた。
坂井委員はポイントを3点挙げ、「1つ目は言論の自由の大切さであり、異論を受け入れる寛容さが必要だという点だ。2つ目は言論の自由を前提としても他人を傷つける言い方はまずいということだ。それは表現の自由を足元から崩す行為になる。3つ目は謝罪の問題だ。商品に欠陥があった場合、マスメディアは企業の社会的責任を厳しく問うが、メディアで誤りがあった場合も同じで、謝罪の気持ちはちゃんと伝わるようにやるべきだ」と述べた。
記者からは「特に難しかった点はどこか」という質問が出た。
堀野委員長は「生死不明の家族について『生きていない』と言われて精神的苦痛を受けた時、どのような権利がどの程度害されたといえるのか。名誉やプライバシーの侵害などとは次元の違う問題だったことだ。この点については名誉毀損等の余地ありとした三宅委員の補足意見がある。もう1点は政府の方針に疑念を生じさせたとか、救出運動を妨害したなどの申立てが、直接、人権に係る問題ではなかったことだ。所轄外といえば終わる話だが、ひいては拉致被害者の生命にもかかわる重大な人権侵害という主張なので、きっちり答えようということになった」と答えた。
通知と会見を受け、当該局であるテレビ朝日は夕方のニュース番組『スーパーJチャンネル』で、全国ネット枠で決定内容を報じるとともに、改めて社としてお詫びした。(当該番組の『朝まで生テレビ!』では、3月26日の放送で決定内容を詳しく伝え、「決定を真摯に受け止め、今後も放送倫理に十分配慮した放送に努めて参ります」と述べるとともに、重ねて社としてのお詫びを放送した。)
このほかの在京民放テレビキー局およびNHKは、10日夕方から夜にかけてのニュース番組や翌11日朝の生活情報ワイド番組で、全国ネット枠で伝えた。
新聞各紙は自社サイトで速報したのをはじめ、11日付けの朝刊紙面で一斉に報道した。

2 月の苦情概要

2 月中にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情・相談・批判の内訳は以下の通り。

  • 審理・斡旋に関する苦情・相談・・・・・・・・3件
    (個人又は直接の関係人からの要請)
  • 人権一般の苦情や批判・・・・・・・・・・・・52件
    (人権問題、報道被害、差別的表現など一般視聴者からの苦情や批判)

その他

  • 事務局から、(1)総務省が在京民放テレビ5局を対象に女子中学生自殺報道について調査しようとした問題、(2)総務省の「今後のICT分野における国民の権利保障等のあり方に関するフォーラム」の動向、(3)3月5日に国会に提出された放送法改正案の概要――の3点について報告した。
  • 次回委員会は4月20日(火)に開かれることになった。

以上