第29回 – 2009年9月
バラエティー番組の問題点について
虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組『真相報道バンキシャ!』 …など
第29回放送倫理検証委員会は9月11日に開催された。
前回、審議入りしたバラエティー番組の問題点に関して、担当委員が提出した決定文の原案について議論した。全体の構成や結論は、ほぼ了解点に達したが、若干の手直しが必要であるので、改訂案をまず担当委員が作成し、その改訂案について各委員の意見を聞いた上で決定文を完成させることにした。
『真相報道バンキシャ!』については、8月24日に日本テレビが放送した検証番組に対する意見交換を行った。問題点がいくつか指摘されたが、番組は「勧告」の内容に従って制作されていると認められるので、この検証番組の放送により委員会の「勧告」は履行されていると了承した。
女性を殺害したとされる容疑者が護送される航空機内で、客室乗務員の制止を聞かずに取材が行われた事案。審議には入らないが、さまざまな意見が出されたのでその要点を「BPO報告」とBPOホームページに明記し、関係各局に機内取材のあり方について検討を促すことにした。
議事の詳細
- 日時
- 2009年 9月11日(金) 午後5時~8時
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
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バラエティー番組の問題点について
虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組『真相報道バンキシャ!』
護送される容疑者の航空機内における取材について - 出席者
- 川端委員長、上滝委員長代行、小町谷委員長代行、石井委員、市川委員、里中委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員
バラエティー番組の問題点について
バラエティー番組全体に見られる放送倫理上の問題点については、7月17日に開催された臨時委員会で審議入りを決めた。そのときに議論した内容を骨子に、担当委員から決定文案が提出された。全体の構成や結論については、原則的に了解点に達したが、表現については全面的に改める必要があるとの意見が大半を占めた。引き続き担当委員が改訂案を作成し、更に各委員の意見を聞いた上で修正作業を行い、決定文が完成され次第速やかに通知・公表すべきであるという点で一致した。
<主な委員の意見>
- バラエティー番組にはエスプリ、ユーモア、発想の大胆さ、面白さがある。形を変え、姿を変え、出演者を変えて、いろいろなアイデアを生みだして今日まで生き続け、しかもどんどん広がってきた。そのエネルギーを評価しなければいけない。
- バラエティー番組の歴史的な経過を書いておくことが、すなわち「バラエティーの価値は新しいものを作り出すことにある」という基礎的定義になってくる。
- 何も定義する必要はない。歴史的にはこのような形でバラエティー番組が展開されてきたが、その中で、今、問題になりうる要素は何かを考えたのか、ということが示せればそれでいい。
- バラエティーが、例えば報道番組や教養番組と混ざり合う時に、バラエティー的な目的と、報道・教養的な目的とがどこかでぶつかる。その時にバラエティー的な目的を優先させて報道的な事実に対する扱い方を損なうと、問題が発生する。
- 報道問題の軸は客観性や公正さだ。それに対して娯楽番組を作るときは表現の自由だ。「あなたたちがしっかりしてくれないと憲法21条が危ないですよ」といいたい。
- 検討した番組資料から言えるのは、テレビ局の責任体制の空洞化と事後対応が全く機械的にしか行われていないこと、それから、視聴者や関係当事者による指摘があってはじめて問題が明らかになったこと-の3点だ。
- バラエティー番組共通の問題として、かつての時代と比べてメディア環境が変わり、経済的な圧迫が強くなっているけれど、制作者はお金がないならないなりに努力しようとするはずだ。しかし現実は、知性とか感性とかエスプリの感覚が劣化しているように思われる。
- 番組をつくる当事者自体が試みとして、何でも自由にやるというのは、番組向上の基本だ。バラエティー番組というのは非常にポジティブな価値があって、正にテレビの原点であるということはきちんと言うべきだ。
虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組『真相報道バンキシャ!』
日本テレビは、8月23日の『バンキシャ!』枠内後半の26分30秒間と、翌24日0時50分からの特別番組(38分間)で検証番組を放送した(検証結果の報告書の提出とホームページへの公表も実行されている)。各委員が事前に配付された検証番組を視聴した上で意見交換が行われた。その結果、「勧告」の内容を踏まえ、それに沿って構成されており、委員会はこの検証番組を「勧告」の履行として了承することにした。
<主な委員の意見>
- 放送日が予定より1週間延びた理由と、ほぼ同様の内容を2回に分けて放送した理由は何だったのか。
- いろいろな不祥事があると、責任者が並んで立って頭を下げて謝るが、あれは何なんだろう。検証番組の場合は、あの場面は要らない。
- 勧告書は、テレビ的演出論についても言っているが、検証番組ではそれについてふれられていなかった。むしろそちらのほうが大事だと思う。
- 社員と外部のディレクターの2人だけは顔を写さない映像にし、ほかの人たちは実名だった。あの違いは、視聴者に対してあの2人がすごくいけないことをしたかのような印象を与えてしまう。
- こうなった原因はこれだ、そうしなければよかった、という反省はされている。しかし、なぜちゃんと取材をしなかったのか、なぜ上と下の間の、また現場と本社との間のコミュニケーションが上手くいかなかったか、が抜けているので検証とはいえない。
- この「なぜ」の部分はヒアリングのときにも聞いたが、やはりきちんとした答えはない。取材不足になったのは情報提供者を保護しなければならない、の一点張りだ。
- 放送の不祥事は放送でかえすべきだ。つまり検証番組を促進するという意味で最大限に評価したい。
- いわゆる”検証番組”のパターンができてしまったという感じがする。みんなで頭を下げて、ここは本来やるべきことができませんでした、というふうに中身がなくなってどんどん形式化していくと思う。何か新聞の謝罪広告みたいだ。
- 委員会の意見書を公表したときの記者会見時の映像が多すぎて、非常に違和感がある。何でそれに寄りかかってこの番組を作ったのだろうか。自分たちの言葉による検証番組とはいえない。
- 一応、それなりに意思が表れているけど、何か「やりましたよ」というアリバイ作りみたいなものを感じた。例えば訂正放送について今後検討すると言うけれど、今回はあそこまで指摘されたのだから、「私たちはこのような訂正放送とすべきでした」といったことがあるのかなと思ったが、全くなかった。
- 講義形式の研修などをやっても効果がないというのははっきりしているのに、どうしてああいうものしか思いつかないのだろうか。
- 『バンキシャ!』のスタッフが全員集まって頭を下げるよりかは、あの30人、一人ひとりの生の声を流したほうがよかった。それでうまく構成していけばよいものができたと思う。
- ともあれ、「勧告」に従って検証番組を制作し、それを放送した事実は高く評価するに値する。委員個々人の感想はいろいろあるだろうが、委員会としてはそのことをきちんと認める必要があるし、それで十分なのではないか。
容疑者が護送される航空機内における取材について
千葉で女性を殺害し、その娘を連れて逃亡した容疑者の男が沖縄で逮捕され、航空機で東京に護送される機内の模様がテレビ3社により取材、放送された。機内の取材は、機長の許可を受け、客室乗務員の指示に従って行うのが基本ルールである。ところがある局のニュースは、客室乗務員から「他のお客様の迷惑になるので、お席にお戻りください」と度重なる注意が行われたが、それを無視して取材が続行されたことが分かる内容の放送であった。この放送に対して、視聴者から多数の苦情が寄せられた。本事案に関しては当該3社から報告書を求め、それをもとに討議した。
<主な委員の意見>
- ある報告書には「(客室乗務員から)口頭で言われただけで、機内アナウンスされたことはなく、同行する警察官やほかの乗客からも抗議や注意はなかった」と書かれている。これで取材側のエクスキューズになると思っているのだろうか。
- 容疑者を取材している記者やカメラマンを単に非難するよりも、あの映像を見たときに機内でこんなことをしていいのかと、むしろそちらのほうに疑問を感じた。つまり、マナーの問題ではなく法律に触れる問題ではないのかということだ。そういう縛りがかからないかぎり、プロとしては取材するだろうが…
- 客室乗務員に注意されても撮影を続行できるのは、そこまでしても報道する価値がある取材対象だという場合でなければ正当化されないと思う。
- 客室乗務員がやめてくださいというような深刻な事態が起きていたのかどうかは、この映像からだけでは判断できない。それを判断したのは取材者であり、その姿勢をどう見るかだ。
- 取材はしかたないとしても、その映像をあとでどう放送するかは、場合によっては人権問題にも関わってくると思う。今回の映像を見た感じでは、あれを流してはいけないというようなものではなかった。
- 報道を呼び寄せたのは捜査側ではないのか。であるのならば、この場合モノを申すとすれば、放送局に言うべきなのか、警察に言うべきなのか、どちらなのか。
- 客室乗務員の注意を無視する機内の映像も、その後の高速道路の追跡取材の生中継も、放送する側は重大事の貴重な映像であるかのように扱っているが、本当にそうなのか。
討議の結果、審議入りするまでの事案ではないが、各委員の意見を「BPO報告」とBPOのホームページに明記することにより、機内取材のあり方について各局に再検討を促すことにした。
以上