第26回 – 2009年6月
虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組『真相報道バンキシャ!』
戦時性暴力を扱ったNHKの『ETV2001』 …など
第26回放送倫理検証委員会は6月12日に開催され、まず、日本テレビ『バンキシャ!』について4回目の審理を行った。担当委員による委員会決定文案について議論されたが結論に至らず、次回に持ち越すこととした。
『ETV2001』については、NHKから「放送倫理検証委員会の意見についての見解」が提出されたので意見交換を行った。その結果、より多くの方々に議論を深めてもらうために、委員会の「意見」とNHKの見解等をまとめたブックレットを発行することにした。
二重行政をテーマに大阪府の道路清掃を取り上げた『ニュースキャスター』事案については、委員会からの質問に対するTBSの回答が提出された。それをもとに討議したが取り上げるかどうかを含めて、再度議論することにした。
バラエティー番組の問題点については、担当委員により2案出された原案を一本化した上で、7月に臨時の委員会を開いて集中的に議論することにした。
議事の詳細
- 日時
- 2009年 6月12日(金)午後5時~8時40分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
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虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組『真相報道バンキシャ!』
戦時性暴力を扱ったNHKの『ETV2001』
道路清掃をめぐる二重行政問題を取り上げたTBSの『情報7daysニュースキャスター』
バラエティー番組の問題点について - 出席者
- 川端委員長、上滝委員長代行、小町谷委員長代行、石井委員、市川委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員
虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組『真相報道バンキシャ!』
岐阜県が発注した土木工事で、裏金作りが行われているという建設会社役員の証言を報じた日本テレビの報道番組『バンキシャ!』(2008年11月23日放送)について、担当委員が作成した決定文案をもとに審理した。
現場で取材したスタッフの能力の問題よりも、むしろ制作体制の不備など構造上の問題ではないかという点に議論が集中した。
また、委員会として、検証番組の制作・放送を行う等の「勧告」を出すべきかどうかについても議論されたが、今回は結論に至らなかった。
<主な委員の意見>
- 本来、取材を陣頭指揮すべき立場の人たちが局内にいて、現場で走り回って取材しているのは裏取り取材の経験の乏しい人たちばかりだ。日本テレビは、問題の根本を個人の能力の問題と捉えているように見えるが、そういうしくみを作ったのは局である。その責任について、日本テレビの報告には触れられていない。
- 番組の責任者は十分な情報を知らずに判断を迫られ、その一方で現場のスタッフは情報提供者の詳しい情報を知らされずにロケに行っている。オーケストラのように協業を行わなければいけないのに、それぞれが一部分しか分からないオートメーション工場のような分業になっている。
- 事実ではないことを報道したことついて、結果責任ではなくて注意義務を怠った重大な過失があると捉えるべきだ。まず、真実でないかもしれないと予見する”予見義務”をどうやって制作体制に取り入れるかという問題だ。
- 放送前に、おかしいと思うべきことが何点か分かっていたのに確認しなかった。調査報道をする際に踏むべき常道をどの程度踏んだのかを検証すべきだ。
- 検証委員会が最初に審理したTBSの事案の場合は、一人の内部告発者の証言だけで番組を作ったとすると、注意義務違反が問われたかもしれない。しかし、非常にあいまいだったけど第2の証言者がいたので、真実と信じるに足る根拠が得られたと委員会は考えた。今回はそれがない。
- 番組制作期間があまりにも短すぎる。大きなテーマなのに調査がそんな短い時間でできるはずがない。全体の責任体制もよくわからないなど、いろいろな問題がある。オーケストラの例が出たが、コンダクターがきちんとすべてを把握して指揮しないとだめだ。
- この状況下であれば、自分も同じ過ちを犯しただろう。現場のスタッフを責められない。私たちは、検証番組を作るべきだと反省のあり方を示唆してはどうか。テレビで犯した過ちはやっぱりテレビであがなう、それが一番フェアなテレビマンの反省の仕方ではないか。
- 視聴者が納得するような検証番組を制作することが大切だ。日本テレビの調査報告書、特別調査チームの調査報告書、委員会の決定文案は70%位重なっていると思う。これらは検証番組の立派な台本になる。
こういった意見を踏まえて、次回の委員会で最終決定できるよう、継続して審理することにした。
戦時性暴力を扱ったNHKの『ETV2001』
4月28日に委員会が通知・公表した「意見」に対して、6月4日にNHKから「放送倫理検証委員会の意見についての見解」が提出された。同日の記者会見において、NHK会長はこの問題に言及している。また、5月12日(1094回)と5月26日(1095回)に開催されたNHK経営委員会でもこの件は付議事項として議題に上り、NHKのホームページで公開されている議事録からも活発な議論が行われている様子がうかがえる。当委員会は、この問題についてより議論を深めてもらう材料を提供する目的で、委員会の「意見」とNHKの見解などを一冊のブックレットにまとめることにした。
道路清掃をめぐる二重行政を取り上げたTBS『情報7daysニュースキャスター』
4月11日に放送された『ニュースキャスター』で、府道と国道との交差点で大阪府の清掃車が国道を横切るときに、清掃用のブラシを上げて国道は清掃しないようにして通行する映像が二重行政の例として取り上げられた。TBSは、これが誤解を招く放送であったことを認め、お詫び放送を行った。 この事案について、委員会がTBSへ出した質問に対する回答書が提出された。その回答書をもとに議論したが結論に至らず、委員会として審議入りするかどうかを含めて、もう一度討議することにした。
バラエティー番組の問題点について
バラエティー番組全体に見られる放送倫理上の問題点を委員会としてどう扱うのかというテーマについて、担当委員から2つの案が提出された。俎上にのっている個別の番組について問題点を整理し、具体的に議論することが必要である点では一致したが、方向性についてはひとつの案に絞り込んだ上で、引き続き検討することにした。
<主な委員の意見>
- バラエティー番組は時代と共に変貌する。それに伴い、バラエティー番組に関する問題も反復して発生する。どうして、制作者は過去の事例や他局の事例に学ぼうとしないのか。
- 放送倫理を問うときは先に判断基準があり、その基準に違反しているかどうかを検証するプロセスを経なければならない。バラエティー問題については、判断基準としての、民放連の放送基準に言及すべきではないか。
- べからず集ではなく、おもしろいバラエティーを作るにはどうすればいいのか、という考え方を示してはどうだろうか。ルール的なものは多すぎないほうがいいわけだから、あまり書き込むべきではない。
- 制作しているセクションがどこであっても、バラエティー番組と標ぼうしている限りは全て対象に考えるべきだ。いろいろなジャンルが混ざり合ってバラエティー番組は成立しているのだから、軸足がどのジャンルにあるかは問題にすべきではない。
- 風刺がきき、毒がなければバラエティーではない。常識を破ってこそバラエティーだ。制作者は放送倫理のギリギリを狙っていると認識することも大切だ。
昨秋以降の委員会で俎上にのせた何本かのバラエティー番組をまとめて検討しなければならず、重いテーマなので十分な時間をかけて議論すべきだという意見が出された。そこで、7月に臨時委員会を開催し、バラエティー番組を集中的に議論することにした。
以上